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誰のために

「こんばんは、お勤めご苦労様」

ネフロイトの自警団舎を急に訪れたクラウスに

自警団員達は驚きながらも敬礼をした

「領主様が自ら…このような時間に一体どんなご要件で?」

対応する団員は普段あまりないことに

たじたじしながら訳を伺う

「果樹園荒らしが捕まったって聞いてね

ボクもちょっと話を聞いてもいいかな?

ほら、今後の対策にも繋がるしさ…」

ここへ来る前に買ってきたちょっとした差し入れを差し出し

駄目かな?と団員に問いかける

「…私では…何とも…」

困ったように言葉を濁す団員に、更に頼み込もうとした時に、奥から警務長が出てきた

「おいおい、領主様

あまり若い奴を揶揄ってやるなよ

俺に直接聞きにこりゃいいだろ、なぁ?」

「ははは、ごめんごめん…

で、会わせてくれるの?」

「17日にマダムルビーが盗まれて、このフルールがマダムルビーを果樹園近くで所持していたところを拘束した

コイツはあんたが“鳩”で調べるように言ったフルールだろ?

あんたの言う通り、前科持ちだったぞ

本人は否定してるが、かなり昔にラビで野菜泥棒して捕まってる

ただ、あのふざけた名前は偽名じゃなかったがな」

警務長がラビッシュについて分かっている事を話しながら、クラウスを地下の勾留所へ案内した

薄暗く空気の澱んだその場所の、一番奥の檻の中に彼は居た

手と足を枷で繋がれ、地面に横たわり

ストレスから毛並みはボサボサになっていた

足音に気がついた彼は、虚な目でクラウス達を見る

「…ハッ…なんだよモジャモジャ…笑いに来たか…いい気味だろ…なあ」

「やれやれ、こんな状況でも可愛げがないなフルールは」

警務長は、あまり近づき過ぎないようにと念を押し

クラウスを地下に残して戻って行った

「…何しに来たんだよ…」

「ディオに頼まれて来たのだが、必要なかったか?

それなら帰らせてもらうよ

私もそう暇ではないからね」

「…!まっ待て!…それは…助けに来たってことか…!?なあ!?」

「あー…どうだろね、君次第だよ」


ラビッシュは身体を震わせながら起き上がると、これまでに起こったことを話し始めた

「お前がディオを連れて行ってから少しした時だったと思う…」

クラウス達がエルカトルに向けて出発した次の日から

ネフロイトでもレプレイスの前夜祭が始まった

エルカトルでもそうであったように

この期間、さらに輪をかけて獣人へのあたりは強くなる

なので獣人達はこの期間中、人間に遭遇しないように形を潜めるのだが

この決まりがラビッシュは大嫌いだった

ミーティアが止めるのも聞かず

「俺はここに市民権を持ってんだ!」

と、町へと繰り出しお祭りを堪能していたのだという

勿論、領民達からの視線は良いものではなかった

石を投げて来る者もいたし、お金を十分に持っていても物を売ってもらえなかった

そういう人達にいちいちキレ散らしながら、その日も露店をからかっていた

「…りんごを…売ってくれた露店があったんだ…真っ赤なやつ…

りんごは…ディオも好きだから…

ぼられてるのは分かってっけど…」

不当な金額のりんごと分かっていながら

ラビッシュはそれを買って、家に向けて歩き出した

4つ買ったうちの1つを齧りながら、仲間の喜ぶ顔を想像してニヤついた

「そしたら…急に、道の脇の果樹園からファーレスが沢山出て来て囲まれたんだ…!」

何人もの武器を持った領民に囲まれたラビッシュは、なす術もなく

袋叩きにされ、拘束されて檻の中に入れられた

彼がどんなに、りんごは買ったものだと主張しても、泥棒め!と痛めつけられる

「俺はやってねぇ!!本当だ!!

やっと手に入れたんだ…!

やっと、やっとアイツらがまともに暮らせるのに…ぶち壊す真似なんてしねぇよ!!」

悲鳴にも聞こえる訴えに、クラウスは腕組みをしたまま唸る

「…確かに、まあ、君の話だけを聞いたら冤罪だな

ラビッシュ、正直に答えなさい

お前は前科があるな?

提出書類には“ない”と書いたのは何故だ?」

「だっだって…前科があったら、俺達を追い出しただろ!?

その前科だって俺はっ俺は騙されて…!

だから、“ない”って書くしかねぇじゃねぇか!!」

「確かに、その内容によっては追放もあり得るだろう

ただ、重要なのはそれだけじゃない

あの欄は誠実さも計っていたんだ

お前はあそこに“嘘”を書くことで、私たちからの信用を得られなくした

分かるかい?それがお前の罪だよラビッシュ」

クラウスの厳しい叱責に、ラビッシュは床を見つめて絶望する

「…けどまあ、相手が獣人だからといって虚偽の申告をし、冤罪を作り上げるのも重罪だ

君はもう暫く、その中で自分の罪と向き合い反省していなさい」



ラビッシュの記憶は、35年前に突然始まった

本当にある日突然、そこに降って湧いたように彼は生まれたのだ

一糸纏わず、右も左も分からない森の中で1人きり

「ここは何処?…お腹空いた…」

激しく混乱しながら、ただ生きなければと、彼は食べ物を探して彷徨った

そして、そんな日々を過ごしていたある日

自分と同じフルールに出会う

そいつは自ら“キング”と名乗り、彼を群れの仲間に迎え入れ

衣食住を提供し、“ラビッシュ”という名前を与えた

色々なことに慣れて来た頃

ラビッシュは仕事を割り振られる

「俺達の仲間で居たいなら働かないとダメだ、安心しろ、そんなに難しい仕事じゃないさ」

キングはラビッシュを含めた、新しく仲間になった者達を集めこう説明した

「森を出て少し行った所に、俺達の畑がある

お前達はそこから丁度食べ頃のを収穫してくるだけでいい

一つ注意がある、ファーレスっていう害獣が俺達の畑の食料を盗もうと狙っていることがある

奴らは強いから、無理に追い払おうとしないで逃げていい

食料は大事だが、お前達はもっと大事だからな」

みんな彼の言葉を信じて野菜の収穫に行った

そして、ラビッシュを含む数人の仲間はファーレスに捕まった

「この薄汚いフルールめ!!

俺たちが一生懸命作った物を何だと思ってんだ!!」

牢屋に押し込められ、来る日も来る日も

不思議な匂いの立ち込める部屋の中で

ラビッシュはギリギリ死なない程度の拷問を受けた

何ヶ月もそうして痛めつけられ、もういっそ殺してほしいと願い始めた頃に

突然、ボロ雑巾の様な状態のラビッシュは道に捨てられるように解放されたのだ

それから、一切人間の物に手を出したりはしていない


そこには人間に対する恐怖もあるが、ディオに胸を張れる大人でいたいからという

彼なりの意地があったのだ

ぼんやりと、地面を眺めながら

昔のことを思い出していたラビッシュの耳に、ガチャンと牢の鍵が開く音が届いた

顔を上げると、そこにはディオがいて

ボサボサになって汚いラビッシュを躊躇わずに抱きしめた

「ああっこんなになって!

ラビッシュ…ラビッシュ…!」

「…ぉおい…イテェって…」

ディオは大粒の涙を流して泣いている

そんな2人の横に、スッとクラウスがしゃがみ込んで

ラビッシュの手、足枷の鍵を回した

「お前の無実は無事に証明された

ディオによくお礼を言っておくんだよ」

「…ケッ…わざわざどーも…」

お礼というにはあまりにもお粗末な言葉に

クラウスは冷たい視線を送って立ち上がった

「ああ、そうだ

マダムルビーの窃盗は無罪だが

虚偽の申告の件はちゃんと償ってもらうからね

処分については追って知らせるから覚悟しておくように」

「…やっぱ、俺、お前嫌いだわ…」

「へぇ奇遇だね、ボクもだよ」

ボロボロのラビッシュに肩を貸して

ディオは暗くなった道を家に向けて歩いていく

「…ありがとな、ディオ…

けどよ、モジャモジャじゃない他の奴に頼れなかったのかよ…」

「無理だ、領主様だってかなり無理してくれたんだぞ!

ラビッシュが人間嫌いなの分かるけど、今のままじゃやっていけない!」

ディオが珍しく本気で怒ったので、ラビッシュは面食らった


彼がいうに、あの後クラウスは

ベルタやとある魔術師の力を借りて

強引な証拠集めと、確かな証言の引き出しを行ったという

結果として、数名の領民達が計画的に仕組んだ事だということが明らかになった

彼らが犯行に及んだ理由は

フルールの度重なる果物の窃盗による恨みが根底にあった

そこへ、フルールであるラビッシュが市民権を得て我が物顔で町を歩く姿

レプレイスの期間中でも外を彷徨いていたことに遂に怒りが抑えられなくなったという事だった

「町を歩きながら人間に当り散らしたりしてたのが返ってきたんだ…

…人間が許せないのは知ってる

俺だってまだ人間が怖い

でも、ここで生きていくならもっと歩み寄らないと」

「…でもよ…俺は…俺が悪くないと…

俺が悪ければ悪いほど、ヘイトは俺に集まる…

お前達を守れる…そうだろ?」

ラビッシュは泣きそうな顔をしていた

そんな彼の両肩をを強く掴み、真正面から目を見てディオは強く訴えかけた

「俺はもう生まれたての赤ちゃんじゃない!

ここはあの見せ物小屋の小さな檻でもない!

もう自分を犠牲にしなくていいんだ!!

俺たちは幸せになっていいんだよ!ラビッシュ!」

「ディオ…ごめん、ごめんよぉ!!」

2人は身を寄せ合い、気が済むまで声を上げてわんわん泣いたのだった…

それから3日経ち

ラビッシュはクラウスに呼ばれ、庁舎まで来ていた

毛並みもすっかり元に戻ったラビッシュはその態度は、以前に比べて大人しく

けっして褒められたような物ではないまでも、すれ違う役人に「うすっ…」と挨拶出来るようになっていた


執務室で待っていたクラウスは、ラビッシュが来ると

一枚の紙を取り出し、読み上げる

「ラビッシュ、魔女狩り任務が無い日は

果樹園で一年間の奉仕活動を命じる

…それが君に下された処分だ」

クラウスは命令書をラビッシュに差し出す

「果物泥棒に仕立て上げられた奴を

果樹園でこき使おうなんて、クソみたいな嫌がらせだな」

「トルビナ果樹園じゃないから安心するといい

君もここに暮らすなら、ネフロイトの果樹園が置かれている境遇をしっかりと知るべきだ

我々がどうしてフルールをここまで嫌うか

…人間側の立場に立て実際に感じなさい」

「へいへい、わぁったよ…!」

ラビッシュはクラウスから命令書をひったくると、プイッと背中を向ける

「偉そうにいうぜ、俺らがどういう目にあってきたかも知らない癖に」

聞こえないように小さく毒付き、彼は執務室をでた


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