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episode Ⅲ(ニューヨーク)~11

「もう日本に帰っちゃうんだよね?」

少女は笑顔だが その顔がとても淋しそうに僕に問いかける。

「そうだね・・・、オレも働かなきゃいけないしね」 笑いながら答える。

イーストリバーからマンハッタンを抜けてきた少しだけ冷たい秋の風が吹いている。

「そっかぁ・・・」

僕を見ていた瞳が その向こうのマンハッタンを見つめていた。

「もう・・・会えない?」

「そんなことないよ」

そう言いながら僕には何の確証があるわけではない。

「初めてお兄ちゃんと会ったレストランで、こんな人がお兄ちゃんだったら、

 あたし 自慢だなぁ って思った」

あれからもうすぐ1年になろうとしている。 少女はその背丈も、また面影も まだあどけなさの残る少女そのものだった。

「どうしてそう思ったんだい? 初めて会ってすぐにそう思ったの?」

「うん、だって、お兄ちゃん カッコ良いから こんなお兄ちゃんがいたら良いなって」

僕は沈黙の後、そして笑った。

「アハハ、それはあれだよ、

 なっちゃんは外人社会にいて、日頃 あんなに近くで接する日本人の、

 しかも オレぐらいの歳の奴がそばに居なかっただけだろ?」

「最初はね・・・、

 でもその後お兄ちゃんといろんな話をして・・・

 結衣さんのこととか、歌のこととか、日本でのこととか」

少女とは 沢山の会話をしてきた。 自分のことだけでなく、少女自身のことも、いろんな話をしてきた。

この街で暮らした1年で 僕が最も多く会話してきたのが この少女と ニックだろう。

「お兄ちゃんは 強いなぁ って思った。

 結衣さんのことがあっても、日本でいろんなことがあっても ニューヨークの生活でも、

 ちゃんと前を向いて 歩こうとしてた。 あたしは お兄ちゃんのようになれるかな・・・」

これまで聞いていた少女の苦悩。 14歳の、まだ子供ともいえる女の子には本当に辛いことも多いだろう。 しかし僕は あえて言い切った。

「大丈夫さ、なっちゃんなら この街でも大丈夫。 君は 君が思う以上に強いはずだよ」

少女と日々を過ごすうちに僕は この少女の持つ瞳の強さに、逆にこちらが勇気付けられることも多かったからだ。

渡米してからの辛い日々。 逃げようと思えば それはきっと逃げれたはずだった。

7歳で渡米したのだから 今よりも子供だったはずだ。 親に縋る事も、また日本に帰ろうとすることもきっと許されたはずだ。 それでも少女は 苦悩を抱えながらこの街で生きてきた。 その瞳の奥に宿るこの娘本来の強さは 僕の比ではないはずなのだ。

「なっちゃんなら 大丈夫。 

 どんな学校へ行っても、どんなコミュニティーに身を置いても ちゃんと自分を貫き通せるはずさ。

 この街で 君は、なんにでもなれるはずだから」

僕は 願いも込めて 再度そう話す。

悲しそうだった少女の顔に 少しだけ笑顔が戻る。

「お兄ちゃん・・・やっぱり あたしも一緒に帰りたい・・・駄目?」

本当に可愛くて 可憐な少女が、また少しだけ子供のその笑顔を向ける。

「前も話したけど、またすぐにニューヨークに来るよ。

 もうこれっきりってわけじゃないから。

 だから連れて行くわけにも行かないし・・・君にはここにいてもらわないとね。

 じゃないと この街で知り合えた親友のニックと君がいなきゃ 

 何のためにこの街に来るのかわからなくなるし、

 第一 君が思う以上に君のお母さんや君の家族は 君がいないと悲しむと思うよ」

しずえさんの顔が浮かぶ。 母親として 一人の女性として、彼女は彼女なりに自分の娘に対して負い目を感じているのがわかっていた。 同時に 一人娘に対して 本当に愛情が深いことも伝わってきていた。

「親友・・・かぁ・・・」

「え? なに? 今なんて言った? 風の音でよく聞こえなかったよ」

少女はいつもの笑顔を取り戻していた。

「ううん、なんでもない。

 ねぇねぇ、あたしの初恋、お兄ちゃんなんだよ。 

 会って、最初は憧れで、お兄ちゃんになって欲しい って思ってたけど、

 大好きになっちゃったんだぁ。

 いつか・・・いつかまた会えたら その時はお兄ちゃんの彼女になれたらいいなぁ、

 ・・・結衣さんみたいに」

時々 ストレートに物をいうこの少女には こちらがたじろいでしまう時がある。

「ああ、そうだね。

 なっちゃんは 綺麗になるんだろ? 素敵な女性になるんだろ?

 もし 本当に綺麗に、素敵になっていたら彼女にしてもいいかな。

 ただし、なっちゃんが18歳・・・いや・・・待てよ・・・

 君が18歳ってことはあと4年・・・オレとは7歳半 歳が違うから・・・

 オレは25か26歳かぁ・・・うん・・・圏内かも。

 その時に彼女にしてあげる」

そんなことを冗談交じりに話した。 少女の顔に やっといつもの笑顔が戻る。

「あ、ズルい。 それまで待てないよぉ、

 第一 そんなに待ってたら、お兄ちゃんに新しい彼女が出来ちゃうじゃん、ズルいよぉ」

この少女といると 心が洗われるような気がしていた。

そして僕らは手を繋ぎながら まるで仲の良い兄妹のようにその後の時間を過ごし、少女を家族のもとへ送り届けた。 

少女にとっては勿論、僕にとってもはじめての小さな女の子とのデートだった。

少女の初恋 か。

どこまでも素直な この少女の純粋な心に触れ、素直であるべきこと、それが人間本来のひとつの真実なのかもしれないと感じていた。

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