episode Ⅱ~8
夏の終わりの空を見上げていた。
青く透明な空。 雲はゆっくりと流れている。
そこへ立ち上り 揺れ動く白い煙が風に乗り やがて空と同化していく。
都内の比較的大きな寺院で結衣の葬儀は行われた。
バンドのメンバーや事務所・音楽関係者は勿論、高校時代の同窓生、ともかく数多くの人が参列していた。
彼女と最後の日。
争議では まだ21歳の若さで去っていく結衣を思い 皆涙を流し 彼女の棺の前で横たわったその横たわる姿の前で号泣する者もいた。
高校時代の友人達が 皆僕へ話しかけにくる。
結衣の身内の何人かは 僕に射るような視線を向ける人もいた。
“ あの子がほら・・・結衣ちゃんの・・・なんだか 音楽で有名になっているっていう・・・
結衣ちゃんも若かったのに あんな男の子を選んだばっかりにきっと苦労して・・・ ”
そんな葬儀の日ですら マスコミはこの寺院の前に数社集まっている。
カメラマン、テレビカメラ、取材を行う人、何人かの参列者にインタビューすら行っている。
出棺前、喪主を務める彼女の父親の挨拶に皆が涙している。
「レイジ・・・
おい・・レイジ! お前 彼女の親父さんに呼ばれてるぞ・・・」
そうマサに声をかけられてた
「レイジ君、娘の遺影を持ってはくれないか・・・」
僕は参列者の中から一歩前へ歩みだす。
会場の中 特に身内の方々からは 大きなざわめきが起こった。
身内でもない者が遺影を持つのだ、無理も無い。
遺影の中の結衣は 以前二人で撮ったセルフポートレートのものだった。
『凄く良い笑顔だから』と彼女の母親は その写真を選んでくれた。
僕は泣くことはなかった。 あの日以来 泣けない。
そして 今、まったく別のことを考えていた。
『喪服・・・なんてものは きっと今のオレの風貌には似合わないだろうなぁ・・・』
遺影を持っていたお母さんから受け取る。
と、同時にどこから光る数種のフラッシュ・・・。
会場が一瞬凍りつく。
そしてフラッシュの方向へ参列者から罵声が浴びせられ、駆け寄る結衣の身内や式場スタッフもいた。
「おい!! ここは厳粛なお葬式の場所だぞ!!!
貴様ら いい加減にしたらどうだ!!!」
しかし そんな葬式ですら もはやマスコミにとってはただのニュースネタでしかないのだ。
火葬場へと向かう車のその先頭車両に僕はご両親と共に乗り合わせ、遺影を抱いていた。
出棺間際、マネージャーのヒデさんが
「レイジ、後のことやマスコミの対応は心配するな。
今日が最後だ、ちゃんと結衣ちゃんのそばにいてやれ・・・」
火葬の間、雲に溶けてゆく結衣を眺めていた。
楽しかった思い出しか思い出せない。 二人でいれさえすれば それだけでも良かった。
まだ プロのミュージシャンとしてスタートする前のあの頃が二人でもっとも多くの時間を過ごした。
嬉しいことはいつも半分ずつ。 辛かったことも分け合えた。
僕が僕でいれた瞬間を作ってくれたのは 紛れも無い、結衣だ。
「レイジらしく生きて」
僕が僕であるということを いつも信じていてくれたのは 結衣だった。
なぁ・・・結衣・・・。
オレはこの先も歌い続けていけるかなぁ。
お前のいないこの世界で オレはなにを見つめていけばいいのかなぁ・・・。
小さくなってしまった 骨。 それが病気中の薬のせいなのか彼女の骨は普通の人、彼女の年齢からすればその骨は小さく砕けている。
骨壷に収める参列者。
結衣の全ての骨が形をとどめて骨壷に収められることはなかった。 粉のように白くなり 灰になったものは ただ骨壷の中に流し込まれるだけだった。。
「レイジ君・・・本当にありがとう。
結衣のそばにいてくれて。
あの娘 本当に幸せだったと思うわよ。
あなたのことを話している時 本当に幸せそうだったわ」
泣きながら そして父親に支えられながら話す。
「本当に あなたのおかげで あの子は最後まで幸せだったと思う・・・」
結衣の母親が小さく見えた。 誰かに支えられていなければ歩くことも困難なほど疲労困憊している。
「お母さん・・・それに・・・お父さん・・・、
本当にすみません・・・オレは結局何もしてやることもできないままで・・・。
結衣にしてもらったことの少しも ・・・彼女に返してやることが出来ませんでした。
すみません」
その言葉しか出てこなかった。
「レイジ君・・・
結衣のことは・・・もういいから。
君は君の人生を生きていきなさい。
こんなに早く逝ってしまったあの娘の分も しっかりと生きてほしい。
それが娘のためにもなると思うし 私達家族からの願いでもあるから」
親父さんが優しく僕の手を握りながら話してくれる。
葬儀の終わった夜 新宿の街を歩いていた。
何人かは僕に気付いて、騒ぎ立て 近寄ってくる者もいたが 礼服の僕を見て何かを察したのか 声をかけるのを躊躇う者もいた。
アルタ前の東口のロータリーから靖国通りへと歩く。
西口のほうへと向かい NSビルの展望台に登り都内を見渡す。
何組かのカップルが幸せそうに肩を寄せ合いながらいる。
街の灯りを眺めてみた。
ここに もう結衣はいない。
全国ホールツアーの最終日にあった悲劇。
そのツアーファイナルライブは その後 各音楽評論家から絶賛を浴びた。
僕らの実力が また世間に認められていく。
そして 同時にテレビのワイドショーでは 芸能人としての僕や、結衣のことを知りもしない人間達が 悲劇を装い その日の悲劇を数日間 繰り返し取り上げられていた。
結果的に僕らはこれまで以上に このショービジネスの世界で その地位を築くことになった。
葬儀から3日後 僕等は事務所やレコード会社と話しあい 一ヶ月ほどの休養を貰うことにした。
活動再開は3枚目のアルバムのレコーディングから始めよう そう話し合った。
バンドのメンバーは思い思いに旅行に出かけるものもいれば 自宅に戻り静養するものもいた。
僕は ただ抜け殻になったように彼女と暮らしたマンションに引きこもり、酒びたりの日々を送った。
ギターを手にすることもなければ、音楽も聴くことすら無い。 ただ空間を埋めるだけのテレビの音。
結衣との写真を眺めたり 入院中 必死の思いで綴っていた彼女の手紙を繰り返し読んだ。
僕がその部屋で言葉を発するのは 事務所や 心配してくれているディレクターの原さん、バンドのメンバー、僕自身の家族からの電話の時と、部屋に貼られてあるエアロスミスのスティーブンタイラーに向かって話しかけるときだけだ。
「ヘイ スティーブン、
タフなあんたなら こんな時をどうやってやり過ごすのかな?」
毎日は同じ繰り返しだった。 腹が減れば近所のコンビニで酒とカップ麺を買う。
そんな休みの期間であっても、外に出かければ 写真週刊誌の連中が所かまわず僕にフラッシュをむけてきたり、取材をしようとインタビューを試みるものもいた。
いい加減にウンザリしていた僕は ほぼ家の中で過ごした。
今は ただの抜け殻のようなものだった。




