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episode Ⅱ~9

1ヶ月の休養期間を経て 楽曲の制作活動から再開することになり僕らは活動を再開した。いまだ精神的・肉体的に疲れ果てている僕への配慮から ライブやプロモーション活動を行わず、当面はマスコミ対策も含めてスタジオでの作業中心だ。

結衣の葬儀の時の写真や記事が テレビや雑誌で派手に取り上げられてからというもの、休暇中も、そしてスタジオへ通う時も 僕には常にマスコミが付きまとった。

僕の騒がれ方は ミュージシャンとしてのそれではなく、まるで芸能人のスキャンダルのような騒がれ方だ。

さすがに所属事務所も 今までとは異なる体制でマスコミから僕をガードし始めた事で 僕自身の自由な時間は奪われた。 以前のように気楽に街をフラつくことも出来ず、電車に乗ることすら間々ならない。


オレは何のために歌うのか・・・。

オレはいったい何者なんだ・・・。


僕は、新たな楽曲製作に取り掛かるものの、曲も詩も浮かんでこないでいたし、製作活動も困難な状況だった。 

「レイジ、ちょっといいか?」

僕らのアルバムプロデューサーを努める原さんに呼ばれた。

ブースの中にひしめく連中をよそに レコーディングスタジオ内に併設されていたカフェへと向かった。

コーヒー、ブラックで。 そう注文してから ふと頭をよぎる結衣の声。

“ カフェインの取りすぎは良くないんだよ・・・ ” よく彼女は言っていたものだ。

「お前・・・大丈夫か?

 凄く疲れているような気がするぞ」

「すみません・・・」

「曲のほうはどうだ? ちゃんと書けているのか?

 そんな心情じゃないのは分かるが・・・。

 実はな、こんな状況の時にこんな話をするのもなんだが・・・。

 3枚目のアルバムの発売日を少し早めてみたらどうか という案で今 

 製作側と お前の事務所側とで話し合いを始めている。 

 おそらくは1年以内に発売という形になるだろう。

 幸い まだ 次のライブツアーの予定も組んではいないし、

 制作活動にはたっぷりと時間をとれるからな」

僕らが発売した2枚のアルバムは 今のところかなりセールスを延ばしているようだった。

それもこれも マスコミのおかげか・・・。

「それとな、今が お前等にとってトップアーティストになるための

 最大の追い風時期とレーベルも事務所さんも判断しているようだよ。

 2枚のアルバムのセールス状況、バンドの人気、お前達の実力、

 そして不幸ながら 結衣ちゃんのことがあって、

 マスコミからも いまやお前は時の人だからなぁ」

言いながら 原さんはやるせないような表情を見せた。

そうか・・・、原さんの言い分じゃないな・・・今なら 売れる というレコード会社・そして事務所の判断か・・・。 ビジネスでもある以上 もっともな意見だろう。

「なぁ レイジ。

 お前はどちらかというと職人タイプのアーティストじゃぁないし、

 気安く曲がホイホイと書けるタイプではない、

 どちらかというと自分の身を削るように歌を作ったり、

 インスピレーションから楽曲を製作するような芸術家タイプだと俺は思っているよ。

 それと、もうひとつ。

 今のお前たちバンドの真価は アルバムの楽曲もさることながら、

 その真髄はライブにあると思っている。

 俺は そんなお前等に惚れ込んで、

 だからこそ過去2枚のアルバムは

 ライブ活動と平行してアルバムをプロデュースしてきたんだ。

 ライブ感を出したくてなぁ。

 しかし、今回はあえて違う形で製作せざるを得ない。

 これだけ騒がれて、いまや外を出歩くことですら 特にお前は困難な状況だ。

 俺個人の判断では もう少しお前に時間とゆとりを与えて、

 その上で新たなスタートを切らせてやりたいところだが・・・。

 お前を守ってやりたいが、これもビジネス・・・仕事だと思ってくれないか?」

わかっていた。 そんなことはとっくにわかっていた。

僕はいつしか 夢を叶えるために この音楽ビジネス・・・芸能界に足を踏み入れた。

この世界では 売れなければ 何も意味が無い。

どんなに実力があっても。

僕らはデビューして3年目を向かえていたが 僕らのアーティストとしての人気はまさに今が最も旬な位置にいるのだろう。

売れる歌さえ用意できれば きっと僕らは 間違いなくトップアーティストの仲間入りだ。

その為には ここで立ち止まるわけには行かない。

ダメ押し ともいえるセールスが必要だと 誰もが考える。 それが この世界のビジネスだ。

ただ、そこには 本当の僕の心の中の叫び声は 洒落た言葉になって書かれていく。



単純に歌うことが好きだった。

伝えたくて、でも口では恥ずかしくて言えない言葉や苦悩、喜び、心の中にしまっていた感情・・・、それが 歌になると 僕は平気で自分をさらけ出せた。

友達に。 家族に。 社会に。 学校に。 好きになった人に。

いつしか 僕は 言葉に出来ない想いと感情を歌うことで 僕という存在を誇示してきた。

たとえそれが オリジナルの歌でなくても たとえば大好きな洋楽や他人の歌でも、そこに自分の気持ちが代弁されていれば それは僕の歌として歌っていた。 

僕がまだ高校生だった頃、初めて自分の気持ちを素直に相手に伝えたくて初めてオリジナル曲を作った。

想いを伝えたかった相手は 結衣だ。

恥ずかしくて『好き』と言えなかった。 怖くて 心と裏腹の言葉を並べてしまう自分。

だから 歌った。

そして・・・。

人は欲望に駆られる生き物だ。

いつしか僕は歌うことで周りの人や 勿論結衣に認められるようになった。

この歌を 自分の歌をもっと沢山の人に聞いてもらいたいと思い、バンド活動をするにつれ掴んだメジャーデビュー。

いつしか純粋な歌への思いは 売れたい・成功したい といった 欲望 へと変わっていった。

そんな 自分の歌に対する純粋な思いを見失いそうになり欲望に駆られそうになると 結衣は僕の心を知ってか知らずか いつもそのタイミングに 決まってこう話してくれた。

『本当に自分が歌いたい唄を歌って』

『いつも ありのままのレイジでいて』

だから僕は かろうじてこの音楽ビジネスの世界でも 自分らしくいれた。



「いいか レイジ。 今から あえてキツイことを言うぞ」

原さんの本音もちゃんとわかっている。 それでもこの人は ビジネスとして言わなければならない義務もあるだろう。

事務所や マネージャーのヒデさんもきっとそうだ。

ただ 結果が求められるのは ビジネスの世界ではどこの世界も同じ。 夢だけでは語れない。

「お前はプロのミュージシャンだ。 もうアマチュアじゃない。

 今 人気が高くても、今これだけ騒がれていても、

 売れなければ、ビジネスとして成立しなければ 何も意味が無い。

 同時にライブもそうだ。 

 今ここで立ち止まってしまっては いつまでもこの人気が続くはずも無い。

 こんな時期だからこそ、

 その結果を求められる存在に もうお前たちはなっているんだ」

・・・

時代は確実に変化していた。

歌謡曲やアイドルが全盛だった 僅か数年前・・・ところが僕らがメジャーデビューした頃から 空前のバンドブームがショービジネスの世界を席巻し始めた。

ロックが日の目を浴びているのは確かだったが、その反面、みんなが歌謡曲の良い部分・・・たとえばわかりやすいメロディーラインや、時代を意識したウケる言葉選び・・・を取り入れ、しかし音はロック、しかも流行のビートを強調したロックが台頭していた。

そんな時代の変化を僕らはいち早く取り入れ、ロックと歌謡曲の良い部分だけを取り入れて 更にビートを加えたロックとして あえて狙った戦略で楽曲製作を行ったのが2枚目のアルバムだった。

そのアルバムは見事に大ヒットアルバムとなった。

結局 僕らもまた 時代の波に乗ったし、このショービジネス世界の流れに乗ったのだ。

「原さん・・・」 しゃべり続ける原さんを制するように僕は話し始めた。

「オレは今 何のために歌っているのか、判らないんだ・・・。

 いや・・・単純に 歌も書けなくなってる。

 自分の存在を確かめるようにオレは歌い、

 自分の生きたいように生きてきた。

 その結果 オレは結衣を死なせたんだ。

 いつしかオレは売れるためだけに歌うような奴になっているのかもしれない。

 本当の自分がなんなのか・・・今はわからないよ」

自分の考えがまるでわからなくなっていた。 それでも僕は一気に思いをぶちまけていた。

「なぁ、レイジ そう焦るな。 お前はまだ若い、才能だって十分ある。

 誰もがこの世界で成功者になれるとは限らない。

 お前達は時代に選ばれたバンドなんだ。

 ましてお前は結衣ちゃんの分も生きて・・・生き続けなきゃいけない。

 その為にも 今は頑張って この辛い時期を乗り越えていこうじゃないか?

 たとえ 今 お前が探しているものが見つからなくても 

 売れてしまえば 何だってできる、

 そこからまた 新たな自分を探せばいいじゃないか?

 お前は・・・歌うために生まれた人間なんだから・・・」

歌う?

オレは歌うためだけに生まれたのか・・・?

結衣ひとり 助けることも守ることも、そばにいることも出来なかったオレは歌うことしか出来ないのか・・・。

愛する人 ひとり、守れなかった今のオレに何が歌える・・・?

僕は・・・出口の見えない闇の中にいた。

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