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領主の力量

本編NOSIRPから

ワピチの憂いの続き

ホルツマン邸宅の大きな鉄門を潜ったクラウスは、街の賑わいに首を傾げた

「…今日って何かイベントだったか?」

思わず手帳を開き、確認するが

特にこれと言ってお祭りのある日でもない

しかし、大通りの脇には出店が出ており

明らかに別の領土から来たであろう人達がそれらを買い求めているのだ

何となくその場の雰囲気に流されて、彼も出店でホットスナックを購入し

庁舎に向けて歩を進めた

「あ、ホルツマンさん!おはようございます

いやーすごい賑わいですね

まさかこんなに人が集まるなんて思ってもみませんでした」

庁舎の入り口で待ち構えていたようにベルタが手を振って駆け寄ってくる

「今日って何のお祭り?あ、これあげるよ」

「わーい!ねじり揚げパンだ!

てか、やだなぁ…今日は魔女狩り専属公務員の試験日ですよ」

「うん、それは知ってるし

そのつもりで来てるよ」

ここまで言ってクラウスは気がつく

明らかに領民ではなさそうな人達は

魔女狩り公務員の応募者ではないかと

「おはよぉ、ホルホルぅ〜今日の応募者ざっくりとした資料をまとめておいたよぉ

まだ始まるまで時間があるから、読んでくれると嬉しいなぁ〜」

庁舎の事務室の窓から、おっとりとした胸の大きな女性が叫んでいる

「エマさんがまとめた資料100頁くらいありますよ!

100パーティーも集まったって思うと納得の賑わいですよね」

「わぁ…読むだけで疲れそう」

想像してもいなかった応募数に、今になってクラウスはやめたいなと内心思った

庁舎の広い庭には、時間前だが既に応募者が集まり始めていて

そんな彼、彼女らを横目に通り過ぎていく

(…あぁ、殆どダメだな)

荒くれ者という風貌の者も多く、果ては獣人までいる

こんなに集まるのなら、もっと条件を厳しくしても良かったなと

ひどく後悔したのだった

流し読みだが、何とか時間までに資料に目を通し切ったクラウスは

眼鏡を机に置き目頭を押さえギュッと目を瞑って暫く動かなかった

「そろそろお時間です」

そんな彼に、執事であるエドアルドが声を掛ける

「ああ、ありがと…始めようか」

執務室からバルコニーに出ると、庁舎の庭は応募者でひしめき合っていた

えー、と声の調子を確認してから応募者に対して挨拶と説明を行う

「魔女狩り専属公務員への応募ありがとうございます

私がこのワピチ領主のホルツマンです

ご覧の通り、採用枠に対して多すぎる程の応募をいただき有難い限りであります

つきましては、これより採用試験を開始させていただきます

第一審査は実技試験

ルールは此方の貸し出す専用の武器を使い

ゴーレム、そして私と手合わせしていただきます

武器の種類は多種多様用意しているのご安心下さい!

格闘家など、素手での近接の方にはグローブを用意しています

これらの武器は滅茶苦茶痛いけどダメージが通らない付呪が施されているので、安心して攻撃して下さい

尚、私やゴーレムの攻撃はヒットすると、非常に強力な睡眠状態になるので

その状態になってしまった方は残念ながら問答無用で落選となります

それでは!頑張って!」

会場が騒めいた

「えっ?え?試験は私の特性魔女っ子ゴーレム“アッコさんX”だけの予定だったよね!?

ホルツマンさんが戦うの??本当に?」

ベルタはこの日の為に造り上げた自慢のゴーレムの隣で素っ頓狂な声を上げた

それ以外の役人達も、打ち合わせになかったホルツマン自身の参戦に慌ただしくなる

「おい、あいつが領主だってよ

全然強そうに見えねーぞ、大丈夫かぁ?」

「楽勝じゃない?」

応募者の方も言いたい放題である

「旦那様、本気ですか?」

「冗談に聞こえた?いやぁごめんごめん

グレーゾンっていうの?

数組…確実に落としておきたいのがいるからさぁ」

エドアルドは不安そうに耳打ちしたが

クラウスは余裕の表情を彼に見せた


一つ目の試験である魔女っ子ゴーレムはベルタの自信作だ

普段の彼女の業務は、農耕ゴーレムの生産管理と運用

後は公的な魔術師としての雑用程度で

周りからの評価は、王都から来た大食いの若い魔術師、程度の認識だった

しかし、実のところ彼女は世界的賢者バイロン・マルクスを師に持つ

無機物に術式でプログラムを書き込み

生き物のように操るプロフェショナルであった

そうとは知らない応募者達は

見た目の割に、素早くかつ複雑怪奇に動き回るゴーレムに圧倒され

約6割の応募者が選考から落ちる事になる

「口ほどにもないわねー!

たかがゴーレムされどゴーレム!

出直してくるのね!」

「クソォ!土塊のくせに!」

応募者の捨て台詞が響く


「ホルホルぅ〜お嬢さんが来たわよぉ?」

執務室のバルコニーから、試験を観戦していたクラウスの元に

エマが2人の少女を連れてきた

「ああ、ありがとう

ディアナ、コリーンよく来たね」

美しい長い黒髪と透き通るような白い肌のディアナは今年18になるクラウスの長女で

ディアナよりも優しい雰囲気の長い癖っ毛を編み込んだ可愛らしい少女はその一つ下のコリーン

2人とも整った顔立ちであり、美人に違いなかった

「あの人達が魔女狩り専属公務員?」

「候補だよ、ボクとの戦闘でもう半分落とすつもりだ」

最後の応募者達が、ゴーレムに叩きのめされたのを見てクラウスは腰を上げた


ゴーレムと戦って残ったのは40組程

バルコニーから降りてきたクラウスと

そのバルコニーから見下ろしている美女2人の出現に会場が湧く

娘を差し出すと言い出したのはクラウスだが

目の前に集まった、ならず者風の男達が目を血走らせ鼻息を荒くしているようすが

面白くなかったのか、明らかに不愉快そうな表情をしている


クラウスと入れ替わりにベルタがバルコニーに上がってきて

その場にいたエマに不服そうに話しかけた

「エマさん、ホルツマンさんが参戦するって聞いてました?」

「え〜聞いてないよぉ?」

「てか、戦えるんです?ホルツマンさん」

普段の彼といえば、庁舎で事務仕事に追われているか

休憩室のソファーでだらしなくしているばかりで、勇敢に戦っている姿が想像できない

「父は、強いですよ」

懐疑的なベルタにディアナは一言告げた

「彼の方も伊達に領主ではありません

毎日、鍛錬をなさってますよ

ただ、彼の方の戦い方は少し…」

エドアルドが眉間に皺を寄せる


ーガキィン!


会場に金属の鋭い音が響き渡り

応募者側の剣が一振り、空中に弾き飛ばされ地面に転がった

「うん、スジは良いんじゃない?」

クラウスは目の前の戦士にそういうと

後ろで魔法の詠唱をしていた魔術師目掛け、自らの剣を投げた

それは魔術師の杖に直撃し、勢いよく弾き飛ばす

「自分から武器を投げるなんて…ははは馬鹿だなぁ!?」

格闘家崩れが技をかけるために素早く近付いて来たが、クラウスは彼の繰り出す全ての攻撃を軽々と避けていく

そして、背後に回り込んだかと思えば

非常に短い詠唱の後、格闘家崩れの首筋を人差し指で突く

「ぐぎゃあ!」

格闘家崩れは短く悲鳴を上げ地面に倒れ

ぐおーぐおーとイビキをかき始める

クラウスはヒーラーの横に落ちた自らの剣をヒョイっと拾い上げ

まだやる?とリーダーである剣士に微笑んだ


「今のって」

「主人は両腕に魔法の術式を書き込んでいます」

利き手に電流、もう片方に強化バフ

これらは非常に短い詠唱により発現する

更にバフは、彼自身の体質“魔力耐性マイナス”のおかげで2倍になってかかる

「魔法攻撃にはとても打たれ弱い反面

魔法が効き過ぎる事を利用して身体を何倍にも強化するんです

素早さと力にバフをかけトリッキーな動きで翻弄する

しかし、これには弊害があって…」

「待って!そ、それって、魔法攻撃当たったらマズイんじゃ

むっちゃ痛いが、むっちゃくちゃ痛いって事ですよね!?」

「ああ、心配には及びません

私、エドアルドが主人の盾に…」

言い終える寸前に急に彼の顔の横の空間が歪み

空中から拳が飛んできてヒットした

頬を突然強打されたエドアルドは、勢いのまま一回転しバルコニーの手すりに強かに背中を打ちつけ止まった

その様子に、ベルタも2人の少女も顔を青くした

「…安心して下さい、私、タンクです!///」

「出来るかー!!」

ベルタの鋭いツッコミとエドアルドの清々しい笑顔に驚いたコリーンは、慌てて医局にヒーラーを呼びに走った

「このように、主人に対してスキル“身代わり”を使用しているので心配いりません!」

「まだ現役なのねぇドMちゃんったら」

エマは知っていたようで、特に動じず

会場から「おいコラ!エドぉー!」と叫ぶクラウスにニコニコしながら手を振りかえす


この後も、エドアルドは何度も勝手に主人の代わりに攻撃を受け

全ての実技試験が無事に終了した

最終的に残ったのは5組のパーティー

あれだけの人数が集まっていても、本当に実力のある者は数名だったのと

実力はあっても、クラウスが落としておきたい者がそれなりに多かったという事だ


最後の試験は面接で、1時間後に庁舎の中で行う旨を残ったパーティーリーダーに伝え

クラウスは面接に備える為に執務室に戻ろうと庁舎の玄関に踏み込んだまま

前のめりに倒れてしまう

「領主様!?大丈夫ですか!?」

すぐに近くの警備達が駆け寄って彼を助け起こす

「あー…バフが…魔力切れだ…ごめん動けない

面接…ジェシカ…書記に面接を頼んで…

ボクは…動けないから、何処かに転がしといてくれないかな…」

クラウスの目が覚めた

身体中が痛んで首も動かせないので、目だけを動かして辺りを確認する

時計は既に午後19時を回っており

面接はとっくの昔に終わった事になる

「…誰かいる?」

声を上げると、暫くしてエマが部屋に入ってきた

「はぁ〜い、ホルホルおはよぉ〜」

「面接ってどうなった?」

「ジェシーがぁ、2組まで絞ってぇ

後はお嬢様が決めたわよ?

なんならぁ、今そっちの部屋で合格したパーティーのリーダーとお喋りしてたのぉ

呼んでくるぅ?」

頼まれるとエマは部屋を出ていき、暫くの間をおいて若い男を1人連れてきた

若い男は、頭にバンダナを口元をマフラーで隠していてよく見えないが整った顔をしているのは確かだった

彼は、ソファーに寝転がったままのクラウスの横まで来ると跪き頭を垂れた

「オレ…わ、私のような…下賎なものを領地に置いていただき!その!光栄です!

お、私、ディオはワピチの為に命懸けで魔女を退けます!」

クラウスは、なんかすごいの来たなぁ、と思いながら

動けないので視線だけを彼に落とす

「そんな畏まらなくていいよ、ボクなんて寝転がったままだし

それに下賎だなんて卑下するのも止そうか

君はあの応募者の中からこの権利を勝ち取ったんだからさ」

クラウスからの言葉に若い男、ディオは感極まり床に平伏した

「なんて…慈悲深いお人だ…!!

ああ!神は見ていて下さった…!」

「え?なに?今どうなってるの?

彼見えなくなっちゃったよ?」

ソファーに仰向けで寝かせられているクラウスからは、床に平伏したディオの姿は見えない

「んん〜ディオちゃん、ホルホルは疲れてるから続きはまた明日にしましょ!

先にあっちに戻っててねぇ?」

「あっ!そうですよね!すみません!」

何度も頭を下げてディオが出て行ったのを確認してから、エマはニコッとクラウスに微笑む

「彼、奴隷の出身か何かかい?」

「そうねぇ、奴隷だったみたいよぉ?

獣人S型だから酷い目にあってきたでしょうねぇ」

「…獣人?え?」

「やっぱりぃ?気付いてないと思ったのよぉ

彼の資料にちゃ〜んと書いてたのよぉ?

ほらここぉ、リグマンS型って

誰が見ても獣人って子達が何人も居たから気が付かなかったのよねぇ?

ま、S型自体希少すぎて私も初めて見たんだけどぉ」

エマはそう、クラウスが採用試験を始める前に流し読みした資料の一部をぺらぺらと彼の目の前で揺らした

「亜人は…しまったな…どうしよう」

実技試験の時に、亜人のリーダーも全力で落としていたクラウスは

採用されてしまったリーダーのディオが亜人だと知って顔を歪めた

「あらぁ、何か不都合でもあったのぉ?

私も亜人よぉ?忘れちゃったのぉ?」

「君は亜人といってもハーフエルフだろ」

「ハーフエルフとリグマン、何が違うのぉ?」

不思議そうにする彼女にクラウスは小さく呟くように答えた

「ええ…だって孫は?ボクの孫…

それに、爬虫類は苦手なんだよ…」

リグマンは爬虫類によく似た亜人である

「え〜でもS型よぉ?」

このS型というのは、獣人を分類する時の一つなのだが

どれくらい人間に近いかという指標での分類になる

C型は動物を二足歩行にしただけのような一番獣に近い姿で圧倒的に数が多く

R型になると人間と獣を丁度よく混ぜたような容姿で、C型の半分程度の数になり

S型になると、ぱっと見では獣人に見えない場合もあるり非常に希少となる

その希少せいのせいで同族には差別され、人間には奴隷にされる者が後を立たない

「ねぇ、あの子いい子よぉ?

あんなに喜んでるんだもの、今更無理はないわよねぇ

ダメ元で1ヶ月は使ってみてよぉ

それにね…」

彼はクラウスの娘達との婚姻を辞退したのだと付け加え、エマは部屋を出て行った


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