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episode Ⅰ~1

「何だって!?」

部長の杉本の甲高い声が朝の耳には答える周波数だ。


ここは 東北地方の政令都市にある営業支店だ。

東京からこの街に来て早いものでもう5年目が経とうとしていた。

藤田玲治、43歳。 

仕事人としての僕は 30代半ばでヘッドハンティングされて転職した、この国でも最大規模の企業であるアパレルメーカー兼販売店運営を行っている上場企業で 本社機構内勤職に就き、本社勤務を経て今はこの地方都市支店にある “ 販売促進企画第三営業部 ”に所属。

役職はマネージャー。

部下を数名持たされて、仕事という名の日常と格闘し続けている。 

また、女性であれば 結婚適齢期 などと言われる年齢をとうに過ぎたにもかかわらず 今だ独身。

そんな支店の、11月の、もうすぐ12月が訪れる月曜のある朝。

朝礼の終わった直後の 支店内に仕切られた支店長のデスクの前で 直属の上司である部長・杉本と、支店長の秋田に、僕は12月22日からの8日間の有給休暇を申し入れた。

「おいおい なにを言い出すんだよ、年末だぞ!

 しかも 今 君に休まれてだなぁ・・・」

杉本部長が困惑して言う。 相当に慌てている。 支店長の秋田はただ黙って僕の話を聞いていた。

「すみません 支店長、部長」

困惑してわめき散らす杉本の隙をついて支店長が 僕と部長に向けて話す。 

「まぁまぁ、杉本君、ともかく藤田の話を聞こうじゃないか。

 どうしたんだ 急に長期有給だなんて・・・。 まずはその理由を話してくれないか・・・」

「すみません、私的な理由で どうしても休暇が必要なんです。

 我侭を重々承知の上でのお願いです・・・」

杉本がその説明を聞いて更に小言を言う。 そんな部長に向けて支店長は笑顔を向けながら言う。

「杉本君、少し冷静に対処したまえ」

続けて、

「しかし 藤田・・・

 ただ私的理由とだけではさすがに簡単に許可は出来ないことぐらいお前にもわかるだろう?

 しかも年末だ。

 休暇明けでまた2日出勤で年末年始休暇になる。

 その休暇じゃ駄目なのか・・・?」

「すみません。 どうしても今年のこの時期の休暇じゃなければ意味が無いんです」

支店長は笑みを浮かべながら、それでも僕の表情を射抜くように見ていた。 

しばらくの沈黙。

「休暇の理由や 休暇の合否についてはともかく。

 どうするんだ? 通常業務より例のプロジェクトミーティングは?

 確か次月も2度 本社とのテレビ会議があっただろう?

 しかもその時期に」

「そちらのほうは部下の安井に代役でプレゼンさせようと思っています。

 彼ならずっとサポートしてくれていましたから 事情通ですし、

 それなりの能力もあるかと思いますが」

今 僕は、通常の業務の他に 支店長の推薦により 本社と全国の支店の精鋭チーム30名程度による、既存イメージを払拭させた全く新しい発想で挑む、全国展開予定の新店舗構想プロジェクト・チームに参加していた。

さらに その中でも僕は重要な役割を担っていて プロジェクトマネージャーとして 本社の人間を差し置いてそのプロジェクトを率いていた。

もう1年ほど費やしている 社期待のプロジェクトだった。 

週に2・3度のTV会議。 3ヶ月に1度 本社で行われる本社役員向けのプレゼンテーションミーティング。

そして 来年の2月には今回のプロジェクトを実際に始動させなければならなかった。

そんな大切なプロジェクトの、しかも12月のその時期だ。

支店長・部長が なかなか休みを取り次がないのも無理もない話である。。

「おい藤田、本気なのか? だめだ だめだ。 

 そんなこと簡単に許可できるわけがないだろう、

 第一だなぁ 例のプロジェクトの性質上、一応本社にも報告せねばならんし、

 なにせ休暇の時期が悪すぎるだろう?

 それに・・・安井は、肝心の安井はどうなんだ? 

あいつはもうこの休暇の話を聞いているのか?」

「いえ、今回の休暇の話はこの場が初めてですし、安井もまだ知りません。

 勿論 本社およびプロジェクトのメンバーには僕が直接話すつもりですし 

 統括役員の方々はじめ ご迷惑をかけるのであろう関係各位全て含めて 

 僕から連絡はするつもりです。。

 勿論 安井にも」

・・・

支店長も部長も無言になった。 相当僕の意志が固いと感じてくれたのか。

「なぁ 藤田、理由だけでも話さないか? 

 まさか 身内になにかご不幸でもあったか?

 ともかく、プロジェクトも大事な時期だ。 

 話せることで良いから休暇の理由を教えてくれないか・・・」

普段から温厚で知られる秋田らしい言葉だった。 

そんな人柄と かつてバブルがハジけた時代に陥った会社の危機的状況を世界中 また日本中を駆け回り救ったとされるその営業マンとしての手腕はもはや神格化されつつある支店長。

その後 社から役員待遇され 普通であれば既に経営陣の一角を収めていただろうこの人は それでも現場に拘り支店長どまりの出世にとどまっている。

もう50歳を当に越えてなお 社内だけにとどまらず社外でもその人望は増すばかりだった。 

いつだったか本社の人事部長と話す機会があった。

その時 人事部長がしきりに話したものだ。

“ 秋田支店長は素晴らしい人だよ、 あんな人が本社に戻って経営陣に加わっていただけると

  私等もやりがいがあるんだけどなぁ・・・ ”

そんな秋田と僕は、僕がこの会社にヘッドハンティングにより入社した10年前からの付き合いだ。

後に聞いた話では、採用の面談の その場に居合わせた秋田自らが僕を手元に置くことを望んだと聞いた。

『君は 面白い眼をしているね。

 自分に正直な人間の 真っ直ぐな目だ』

初めて秋田の部下として配属になった本社で 秋田からそう言われたのを覚えている。

以来、4年前にこの支店に秋田と主に移ってきて 5年目だった。

そんなことを考えて つい支店長の質問に即答できなかった。

理由・・・。

会社とはまるで関係の無い 本当に自分の我侭を貫くための休暇申請だ。

「おい 藤田・・・いつもの君らしくないぞ・・・

 私にでさえストレートにモノを言う君が・・・」

「すみません」

続けて僕は

「どうしても行かなければならない場所があります。

 約束 だったんです、ある人との。 

 この会社にお世話になる以前の 10年前に交わした・・・  

 ある人との約束の場所に行かなければなりません」

いつものようにその眼力で 僕の目を射抜くように見つめる支店長。

部長はそんな僕らふたりの間で ただ狼狽している。

「質問させてくれ。その 約束とは 君にとってそれほど大切なのか・・・

 仕事よりも という意味でだぞ。 

 そして もうひとつ。

 その約束の場所とは 休暇申請の8日間で 行って帰って来れる場所なのか?

 つまり・・・その休暇の後に 社を辞めようなどという考えは無いんだな?」

「はい、大丈夫です」

「これは小言になるが 今 君にこの会社を辞められたら 社としては勿論 私としても損失だ。

 それに 私が本部長はじめ上層部にどやされる、それだけは勘弁してくれよ、

 それともうひとつだ・・・君が辞めでもしたら 君の部下はあとを追って社を辞めかねんからね、

 君は 自分が思う以上に 影響力のある人間だからね」

支店長が大きく口を開けて笑いながら話す。

「はい、すみません。

 我侭ばかりで しかも理由もきちんと言えなくて。 

 社は勿論 辞めるつもりはありませんし 例のプロジェクトも 必ず成功させます。

 部下には 最大限 不在中 仕事に支障をきたすことのないよう指導します。

 ご迷惑をお掛けするのを承知で 改めて休暇申請 お願いします」

しばらくの沈黙の後 支店長が大きく笑った。

「アハハ。 いかにも入社以来 はちゃめちゃな 君 らしい な。 

 よし、わかった、許可しよう。

 早速有給願いを提出するように。 

 本社各部門や プロジェクトチームには私からも早速連絡しておくよ」

部長が呆気にとられていた。 そしてしばらくの沈黙の後 まるで子犬のように甲高い声でわめき散らしていた。

「支店長、いいんですか・・・年末ですよ! 他の社員に示しがぁ・・・」

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