episode Ⅳ~1
成田へと戻ってきた。 滑走路に降り立つまで僕は眠りについていたようだ。
おかげで、余計な感傷に曝されることも無く、僕はすぐさま現実の世界へと戻される。
到着ロビーではヒデさんが迎えに来てくれる予定だ。
第一ターミナルの中を歩きながらこの国の懐かしい“ 匂い ”を吸い込みながら僕の歩く速度は心なしか少しだけ早足だった。
そして、到着ロビーへ抜けようとしたその瞬間、僕は迎えに来てくれたヒデさんを見つけるよりも先に無数の取材カメラやマスコミの姿を見つける。
彼等も 僕を見つけるや否や 矢継ぎ早にカメラのフラッシュがたかれ始め、他の客の事はまるで無視したようにマスコミの容赦の無い声が響くロビー。
この事実を事前に察知したのだろうか、空港関係者が安全確保のためだろうか、通路を確保している有様だ。
そこへヒデさんはじめ 見慣れた事務所のスタッフ関係者、空港関係者までもが僕を取り囲むようにやってくる。
「ヒデさん・・・これは?」
想像もしていなかった事態だけに僕は勿論戸惑っていたが、出迎えてくれたヒデさん達スタッフの慌てぶりはそれ以上だった。
「いいから、空港の外にワゴン車を用意してある。
マスコミには何も応えずに急いでここを退散だ!!」
しかし 既に外に用意されたワゴン車の周りでさえもマスコミは取り囲むように待機していた。 カメラや人で溢れている中を、やっとの思いで車に乗り込み ヒデさんに事情を聴いてみた。
つまりはこういうことだ。
僕らのニューヨークでのライブを音源化されたアルバムは 発売前のプロモーションのおかげでかなりの話題を呼んでいたようだ。 そしてもうひとつ、僕が不在のこの1年間に前2作のアルバムはセールス的にはロングランのヒットアルバムとなったようだ。発売前そして 迎えた昨日発売のライブアルバムは その予約数だけでも、前2作のアルバムのセールスを超える予約数になり発売初日のデイリーアルバムチャートで初登場でトップテン入りを果たしているという。 ここまでは嬉しいニュースだった。
問題なのはここからだ。
アルバム発売前の段階で 僕らバンドの人気が最高潮に達していると見るやマスコミは僕の帰国を取材しようと待ち構えていたらしい。
そして ヒデさん曰く、どうも僕の所属事務所自体がトップ判断でマスコミに帰国情報をリークしたらしい。
「まったく、お前の帰国時期が公になったこの一週間は その取材申し込みの対応に右往左往さ。
事務所内には このままではまた混乱を招かないかと、
お前の帰国をずらすべきだという意見も出たんだが、
なにせ社長命令で お前には連絡をせず、予定通り ということだった。
まぁ、でも俺たちも最初は
せいぜい2・3社のマスコミはお前を待ち受けるだろうと高をくくっていたが、
冗談じゃない、
昨日の時点で空港に多数のマスコミや多くの芸能レポーター達が取材に行くことがわかった。
オレもこの事態をどう把握すべきか 正直戸惑っているよ」
大体の事情はわかった。 しかし こんなにもマスコミが押しかけているには 他に理由があるはずだ。
でなければ、この事態は あまりにも異常だ。
「ヒデさん、アルバムの売れ行きと
マスコミが狙っている本当の狙いは、やはり関係ないんでしょう?
あいつ等の狙いは あいもかわらず オレだろ?
あいつらまだ 結衣とオレのことを結びつけて
上手いことこの先も報道しようとしているだけなんだろ?
そんなもん 奴等の狙い通りには行かないよ、 もう奴等にはうんざりだし」
憤慨していた僕に ヒデさんは 意外な事実を突きつけた。
「いや・・・、そうではないんだ。
実はな、俺も今日になって知ったんだが・・・」
車に同乗していた何人か なにか僕に遠慮深そうに、そしてヒデさんを見つめている。
「実はな、何社かの写真週刊誌やタブロイド雑誌なんかが
お前のニューヨークでの生活を極秘で取材したり いろんな写真に収めていて、
それをお前の帰国タイミングで今後報道していこうという動きがある」
あきれていた。 ともかく、そんなものは関係ない。 笑い話だ。 どうせ報道といったって、飲んだくれている僕の写真くらいしか写せないだろうし。
「その取材や写真の中身は未確認ながら あのお前がお世話になった例の日本人の家族の少女・・・、
あの少女とお前が仲良く手を繋ぎながらデートしている写真なんかも数点あるようで、
おそらくはそっちのほうの取材がメインだろうし、
あとは 連中は、向こうでのお前の暮らしぶりについて が話題になると踏んでるんだろう。
それがこの有様の全てさ」
そんな・・・馬鹿な・・・。 なにが どうしてそこまでされなくてはならないのか・・・。
僕は困惑していた。 車内だとわかっていながら僕は怒鳴り散らした。
しかも、その ニューヨークでの僕の生活を収めたという写真や、どうせデマだらけの取材内容は間違いなく次の週の雑誌には掲載されるらしい。
今 僕が何よりも心配なのは ニックやなっちゃん、中谷家の人々や あの飲んだくれたバーに被害が及ばないか ということだ。 それについては、
「幸い、取材協定みたいなものがこの世界には存在していて、
今のところ あの家族に被害が及ぶようなことは無いように
こちらからマスコミ関係者には打診してあるし、
あちらの人間に対しての取材なんかは おそらく無いだろうし、大丈夫だろう。
問題なのは お前に対してのマスコミの取材は今後 より過熱するだろうし、
また、そういった向こうでのお前の生活を報道しようとしている今後の動きについては
その取材協定上 歯止めをかけることは出来ないんだ」
僕はなにより ニューヨークの人々に迷惑がかからないだろうというヒデさんの言葉には一安心だったし、また僕自身への報道については致し方ない部分もあるのだろうと納得することにした。
「レイジ、お前は認識していないだろうが、もはやお前はアーティストであるのと同時に、
マスコミにとっては人気アイドルみたいな存在になっているんだよ。
いや、マスコミだけじゃない。
世間一般のお前等バンドの捕らえられ方は、いまやアイドルをしのぐ勢いなんだ。
さらに、結衣ちゃんとの一連のことが お前にスター性を持たせてしまったのも事実だしな。
あの頃の報道以降、お前の不在のこの期間も、
お前等のアルバムは話題にもなってきたし、セールス的にも 世間的にも
いまや誰もがお前のことを知るような そんな存在になってきたんだ。
世間は既にお前自身をロックスターとして扱いつつあるんだよ」
どうして・・・どうしていつも そっとしておいてはくれないのだろうか・・・。
帰国したばかりの戸惑う頭の中で 僕は
「今後は、オレ自身はともかく、絶対にバンドメンバーや、それに・・・
ニューヨークで世話になった人達にだけは被害が行かないようにしてくれないか、
ヒデさん・・・、それだけは頼むよ。
もう 結衣の時のように いろんな人達を巻き込むのは嫌なんだ」
そう話すのが精一杯だった。
その後車は 事務所にも寄らず、かといって かつて結衣と暮らしたマンションにも向かおうとせず 都内のホテルへと向かった。
自宅はマスコミが押し寄せるだろうから 戻るのはマズい との判断だ。
まして 僕らが暮らした自宅マンションは アパートに毛が生えた程度の ごく一般的な賃貸マンションの2階だったから この対応は無理も無いだろう。
この騒ぎでは他の住人に迷惑をかけてしまうだろうし、もうかけているに違いない。
しばらくは 向かうホテルが 僕の仮住まいになるようだ。
今後のスケジュールやマスコミ対応については既に車内で確認済みだ。
これからは毎日 ヒデさんがここまで車で迎えに来るそうだし、またスケジュールのほうも 当面は次に発売予定のオリジナルのサードアルバムの製作に取り掛かる予定とし、楽曲製作などでレコーディングスタジオに入り浸る日々が続きそうだ。
ライブはこの騒動が一段落するであろう2ヵ月後から3ヵ月後くらいに 新たにライブスケジュールを組んで来年夏前後からライブは再開しようということだった。
ホテルへ到着した。 幸い待ち受けるマスコミはいなかった。
僕はすぐさまチェックインを済ませ、ロビーで待つヒデさんとコーヒーを飲みながら明日以降のスケジュールや対応の最終確認だ。
「じゃぁな レイジ。 今日と明日はともかくゆっくり休め。
帰国したばかりだしな。
あと、街にも 夜 コンビニにも ともかく一人で出歩くんじゃないぞ。
必要なものがあったらすぐに俺を呼べ、いいな?」
まったくだ・・・これではある意味軟禁状態で、まるで結衣とのことがあった1年前となんら変わらない、いや、変わらないどころか酷くなった。
僕はつい昨日まで過ごしていたニューヨークをホテルの部屋のベッドに横たわり 思い浮かべていた。
マンハッタンの光が目に浮かぶ。
ニックは今頃 誰と酒を飲んでいるのだろう・・・。
なっちゃんや中谷家の人々は 今日も幸せに暮らしているだろうか・・・。
つい昨日のことなのに、なぜにこんなにも懐かしい思いになるのか・・・。
全てが ニューヨークで暮らしていた時と逆だ、それどころか 1年前よりひどくなっている。 その現実を目の当たりにしてしまったから、こうもニューヨークの日々が遠い過去のように感じるのだろうか・・・。
少し 疲れたようだ。 時差ボケもある。
今夜は ともかく眠ろう。
明日になれば また全てが良い方向へ向かうだろう。
『タフなハートとグッド・バイブレーション、
必要なのはそれだけで、それで全てがオーケイだ』




