episode Ⅱ~2
結衣・・・。
僕は夢を見ていた。
懐かしい夢。
あの頃・・・。
高校を卒業した18歳の僕は 大学へとりあえず進学した。3流大学の経済学部。
しかしその大学すら 僕は3日で行くことを辞めた。 簡単な理由だった。
春休みからはじめた飲食のアルバイトが 大学が始まってもなお勤務シフトが一杯だったし なによりも進学を決めた当初から僕の目的は大学へ行くことじゃなかった、歌うこと。
僕は進学と同時に実家を出て 中野坂上にワンルームのアパートを借りた。 借りたといっても契約は親、家賃も半額出してもらっていた。 その代わり 大学に通いながらアルバイトをすること ということが親からの条件だった。
そんな親との約束も無視しながら僕は アルバイトに明け暮れ 何度もメンバーチェンジを繰り返しながらもバンド活動に没頭していった。
そして18歳の夏 マサとハルに出会った。
『お前の作った曲といい、お前の歌い方といい・・・ 攻撃的だなぁ・・・。
でも・・・良いぜ。
近頃じゃ少なくなったバンドの中のボーカリストとしての声とノリ、そして楽曲だ。
歌の上手い奴は大勢居ても ロックバンドのそれじゃなきゃ意味が無いだろ?
お前は最高さ!
おれ等と最高のロックをやろうぜ、
勿論目指すのはメジャーシーンのロック革命さ』
あの日、僕は当時の自分の組んでいたバンドのライブの終わった後に そうマサとハルに声をかけられた。
JR中野駅の近くに 結衣もまた実家を出てワンルームを借りていた。
昼はファーストフードでアルバイトをしながら 週2日 有名劇団の主宰する養成所へと通っていた。 そして機会があれば自ら新人女優発掘オーディションに応募し夢である女優を目指していた。
“ 君、モデルでならイケるんだけどねぇ・・・ ”、新人女優募集のオーディションを受けては結衣はいつもそう言われては 結局いつも落選して帰ってきた。 つまり女優としての将来の資質よりも、今の結衣のその外見・・・モデルのような容姿の彼女の外見がオーディションの審査員の目にはどうしても特化されてしまうのだろう。
落選の度に結衣はこう言った。
「私が本当にそんなに綺麗だったら・・・
だったら ちゃんと演技力さえ身につければ
絶対に女優さんの名に恥じない綺麗な女優さんに慣れるって事よね?」
そうやって話しては彼女はいつでも笑顔を絶やすことは無かった。
その環境が また更に彼女の美しさに“ 強さ ” という美しさを加えていく。
18歳とは到底思えない、僕がどんどん“ 幼稚化 ”していくのとは真逆のほうへと結衣はいた。
「私、あと3年頑張ってみて 駄目だったらモデルさんからスタートでもいいかな・・・」
そう話す彼女もまた今を何の苦労とも思わずむしろ楽しんでいるようにさえ僕には見えた。
「でもね・・・、
レイジのほうが絶対に私なんかよりも先に自分の夢 叶えられるって信じてるからね」
それも彼女の口癖だった。
僕らは週の半分のほとんどを互いのアパートで過ごした。
どちらかといえば僕が彼女のアパートへ居る時間のほうが多かったかもしれない。
半同棲だった。
僕の作った歌をいつも最初に聞いてくれたのは いつも結衣だ。
彼女の演技の勉強の相手を務めることもまた最初は僕だ。
夢を語り合い、互いを尊重し、そして一歩ソコから離れた時は まるで子供のように笑い話し、僕らは過ごした。
彼女の作る手料理も大好きだった。 二人ともアルバイトで生計を立てていたため贅沢なんかできやしない暮らし。 それでも彼女の作る些細な普通の家庭料理が僕は大好きだった。
あるとき彼女がグラタンを作ってくれた。
「うめぇ!」 そう叫んだ僕はその日何時間も結衣の作ったグラタンについて 彼女に語った。
「レイジ 褒めすぎだよ」
そう言いながら結衣はおなかを抱えながら笑っていた。
僕が作る歌を聞くと彼女はいつもこう言う。
「レイジは人の痛みや辛さ、楽しさでさえ
まるで自分のことのようにわかっちゃうんだよね、
もともとレイジが持っているもともとの不思議な力・・・
痛みを伴う誰かを見て 共感すると その痛みを まるで自分の痛みにしてしまう。
お人好しなのかなぁ・・・。
だからレイジが悲しい人を見て作る歌は 本当にレイジが見た悲しい人がそこにはいる。
楽しい人を見て作った歌は 本当に楽しそうに唄うの。
世の中の矛盾を見つけたら その矛盾は 私にも痛いくらい伝わる・・・。
本当に不思議な人・・・そんなレイジの歌が大好きなんだよ。
時々痛くて、でも だからこそ そこにレイジの本当の優しさが溢れていて・・・
レイジの作る歌は レイジそのものだから・・・大好き・・・」
そして僕が少し落ち込むと僕を励ましてくれた。
「大丈夫! 必ずレイジはミュージシャンに・・・
日本一のミュージシャンになれるから!
才能あるからね!」
その言葉に僕は何度も助けられた。 そして結衣の言葉だけを信じて 彼女が喜ぶ顔だけが見たくて 僕は常に前に進んだ。
結衣に対してもまるっきり 彼女がしてくれた逆のことを僕が結衣にしてやれた。
そして・・・「大丈夫! 結衣ならきっと女優になれるぜ!」
互いに励ましあえ そして向上しあえた。
そして僕らはますます互いの存在を必要とし 互いを愛した。
僕らは常にひとつだった。




