籠の鳥
ディオのパーティーは久しぶりに少し遠いところまで遠征をしていた
今回の彼らの目的地はネフロイトより西側にあるエスメンという小さな廃村である
「3人で出掛けんの久しぶりだな!」
使徒の統治が終わった日から今日まで、3人はネフロイトの防衛に従事していた
それはあの後、理由は分からないが魔女害の報告がかなり減ったことも影響している
だからと言って、3人が暇だったかといえばそういうこともなく
「にしてもよ…俺ぁファーレスはやっぱ嫌いだけどよ
フルールも嫌いになっちまったぜ」
ニゲラで多くの人々が死に絶え、廃村となった村の数はとんでもなく多い
そういった場所は魔物やフルールの根城になってしまっており
拠点を手に入れた彼らは、まだ生きている都市などを狙って略奪や攻撃を繰り返していた
それらを退けるために、ネフロイトでも戦える者は交代で街の防衛に当たっている
「…人間にフルールが嫌われてんのスゲェ分かったっつーかさ
そのクソ盗賊団の根城を潰しに行くのは分かんだけどよ
俺ら3人でやれって、あのモジャモジャ控えめにクソじゃねぇか?」
ラビッシュはぺっと道に唾を吐く
「俺が断ったんだ、俺たちだけで行くって」
「何でだよ!」
「守りきれないから」
今回行く場所は確かにフルールの根城だと聞いていても
少し前にサモーズであった事を踏まえると
ミーティアだけならともかく
人間をパーティーに複数人入れて行動するのは得策ではないとディオは考えていた
「所でさ、ディオの方はどうなの」
ミーティアの質問にディオは不思議そうに首を傾げた
「領主さんの護衛だよ
どう?大丈夫そ?」
ディオがクラウスに恋愛感情を抱いているというのを聞いていたので
同じ建物に住んだりして、悩んだりしていないかという心配をしていたのだ
「え?大丈夫だけど?」
「つかよ、お前モジャモジャの家に行っちまうし
最近ミーティアも全然家に居ねぇし
お前ら何なんだよ…!」
ディオがクラウスの部屋に移動して少しした頃から
ミーティアは彼氏が出来たらしく
寝るためくらいしか家に戻らなくなっていた
「ちゃんと仕事はしてるし、ラビッシュには関係なくない?
私だっていつまでも子供じゃないし
ディオだってそうだよ、子供離れしたら?」
「はぁー!?別に寂しいとか言ったんじゃねぇよ!?
俺は保護者としてお前らの事をな!!」
「あ、ラビッシュ寂しいの…?
ご、ごめん…俺、でもクラウスさんも家族だから…」
オロオロとラビッシュを気遣うディオに
ミーティアとラビッシュは不可解なものを見るような表情で彼を見上げた
「雇い主じゃなくて、家族?」
「うん?家族だよ…?…あっ!違っその!」
慌てて言い訳をしようとする彼の身体を、ラビッシュは素早くよじ登り
巻かれていたマフラーを引っ張り無理矢理彼のうなじを見た
「テメェ!!こりゃどういうことだ!!」
ディオのうなじには、クラウスが付けた歯形(番の証)がくっきりと刻まれている
「やっやめて!ごめんなさい!
せ、説明するから…!ご、ごめんなさい!!」
・
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観念したディオは、2人にこれまでの経緯をかい摘んで説明した
「幸せならよかったじゃん」
祝福するミーティアに対して、ラビッシュは否定的であった
「見せ物小屋の時みたいに毎晩酷い事されてんだよな?
俺らに言わないように脅されてんだろ!?」
「し、してない!
クラウスさんは俺が嫌がることとか、痛いことはしない!
ラビッシュやミーティアと居る時と殆ど何も変わらない!」
「んな話信じられっかよ!」
「本当だって!キスはするけど…
俺が誘わなきゃ手なんて出されない!」
ディオは喋るのが上手い方ではない
ラビッシュに責められ、言葉を返すたびに
プライベートが漏れてしまうのをみて
ミーティアがラビッシュを小突いた
「いって!何しやがる!!」
「もうその辺にしときなよ…可哀想じゃん」
そう言いながらミーティアは進む先を指差した
そこには雑に組み上げられた櫓があり
上には誰かが居るのが見えた
櫓の上に居たのはフルールの盗賊だった
この先に進んだ廃村は矢張り彼らの縄張りになってしまっているらしく
捕らえた犬ベースのフルールに情報を吐かせた後に息の根を止める
「規模的に中程度だ」
フルールの首を切り落とした斧の刃を拭きながらディオは廃村の方へ目を向ける
「あまり頭は良くなさそう、櫓の建て方も場所も残念だし…
上に置いてた見張が近接って段階でもうね」
ミーティアはいつでも打てるように弓の弦などの最終確認をし、近くの丁度良さそうな木を見つけ2人に合図した
「…しゃ!ぶっ潰すか!!」
ラビッシュの号令でミーティアを除いた2人は廃村に突撃を開始する
見張りの遠吠えに呼応し、崩れ掛けた建物からワラワラとフルールが出てきた
ディオは群がる盗賊達の頭に、手当たり次第に手斧を振り下ろし
ラビッシュも機動力を活かし戦場を掻き回す
ミーティアは木に潜み、矢を射かけることで2人を援護した
「…全滅したかな」
辺り一面は血の海と化し、息絶えた盗賊達の遺体の中心でディオは辺りを見渡した
立っているのは2人だけだったが
急にラビッシュが人差し指を口に当てシッ!と息を吐く
「物音がするぞ…まだ潜んでやがる」
幾つかある建物から一つを指差し、ラビッシュは毛を逆立てた
離れた所にいるミーティアに手でサインを送り
ディオとラビッシュはその建物に近付いていく
崩れ掛けた建物を補強したのか、接木で不恰好になったそこは
フルールの住居でもあったようで
獣臭が充満し、汚れた寝床が幾つもあった
そして、その奥に物音の音源があった
縄でぐるぐる巻きにされ、ボロボロの着衣に汚れた床に転がされた1人のメルザーガ人
全体的にメタリックな青や緑の羽を纏ったその人は、虚な表情でヒューヒューと細い呼吸をしていた
「おいディオ!メルザーガだ!!」
ラビッシュの声に反応し、ビクッと身体を縮こまらせるメルザーガ
「あの盗賊達に捕まったんだ、助けないと
俺、ミーティア呼んでくる!」
治療薬など、ポーション類は主にミーティアが管理しているので
この場をラビッシュに任せ、ディオは外へと飛び出した
最大限に身体を小さく丸め、震えるメルザーガに近付いたラビッシュは
その身体を縛る縄を解くために手を伸ばす
「…グランマトカ(母なる大樹)…どうか哀れな雛鳥に救いを…」
ブルブル震えながら口の中で救いの呪文を唱えるその人
ラビッシュは自分が盗賊達と同じフルールであり“仲間”だと思われている事に胸がひり付いた
「…俺はフルールだけど盗賊じゃねぇや
人間領での市民権だって持ってる
信じらんないだろうが、てめぇを助けてやるってんだ」
ナイフで縄を切り拘束を解いた時に、ミーティアとディオがやってきた
廃村に出来た盗賊のアジトに囚われていたメルザーガ人の傷に応急処置を施した頃
日も傾き暗くなり始めたので、今日はここで一晩を明かすことにした
「私はハダル、ガーデンホープの行商人です」
行商の最中、翼に痛みを覚え下に降りた所を
あの盗賊達に襲われ閉じ込められていたらしく
正確な日数は分からないが、もう7度は日が沈むのを見たといい項垂れた
彼の運んでいた商品や、彼の私物は見当たらず
恐らく盗賊達によって売り払われてしまったのだろう
「私達は日が登ったら帰るけど、あなたはどうするの?」
盗賊達がアジトに蓄えていた食料品で夕食の支度をしながらミーティアが聞く
「商品も無くしてしまったし…
出来るのなら国に帰りたい…」
焚き火の光に当たりながら、弱々しく言うハダルだが
数日に及ぶ盗賊団からの監禁と数々の暴力のせいで
腕(翼)など数ヶ所を骨折しており
食事もまともに与えられていなかった為に痩せこけ、とても1人で何処かに行けるような状態ではなかった
「一度、ネフロイトに連れて帰ろう
クラウスさんには俺から言うから」
「まあ、それが妥当だわな…モジャモジャの力を借りるってのは癪だけどよ
お前もそれでいいよな、自慢の羽は使えねぇんだし」
ほら、と沸かしたお湯で濡らし絞ったタオルで血液や体液で汚れた
ハダルの尾羽を拭きながらラビッシュもこれに賛成したのだった




