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episode Ⅲ(ニューヨーク)~6

ニューヨークに来て既に半年が近づこうとしていた。 最近ではあの夜 ニックと話した事が頭から離れないでいた。

“ 真のアーティスト ”か・・・。果たして僕は本当にそう成りえるのだろうか。


「凄いねぇ、また良い曲書けたね」

「やっぱ レイジは凄いよ、レイジの歌が好き、

 歌っている時のレイジが一番自分らしいから」

結衣と過ごしていた時間、その時間の中での音楽。

結衣のために歌を歌いながらそれは自分自身を歌うことだった。

けれど・・・。

一体何から始めたらいい? 一度見失った自分を取り戻すためには・・・。

歌うことは・・・誰のためでもない、自分の存在価値を示す唯一の手段だった。

いつしか 僕の歌は独り歩きを始め、僕という存在以上の存在になり、やがてそれはとてつもないモンスターとなって僕自身を苦しめ始めた。

再びあの喧騒の中で 僕は僕自身でいられるのだろうか・・・。



アパートメントに一通の手紙が届いたのはそれから間もなくのある日だった。 

エアメール。 日本からだ。手紙はマネージャーのヒデさんからだ。


「レイジへ


 元気でやっているか。

 お前がニューヨークに渡って数ヶ月。

 皆がお前の帰りを今か今かと待ちわびているが肝心のお前からは何の連絡もなく・・・。

 それでも、便りや、何の知らせもない ということがお前の無事を伝えていると思っている。

 さて、

 ほかでもなく、しかも突然ではあるが、来週 急遽そちらへ行こうと思っている。

 今後に関して、事務所の意向もあるし、

 レコード会社とのアルバムの契約も残っているのは周知のとおりだ。

 その為に まずは一度お前とゆっくりと話してみたい。

 そうそう、ニューヨークには 原プロデューサーも同行することとなっている。

 何しろお前の信頼の一番厚いスタッフだからな。

 また、連絡をします」


要するに この先どうするのか ということだ。

事務所としてはこのまま放置しておくわけには行かないだろうし、手紙にもあるようにアルバムの発売契約も残っている。

(僕らは レーベルと初めて契約を交わしたときに 3年で3枚のアルバムを発表する旨の契約を交わしていた)

日本を離れて半年だ、ニューヨークでこのままダラダラと過ごしているわけにもいかないし、自分自身の答えを もうそろそろ出していかなければならない。

何も無い部屋で 僕はその手紙を何度か読み直し、そしてすぐに返事を書いた。


いったい僕は何者なんだ・・・? 最近ではいつも頭を掠める疑問だ。

僕はギターを手にする。  U2の“ I Still Haven't Found What Im Looking For ”のギターコードを引き始め 歌っていた。 

歌いながら 気付いた。

結局は今の僕にとっての答えを導き出せるものは 歌うこと以外にないのかもしれないということだ。

僕はあるひとつの提案を手紙に書き記し、翌日ヒデさん宛てに手紙を送った。



「久しぶりだなぁ、レイジ」

何ヶ月ぶりに聴く懐かしい声と相変わらずな笑顔のヒデさんと原さんがJFK空港に着いたのは あの手紙から一週間が経過した日だった。

大きなトランクを引きずりながら満面の笑顔のヒデさんが、周りをきょろきょろと見渡しながら言う。

あんなにも寒く ストリートやアベニューをまるでナイフのように吹きぬける高層ビルからの冷たい風も、今では連日暑さを伴った風が吹き抜けていた。

もう 夏はすぐそこだ。

「いやぁ~ 僕はニューヨーク 初めてなんですよねぇ~

 レイジがこうしてここにいなかったら来ることなんてなかったかも知れないなぁ。

 まったく・・・問題児のお前にも こうしてみれば感謝だな。

 そういえば・・・原さんは2回目でしたよねぇ? 

 若い頃に留学した経験があるとか無いとかで」

原さんは その話はもういい というようなゼスチャーをしながら

「よぉ、レイジ。 相変わらずだなぁ お前・・・でも・・・少し痩せたか?」

「ヒデさん、原さん、お久しぶりです」

「お前・・・

 デビュー当時の頃みたいに すっかりと髪も伸びちまったなぁ・・・。

 しかも なんて格好だよ・・・相変わらずのスティーブンタイラーか?

 ニューヨークに住んでいるんだから もう少し小奇麗になっているかと思ったら・・・。

 これじゃぁ 逆戻りだな」

観光客二人の前で 確かに僕はこの街の住人以上にヒッピーな感じに見えるかもしれない。

自然に笑みがこぼれた。

僕らは空港を後に ヒデさんと原さんの予約していたビジター用のホテルへと向かった。

途中 ヒデさんはキャブの中で大騒ぎだった。

摩天楼のマンハッタンが迫ってくるのを初めて目にした人間はアドレナリンが活性化されるのだろうか。

反対に 原さんは冷静だ。 このひとはいつ どんな時でも冷静さを失わない。

その実 一番音楽に対して情熱的な部分を持ち合わせているのも原さんだ。

ホテルへのチェックインを無事済ませたふたりと その後ホテルのロビーのカフェで話す。

「ヒデさん、バンドの連中やスタッフのみんなは元気ですか?」

マサやハルの顔が浮かんでいた。

「ああ、連中もお前の帰りを待っているよ、

 勿論スタッフ全員、原さん含めたレーベルの人間・・・、

 それにお前のファンからの手紙もほぼ毎日 事務所に届くしなぁ。

 ああ、 あとは いまだにマスコミの連中も時々取材にくるよ。

 どっちにしろ みんな元気さ」

「そうですか・・・。

 あの・・・手紙にも書きましたが・・・日本には近いうちに帰る決心はついています。

 ただ・・・例の・・・」

「例のお前がくれた手紙の内容のことだろう?

 その事を話し合おうと思ってな、

 じゃないと 今の段階では事務所に何も報告できないからなぁ。

 いや、報告していたら ここにも来られなかったかもな。

 まずは その真意を教えてくれよ」

「真意 ですか・・・」

沈黙の時間が流れる。

「純粋に・・・、昔のように唄を歌いたい。

 誰の目も、誰の評価も気にせず、自分の心をさらけ出して叫んでみたり、

 泣いたり、笑ったり・・・。

 マスコミに評価されたいとか、売れたいとか・・・そんなんじゃなくて。

 それに・・・、もう一度 音楽に向き合えるか、楽しめるのか・・・、

 自分でもまだわからないんです。

 でも歌う以外に 本当の自分を見つけられる方法をオレ 知らないから・・・。

 わかっているのは、自分の存在価値を確かめる場所、

 自分とみんなのラインを繋げられる場所のような気がしているんだ。

 到底上手くは説明できないけど・・・」

そんな僕の言葉の続きを二人は待っているような感じだ。

「だから・・・バンドの連中をここマンハッタンに呼んでもらえないですか?

 この街で・・・日本に帰る前に誰もオレのことを知らない、

 日本でどれだけ騒がれていても売れていても、

 そんなことを知らない場所で 

 もう一度 音楽をやり始めた頃と同じ状況で歌ってみたいんです。

 ライブやれるように ヒデさん・・・出来ないですか?」

僕はヒデさんへの手紙で 日本には近々帰るつもりでいることと、

その帰る前に ニューヨークでライブをやらせて欲しい旨を記していた。

「レイジ、お前の言いたいことはなんとなくわかるよ。

 手紙を貰った時には お前がまた昔のように音楽と向き合っていることに嬉しさ反面、

 しかし・・・また 厄介なこと言い出したなぁと思ってさぁ、 

 こんなの まだ事務所に報告できないだろ?

 だからあの手紙のことはまだ報告してないんだよ・・・。

 原さんにはすぐに相談したけどな」

とヒデさん。

「お前 簡単に言うけど・・・アメリカでライブなんて・・・、

 その準備だけでも大変なんだぞ 」

ヒデさんは 改めて困った顔をしている。

確かにそれは承知のうえだ。

それまで ジッと話を聞いていた原さんが口を開いた。

「お前は この街に来て、住んでみて・・・良かったか?」

その答えは僕にはまだわからない。

「ニューヨークに来て、

 最初は誰もオレのことなんか知りもしない場所でたったひとり 暮らしていく中で、

 この街のいろんな嫌な面も、良い面も見てきたんだ・・・。

 良い出会いもあったし・・・。

 歌うことの意味の中には その出会った人たちに 恩返しの意味も含めて、

 本当の自分の心の叫びを歌で伝えたい と思っているのが一つと、

 もうひとつは・・・ここに住んでみても 一人からやり直してみても、

 自分が歌う答えや 生きている答えがまだ見つからない、

 見つからないから歌ってみたい と思えたのもこの街で暮らしたからだと思ってます。

 でも・・・少しはこの街から学んだこと、

 人間として成長できたことはあると思ってます」

原さんが少しの沈黙をおいて、

「ほう・・・例えばお前が思う お前の成長とは なんだ?」

僕は

「例えば 生きるうえで必要なのは・・・」

ふとニックの顔が浮かんだ。

「タフなハートとグッド・バイブレーション だということ」

そう話し、僕はニックのように笑った。

二人が そんな僕を まるで呆気にとられたように見た。

そして 原さんは笑いながら ヒデさんに向かって話し出す。

「ねぇ ヒデさん、日本に帰ったらこいつの言うとおり

 ニューヨーク・ライブを検討してみませんか?

 勿論 レーベルとして僕もうちの会社に 

 バックアップしてもらえるよう説得してみますよ。

 今は レイジの言うとおり、こいつがその先にどんな答えを導き出すか、

 まずは 前向きに捉えてやってみませんか?」


その後ふたりとは 短い4日間というふたりの滞在期間中に幾度となく今後について話し合いを行った。 

また それ以外には 僕の住処の偵察やマンハッタンのエンターテイメント状況などを視察したり、時には僕がマンハッタンを案内をしたり。

最も 僕のマンハッタン・ガイドなど そのほとんどはニックやなっちゃんから知らされていた知識の範囲でしかなかったが。

そうして 瞬く間にふたりのニューヨーク滞在期間は終わった。

最後の日、二人から出された結論は 日本に帰ってから ライブに関しての合否は検討をした上で結果を伝えると言われ、それまでは連絡を待つように ということだ。

滞在最後の二人を見送る空港で コーヒーを飲みながら原さんが

「ところで お前、もう結衣ちゃんのことは大丈夫なのか?」

きっと 結衣のことは 僕だけじゃなく 彼女に関わった全ての人がショックだったはずだ、悲しかったのは僕だけじゃなかったはずだし、今も深い傷と思い出を残して 結衣はみんなの心に生き続けているのだ。

「なんとか。

 全部が大丈夫かといえば嘘かなぁ・・・

 でも・・・」

「でも? なんだ?」

「オレは 今を生きているから・・・。 結衣のぶんも生きているから。

 だから オレは いつまでも結衣にだけ頼って生きていくわけにはいかないし・・・。

 必要なのは タフなハートとグッド・バイブレーション。

 そうでしょ? 原さん」

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