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episode Ⅲ(ニューヨーク)~12

JFK・インターナショナル・エアポート、ターミナル4。

この街に辿り着いた時 僕はニューアークに降り立った。

凍てつく寒さの中、心の凍てつきなど気にならないほど、この街の風は冷たく芯まで凍りつきそうだった。

およそ1年。 季節はちょうどひと廻りの冬に差し掛かった。 

何よりあの頃と違うのは、たった一人で降り立ったこの街で、今 僕の目の前にはニックがいるし、ニックと足しげく通ったあのバーのマスターやそしてあの日本人家族、しずえさんやなっちゃんが見送りにきてくれた。 ひとりではない。

日本には あのなっちゃんとのデートから2週間ほどした後 帰国の日時を継げ、あのライブから 2ヵ月が経過していたその日を帰国する日として連絡をした。

その後1ヶ月ほど 僕はまたニックと酒を飲み交わし、将来についてやこの先また会おうと何度も握手を交わしたし、あの日本人家族とは相変わらずの交流を持たせてもらっていた。

そういえば あのライブの音源は 原さんが日本に戻りすぐにライブアルバム化すべく作業に取り掛かっていたし、出来るだけ早く音源化し ファンや世間に届けたいと ライブ参加時の僕らのスタッフはじめ関係各社が急ピッチで万事を進めた結果、僅か2ヶ月という形を経て、緊急発表アルバムとして発売日も決まり、既にプロモーションも進んでいると連絡は受けていた。

そのライブアルバムの発売日は僕が帰国する前日・・・つまりは今日 既に日本では発売になっているはずだ。

何度もヒデさんや 原さんからは連絡をもらっていたが、よほど制作過程や、事務所からの評判も良かったのか彼等は青のアルバムの発売日を待ちきれない様子だった。

「レイジ・・・また これからは以前のように忙しくなるぞ」

何度も何度も言われた。


「ヘイ、レイ。

 君と知り合えてこの数ヶ月、本当に楽しませてもらったし、

 それだけじゃない、君はオレにとって かけがえのないものを残してくれたよ

 なんたって、あのバーで飲む相手が もう君しか考えられなくなっていたのに

 せっかく仲良くなってこれからだって時に 君はトーキョーへと帰るという。

 まったく・・・なんてことだよ、酒の相手を探さなくちゃならない」

そう言うとバーのマスターと共に大笑いした。

「ニック、感謝しているのは むしろ僕のほうさ、

 あの冬の凍てつく寒さの中 君が声をかけてくれたことに 今も感謝しているんだ。

 何よりも酔っ払って、馬鹿騒ぎに付き合ってくれたことにね。

 いや、冗談はさておき、君と話すことで僕は沢山のことに気付かされたし、

 救われたような気がしているよ」

嘘じゃない気持ち。 

「レイ、それならギブアンドテイクさ。

 ジャパニーズだろうがアイリッシュだろうが 

 君は僕のこのニューヨークでの大切なフレンドだからな。

 そうそう、君に報告しなきゃならないことがあるんだ。

 実は ここ数日 オレは必死に自分の個展のスポンサーを探していたのさ。

 君のライブを見てね、もう一度自分を信じてみることにしたんだ。

 アーティストとしてしっかりと頑張ってみようとね、

 そこで・・・いや、回りくどいのはよそう」

そこまで話すと彼の顔が一瞬今まで見せたことのない真顔になった。

「驚くなよ・・・

 今度 イーストビレッジの小さな画廊で個展を開けるかもしれないんだぜ!!

 僕のアートを気に入ってくれるスポンサーがやっとこの街で見つかったのさ!!

 ヘイ! 凄くないか!!」

「本当に? なんてこったよ!? ニック 凄いじゃないか!」

物凄い興奮した大きな声を出して告白したニック、そしていつものようにあの“笑顔”。

その場に 僕を見送りに来てくれた人達 皆から一斉に祝福の声が上がる。

歓喜の輪の中にいながら ニックは更に僕に話す。

「勿論本当の話さ、今度はオレにとってもチャンスなんだ。

 いつまでも飲んだくれてパートタイム・ジョブで日銭を稼いでるわけにも行かない。 

 もう一度 アートに向かってやる気を出させてくれたのもレイ、君だし、

 君がその気持ちを更に後押ししてくれた。

 『決っして諦めるな! 前を向け』 ってあの日のライブで気付かされたんだよ。 

 しかし

 残念だなレイ・・・その矢先に君がこの街を去ることになるなんて・・・。

 でも 今はオレも君も心はひとつ、そうだろ?

 成功を祈っててくれよ。 オレも勿論君の成功を祈ってるよ、

 毎晩あのバーで酒を飲みながらね」

嬉しかった。 ニックの個展のことも、こんな友達がこの街で出来たことも、なによりも互いの夢に向かってまた歩き始めたことも。

「必ず結果報告をエアメールさせてもらうからな。 

 君もエアメールと、そうそう この前のライブアルバム、

 もう日本では発売されているんだろ?

 送ってくれよ」

当然 アルバムはこの見送りに来てくれた人達全てに個々に贈るつもりだったし、ニックやみんなともせめてこれからも手紙のやり取りくらいは続けたいと 僕自身願っている。

ニック、いつか君が僕に話してくれた言葉。

『タフなハートとグッド・バイブレーション、それで全てがオーケイさ』

今それはまさに彼のためにある言葉のような気がするよ。


「気をつけてね。 またいつでもどうぞ」

しずえさんがそう声をかけてくれた。 お世話になったひと。

中谷家のお父さんも弟さんもそれぞれに声をかけてくれた。

この家族にも ニック同様に心からの感謝をしている。

「ありがとうございます。 また・・・またここへ戻ってきます」

それが今 僕に言える精一杯の言葉・・・伝えたい思いは沢山あるのに上手く言えなかった。 感謝。 その気持ちで溢れていた。

「なっちゃん!」 しずえさんが少し離れたところにいる彼女を呼ぶ。

「ごめんね、レイジくん、あの娘 拗ねているみたいなの、ホント 困った子だわ」

背中を向けて 少し僕らから離れた空港の窓際で外を見ている少女。

「しずえさん、いいんです、僕が行ってなっちゃんに挨拶してきますよ」


「いい天気だね、こんな日はコニーアイランドに行ってもいいね」

・・・

「あ、ブルックリンブリッジを歩くのもいいねぇ」

背中を向けたままのなっちゃん・・・無反応のように見えた。

つい僕は笑ってしまった。 本当にこの子は素直な娘なんだと改めて思った。

「なっちゃん、ありがとう。 君には心から感謝しているよ。

 沢山この街をガイドしてくれたし、英語が下手な僕の変わりに『通訳』もしてくれたし。

 何よりも いつも君といると本当に楽しかった。 ありがと・・・」

突然少女が抱きついてきた。 体が震えているのがわかる・・・泣いている。

僕はまるで妹を抱きしめる家族のようになっちゃんを抱きしめた。

「またニューヨークにきてね、絶対来てね。 約束! ねぇ 本当に来てね・・・」 

泣いてる声が止まらない。

「ああ、約束するよ」

「それと・・・あたし、絶対に負けない、この街にも、自分にも。 

 それと・・・結衣さんにも! 頑張る、絶対綺麗になる。

 だから お兄ちゃん、また必ず来て。 またこの前みたいにデートしたい」

「ああ、わかってるよ。

 オレもなっちゃんが見違えるほど綺麗になるのを楽しみに待ってるし、

 それに・・・ね、絶対に大丈夫だから。

 君ならなにがあっても絶対に大丈夫だって オレは信じてるよ。

 強く 自分を信じて 家族を信じて これから好きになる人を信じて生きるんだ。 

 オレも頑張るさ!」

そっと僕から離れる14歳の女の子。

次の瞬間 その顔を近づけて 僕の唇にキスをしてきた。

可愛い まるで小さな恋のメロディーの映画のシーンのようなキス。

子供だとばかり思っていたのに。

振り返り 少女は 

「うん、頑張る!」

そう話し お母さんのもとへと駆け寄るなっちゃん。

離れた向こう側ではニックが・・・みんなが 今少女にキスされた僕を指しながら冷やかし半分に楽しそうに笑っている。 

その横でしずえさんが お父さんがいかにも日本人のそれらしく僕や皆に恐縮している。


搭乗を告げるアナウンス。

僕らは最後にまた握手を交わし、何度も抱き合った。 歩き出す僕に 皆笑顔で声をかけてくれる。 そして何度も何度も手を振る。 僕の姿が見えなくなるまで。

ただひとり、なっちゃんだけは ただ涙を流していた、最後の最後に あの少女の可憐な笑顔を見ることは出来なかった。 

ありがとう、ニック。

ありがとう、中谷家のみんな、そしてなっちゃん。

ありがとう ニューヨーク。

僕は また歩き始めた。 この先に何があっても 自分には嘘はつかない。 もう自分自身に迷うこともしない。 全ては心のままに、僕は歌い、そして生きていく。

全てを受け止めて。

そのことを教えてくれたひと、そしてニューヨーク。

また いつか。


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