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episode Ⅲ(ニューヨーク)~7

グリニッチビレッジ。

ボヘミアンやビートニクス、ヒッピーに愛された街だ。

東にはブロードウェイ、西にはハドソンリバーを迎える。

独特な街並み。 ここマンハッタンにあって ヨーロッパにでも居るような感覚になる。

あの“ブルース・スプリングスティーン”が演奏していた時代もあったという 『ケニーズ・キャスタウェイ』というライブハウスもここにはある。

ライブハウスの数も多い街。

季節はもう秋を迎えようとしていた。 この街にやってきたのは冬だ。



その時僕は 例のバーでニックと飲んでいた。

この街に暮らし始めたとはいえ 電話など引いていない僕にとって、先日のヒデさんと原さんの訪米の時から、緊急の国際電話はこのバーで受けてもらうようにした。

ほぼ毎日のように通う店だからだ。

そして 彼等の帰国から2週間後にその連絡は届いた。


「いいか、レイジ。

 事務所とレーベルの見解を伝えるからな。

 結果は ニューヨークライブ 決定だ。 

 会場だが日本で原さん達レーベルの協力を得て既に小さなライブハウスと、

 リハーサルに使うスタジオを検討し 日程調整に入っている。

 実施予定は1ヵ月前後くらいの日程で、リハーサル期間は10日前後、

 いくらお前等がライブの凄腕バンドとはいえ、いきなり本番を迎えるわけにいかないだろう?

 日本からは最小限の事務所関係者とツアースタッフ、レーベルの関係者、

 それとバンドの連中を連れて2週間後にはニューヨークへ向かおうと思っている。

 ただし、今回のライブを実施するに当たって 事務所とレーベルから条件がある。

 このライブの音源を押さえて、ライブ・アルバムとして後日発表させてもらう」

とうとう この街で現実にライブを行う事が決まった。

音源を残す とか、残さないとか、正直 僕にはどうでも良かった。

誰も僕のことを知らない場所で、唄を歌い始めた頃のように もう一度純粋に音楽に向き合うことから僕の答え探しの一歩が始まるんだ。

「お前の最大の我侭を全て飲んだ形で実施することになったわけだ。

 日本でも、勿論アメリカでもライブの告知は一切しないつもりだし、これもお前の希望通りで行く。

 当然、日本人のライブだし、客の入りなんて こちらも期待はしていないさ。

 しかし、その為に多額の金と 人が動くんだ。

 その為に 今回のライブは アルバムとして 日本に帰ったら発売する。

 ともかく お前はライブの演奏に集中しろ。 日本でやっていた頃のライブ以上の音を残せ。

 選曲はお前に全て任せる というのがバンドのメンバーの統一意思だ。

 早急にライブの選曲リストをピックアップしてこちらへ連絡しろ。

 最後に、後のスケジュールはこちらの指示に従ってもらうぞ。

 それでいいな?」


その電話が終わった後に僕はそばにいたニックやバーのマスターや従業員、それにこの店の何人かの常連で顔馴染みになった客等にこのライブを行うという事実を告げた。

ニックは日本語で「カンパーイ!」と叫んで、その場にいた皆と この快挙を喜んでくれた。

「いよいよ本当の君に会えるな、レイ。 

 君が真のアーティストかどうか しっかりと目に焼き付けさせてもらうよ。

 そうそう、勿論この街のアーティスト仲間を沢山連れてライブには行くよ。

 それと、僕の素敵なガールフレンドたちもね」

僕なんかよりも ニックたちのほうが嬉しそうだった。



何度かの国際電話での日本との打ち合わせで ライブの選曲は12曲に絞っていった。

オリジナル曲と洋楽のカバー曲の構成にし、僕自身が今一番歌いたい歌だけをセレクトした。 

オリジナルだろうが人の唄だろうが関係ない、僕が歌えばそれは僕の唄だ。

ライブの日程も会場も グリニッチビレッジにある キャパシティ50名程度の小さなライブを行えるバーに決まった。

日本からのスタッフが、この街に到着の頃には リハーサルを行うだけの状態になり、スケジュールは既に動き始めていく。

ライブ開催まであと2週間に迫った秋の日、明日はいよいよ日本からのスタッフがやって来る日だ。



「なっちゃん、わざとしばらく内緒にしていたけど・・・。

 今度、グリニッジビレッジで 唄を歌うんだ。 ライブをやるのさ。

 明日 日本からその為のスタッフやら仲間が大勢やっくるんだよ。

 これでやっと なっちゃんにも職業がミュージシャンだよ って証明できるね。

 そのライブに、なっちゃんたち家族を招待したいんだけど・・・。

 お世話になったお礼にね。

 家族と一緒に観に来てくれないか?」

いつものように 少女の学校帰りに ふたりで街を散策しながら例のごとくいろんな話の中で僕は少女にライブ開催を告げた。

「マンハッタンで歌うの??」

話を打ち明けた後、しばらくは面食らったように驚いた後 少女は

「歌うお兄ちゃんを見れるんだ! 

 バンドの人達もくるの? 日本でやってたライブと同じように演奏するの?」

かなり興奮気味にいろんな質問を矢継ぎ早に浴びせてきた。

そこから僕は少女の質問に答えるので 精一杯になるほどだ。

想像以上に喜んでくれた。 無邪気な少女の笑顔を見ているうちにふと、結衣を思い出す。

あれは初めて僕が 人前で歌うことになった高校生の時のライブ前だった。

“ レイジ 凄いよ! 絶対に見に行くね! ”

あの時の結衣も 今、目の前ではしゃぐ少女のように興奮気味に話していた。

少女はよほど僕のライブが見たかったのか まだかなり興奮している。

無理も無い、この街で出会い、そしてこの街で暮らす僕は ミュージシャンとはいえ、少女の前で歌うのは 鼻歌程度のものでしかなかったし、ただブラブラしているだけの男としか少女の目には映らなかっただろうから。

しかし、少女は一通り、嬉しそうに喜んだその後、ふと悲しそうな顔になった。

「唄を歌うことを決めたってことは・・・お兄ちゃん、日本に帰る日が近いんだね・・・」

そう言ったきり 黙りこんでしまった。

「おいおい、そんな暗い顔 すんなよ。

 前にも言ったろ? 

 日本に帰ったとしても またニューヨークには来るし、

 なっちゃんにも会いにくるさ!

 それに・・・」

少女が僕を覗き込むそのしぐさの その瞳は これまで見ていた少女の瞳以上に 大人の表情を見せた。

「それに?」

「ああ・・・えぇっと・・・あれ? オレ なに言おうとしたんだっけな・・・」

僕は初めて 少女にドキリとさせられたせいで言おうとしていたことを忘れる始末だ。

「ああ、そうそう! 

 また会いに来るその頃までには なっちゃんは結衣以上に綺麗になるんだろ?

 そんな なっちゃんに会うことも楽しみだし・・・絶対にまた会えるよ。

 この滞在がなっちゃんたち家族や ニックとの最後 だなんて 

 オレは思ってないからさ」

シドロモドロに話す僕に 少女が笑う。

「うん、そうだね、約束だもんね。

 あたし 絶対に綺麗になって お兄ちゃんの彼女になるんだから!!」

いつものような 純粋無垢な少女の笑顔がそこにあった。

「アハハ、彼女の話はもういいよ」



次の日、予定通りの便で日本から先行組みのスタッフが到着した。

ヒデさんはじめ、バンドのメンバー、以前から僕らのツアーをサポートしてくれたライブのスタッフ、事務所関係者と 何名かのレーベルスタッフ。

みんな 気心の知れた連中だ。 10ヶ月ぶりくらいの再会に僕らは歓喜した。

原さんはじめ、あと数名は 遅れてくるとのことだった。

滞在中は 皆がリハーサル用に借りたスタジオ近くのホテルへ宿を構えている。

ただ僕だけは 以前から住んでいるイーストビレッジからの通いだ。

マサが、ハルが、イシちゃん、キョウちゃん、ドクター・・・、みんな元気そうだった。

こうして 僕らの・・・いや僕の 無謀ともいえるマンハッタンでのライブへ向けて 全てが動き出した。


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