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episode Ⅴ~5

「それでね、静香ったらさぁ藤田さんに強引に仕事を振り返してんの。

 信じらんないでしょ? 

 まったく静香は ほかの社員や チームリーダーにはそんなことないのに

 上司のはずの藤田さんにだけ ホント強いんだよねぇ。

 どっちが上司かわかんないくらいだよ」

久しぶりの啓吾との自宅でのディナーだ。 いつも忙しい啓吾は帰宅するのも毎日23時くらいだった。 それがここ数日 どういうわけか帰宅が早い。

『仕事が一段落ついたから・・・』

少し疲れきった声で答えた啓吾。 この人は働きすぎだ。

「ふ~ん、あの可愛らしい桐山さんからは想像しがたいね。

 それはそうと、奈緒は今の仕事が本当に楽しそうだね」

「うん、あたしニューヨークでも働いたことないじゃん。 

 大学出て、すぐに啓吾と結婚しちゃったでしょ?

 仕事ってこんなに楽しいんだぁ って今頃になって気づいたよ。

 啓吾の気持ちが少しわかるなぁ」

今夜は啓吾の好きな和食を作った。 ビールを飲みながらゆっくりと過ごす。

「で、その藤田さん ってひとは どんな人なの? もう少し詳しく教えて」

「あ~、彼ね、もう最悪ぅ。

 だってね チームリーダーの癖に マイケルとはしょっちゅうトラブルを起こすしさ

 上司とも真っ向勝負って感じ。 頭悪いんじゃないの って思うよぉ。

 絶対に自分を曲げないし、自分の損得よりも他人のことばかり考えてるお人好し。

 それにね もう30も超えているのに 長髪で、

 アクセサリーなんかもジャラジャラついてるし。

 なんかね もともとはミュージシャンで 結構有名だったみたいだよ」

「へぇ、そんな人が君の上司なの?

 キャリアもそうだけど 人としても変り種、もしくは異端児なんだね。

 肝心の仕事はどうなの?

 まさか 馬鹿でチームリーダーは務まらないだろう?

 やり手なの?」

「う~ん そうだなぁ。 意外に仕事では 周りの評価 結構高いのよね。 

 静香が言うには、今までも大きな企画なんかも何度も通してきたらしい、

 常に真っ向勝負を社内外問わず挑んでいくのが彼のスタイルらしくて、

 難敵と言われている商談相手なんかもどういうわけか彼なら交渉成立させるんだって。

 部長がそう話してたし、結構上下問わず人望はあるみたいよ。

 その証がCEOが一目置いて直接に 結構可愛がってるみたい」

聞いているのか聞いていないのか・・・啓吾がビールを飲みながらテレビへと目を移した。

「奈緒・・・最近 よく君からその藤田さんの名前が出てくるね」

・・・一瞬 凍りついた。

「え? なに? そうかなぁ、

 ただ 静香がね、大好きな上司っていうか男の人だからさぁ。

 静香の話をすると どうしてもその人の名前が出てくるんだよね。

 あたしは嫌いだけど」

・・・

「そっか・・・」

「ねぇ・・・啓吾・・・どうしたの?

 なんか気に障るようなこと あたし 話してる?」

「いや・・・なんとなく・・・。

 今まで僕が見たこと無いような君が ただなんとなく 最近いるから・・・。

 毎日 出勤するのが楽しくて仕方なさそうだし、

 休日は逆に 僕と過ごしていても寂しそうだし・・・」

・・・

「やだ、啓吾、どうしたの?

 そんなことないよ、啓吾にはいつも感謝しているし、今は仕事が楽しいだけだから」

「そっか。 ただ・・・」

「ただ?」

「日本に帰ってきて やっと今 僕も仕事が落ち着いてきたんだ。

 君が望んできたように、やっとふたりの時間が作れるようになった。

 でも僕は近い将来 またすぐ別の仕事に取り掛からなきゃならなくて忙しくなる。

 今は やっとふたりで過ごせる時間で、今は凄く大切だと思うんだ。

 やっと君が明るさを取り戻してきたのは、

 君が働き出して 充実しているからだろうけど。

 なのに 今は君が まるで今までの僕のように毎日忙しく働いている」

事実働くようになって 最初は仕事を覚えるので必死だった。 しかし今は・・・。

19時に仕事を終えても 啓吾が帰るのが遅いのをいいことにあたしは静香や 会社のみんなやレイとも一緒に飲みに出かけたり食事に出かけたりしていた。

そのことを言われているのだろうか・・・。

それとも・・・。



「先にシャワー浴びなよ」

キッチンに立ち 洗い物を済ませたあたしは、コーヒーを飲みながらソファーに腰掛けている啓吾に声をかける。

「ああ。 明日の会議の資料を揃えなきゃいけないから 君が先に浴びて良いよ」

「うん。 わかった」


シャワーを浴びながら さっきの啓吾の言葉を思い出していた。

『最近 よく君からその藤田さんの名前が出てくるね』

気をつけないと。 無意識に話しちゃってるのかな あたし・・。

突然声がした。

「奈緒・・・一緒に浴びてもいいかな」

少しだけ迷いがあった。

ここ数ヶ月、実際にあたしたちの間に そういった関係さえなくなっていたから。

あたしが拒んできたせいで。

でも・・・今夜は・・・。

「・・・うん・・・」

流れるシャワーの音。


「体 洗ってあげるよ」

「あ・・・う・・・うん・・・」

優しく ゆっくりと ソープをつけてくれる。 いつもよりもなんだか優しい啓吾。

いつもなら つい拒んでしまうそういった行為も、今夜は許してもいい となぜか思った。

立ったままのふたり。 啓吾が背後に廻る。

背中越しに 体を密着させてくる。 乳房を、背中を、優しく撫でる様に洗いながら。

啓吾の手が背後から腰の上をなぞり もう片方の手は乳房を刺激している。

「・・・あ・・・」

全身の力が入らなくなっていく。

「奈緒・・・愛してるよ・・・」 シャワーの音に紛れ 耳元で囁かれた優しい声。

崩れ落ちそうになる。

“ 彼 ”を思い出していた。

一度思い出した残像が なかなか消えない。

「ああ・・・」

あたしの中に入ってくる 啓吾のその指の動きに腰が崩れそうになりながらも あたしは今 啓吾ではなく“ 彼 ”のことを想っている。

まるで過去に 誰かに抱かれていながらも そうだった時のように。

やがてあたしの全身が小刻みに震えだす。

「奈緒・・・」

駄目だ。 想像の中の“ 彼 ”の顔が、声が、香りが、今あたしを包む。

逢いたい。 今すぐに逢いたい。 “ 彼 ”に抱かれたい。

イケナイと知りながら 頭の中は“ 彼 ”でいっぱいになる。

啓吾・・・ごめんね。

やはりあたしは・・・。

あたしの心はここには無い。

あたしの孤独を誰よりも理解してくれた人。

そして、あたしの たったひとりの愛した人。 

あたしは彼に誓った。

『絶対に負けない、頑張る、絶対綺麗になる』って。

そしてまた会えると信じて生きてきた。 だからあたしはニューヨークで生きてこれた。

どんなに辛くてもきっと逢いに来てくれる、だから強く生きようと。


シャワールームで激しく絡み合う。

啓吾が この人にしては珍しく 荒々しくあたしを求めている。

二人は重なり合い、そして頭の中が変になるほど、何度も何度も快感があたしを突き上げた。 ただ そこに宿る想いは 啓吾ではない・・・“ 彼 ”への想い。

レイ・・・。

どうして気づいてくれないの?

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