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episode Ⅱ~6

それは突然報道された。

所謂 有名『写真週刊誌』に 僕らふたりのことは報じられた。


“ 今 人気急上昇のロックミュージシャンの影に存在した病魔と闘う美女 ”


まるで特集でも組んだかのような数ページに渡っての記事と 彼女の入院先の病院の写真、そして いつの間に撮られていたのか・・・窓辺に写されたふたりの写真が数枚 掲載された。

その内容は バンドのことは書かれてはいるものの、そのほとんどは僕の事と、ふたりの関係のこと、彼女の病気のことを大々的に取り上げている内容だった。

真実を記載している部分も多かったが、そうではない部分も多々あった。 

その写真週刊誌の発売予定日の前々日から僕らは都内でレコーディングを行い、丁度 徹夜明けだったその発売日前日の朝には スタジオの外は芸能マスコミやテレビのワイドショーのカメラで溢れた。

ようやく事態を飲み込んだものの そのあまりの反響に当事者である僕は 逆に他人事のようにしか思えなかった。

しかし、最大の被害は彼女の入院する病院前で起こっていた。 

そこにも大挙マスコミが訪れていたのだ。


「レイジ・・・最悪な状況になったなぁ・・・」

僕らは事務所の対応の方針が固まるまでは スタジオの外に出ることは許されず、缶詰状態になり、僕は結いの病院に出向くことすら出来なくなった。

「なんだよ あの記事や 今朝のテレビのワイドショーの報道は! 

 第一 結衣ちゃんの病気まで調べるって・・・勝手におもしろおかしくしやがって、

 マジでムカつくぜ!!」

メンバーの中でも一番血の気の多いマサが僕に代わって怒鳴り散らしている。 他のバンドのメンバーも まるで自分のことのように憤慨している。

「俺が抗議してやるよ! ふざけんじゃねぇ って!」 とハル。

みんな結衣のことを心配して怒っているのだ。 

ことさら結衣の家族の事を思えば どんな形にせよ こうして報じられるのは許せない思いでいっぱいだ。

同時に 僕は 近頃になって病院の周りや僕の身辺に頻繁に姿を見せ始めていたマスコミから結衣を守ってやれなかったことに失意を感じていた。


その後の数日は、マスコミやカメラマンが僕の周りや彼女の病院に張り込むようになった。

僕らは ともかく無言を貫き、外出や仕事に出かけるのだったが、結衣の家族は最大の被害者だった。 執拗に追い回され、精神的にもかなりの負担をかけてしまうことになった。

そういった状況もあり、仕方なく僕は当分の間 結衣の病院へ向かうことも、会うことも控えていた。 その間に事務所サイドと 病院側、そして結衣の家族の配慮でなんとか電話でのやり取りだけは可能にしてもらいながらこの騒動の対応策を講じていた。


「結衣・・・ごめんよ

 こんなことになっちまって。

 今が一番大事な時期だってぇのに・・・ホントにごめん」

「ううん 気にしないで。

 私なら平気。 

 それに ほら、なんとなく私の夢だった有名な女優さんになる って・・・。

 そんな感じが味わえているみたいだし、なんか ほんと有名人になっちゃった気分」

そんな冗談を言いながら笑う結衣。

「そんなことよりも・・・

 マサさんや ハルさん、バンドのみんなは大丈夫? 

 レイジの事務所の人やいろんな人に私のことで迷惑かけちゃってるね・・・。

 ごめんね」

「それより結衣・・・

 病気・・・こんなことでもっと悪くなったりしちゃうんじゃ・・・」

「平気だってばぁ。 私 そんなに弱くないもの。

 私は むしろこんな大騒ぎになるほどレイジが人気者なんだって再認識させられた。

 もう 私だけのレイジじゃなくなってるのに、

 そのレイジが私だけのもの って公表されて嬉しいくらい。

 あ、いけない! ファンの人に怒られちゃうね」

「なに 馬鹿なこと言ってんだよ! お前、本当に大丈夫なのか??」

「うん、平気。

 だって なにがあってもレイジはいつでも ちゃんと私のそばに居てくれるもの」


騒動も一週間を過ぎ、それでも一向に報道が沈静化されずにいる状況に 僕はメンバーと事務所スタッフにある提案をした。

それは この騒動に対して僕自身が記者会見を開く ということだった。

事務所は初めそれを拒んだが 僕の強硬な どうしてもさせてほしいとの姿勢から承諾してくれた。

これ以上逃げ回ったり 他の人に迷惑をかけたくなかった。

記者会見を開くことで この騒動も終焉させたかった。


そして・・・記者会見当日、セッティングされたレコーディングスタジオの前で 僕は今まで経験したことのないテレビカメラや雑誌社・新聞社のカメラのフラッシュを無数に浴び、記者会見を開いた。

僕の今置かれている立場、そしてその僕が付き合っている彼女の病の重さがこれだけのマスコミを呼び込んでいることがわかった。

僕は自分のことよりもなによりも結衣に対する思いをまず告げた。

そしてこれからのミュージシャンとしての仕事のことなどを語り、これ以上騒ぎを大きくしてほしくないことを伝えた。 僕はただ 真実を語ろうとしていた。

しかし 記者会見では時折心無い質問や興味本位な質問も多く浴びせられた。

『売名行為』ではないか? や、

『これで確実にあなたの話題性は増したと思うが・・・』 等々。

クソ食らえ な気分だった。

僕は傷ついていた。 人生で初めて得体の知れない恐ろしさを感じた。


結衣は会見を生中継していたワイドショーを病室で見守ってくれていた。

その夜 およそ8日ぶりにやっと彼女に会えた。 

まだ病院前や その病室の見える場所にはマスコミが大挙していたが。

その会見について結衣は、

「レイジは本当に真っ直ぐでしか生きられないから・・・

 なんでも正直に言っちゃって・・・、

 まったく、不器用なんだから。

 もっと私のことなんか 上手く隠して話してくれてもよかったのに・・・」

僕が記者会見で話したこと・・・それは

『結衣を守りたい』 ということだった。

そのことに対して彼女はそう微笑みながら それでも嬉しそうに話してくれた。


数日後 思わぬ形でその騒動は徐々に鎮静化していった。

それは会見を流したワイドショーやスポーツ紙などの一連の報道を見ていた一般視聴者や僕らのファン、雑誌・新聞記事を読んだ読者からの今回の騒動に対する人道的な抗議と それと同じくらいの僕らへの励ましの電話や投書などが多く寄せられていた。

そのおかげで報道は徐々に自粛されていった。

会見を開いたことの物凄い反響に正直 僕は驚いていた。

またこれを境に 僕らの音楽に興味を抱いてくれた人も多くいたのだろう、僕らのセカンドアルバムの売り上げが急激に伸びていった。

ラジオでは 僕らのアルバムは連日ヘビーローテーションになり、ラジオ・テレビの音楽番組のオファーもめまぐるしく増えた。 

なによりも僕らの意図していない今回の件がきっかけとなり僕らバンドは一気にスターダムへと駆け上がっていった。

また 時が経つにつれてマスコミは僕らの音楽に対して正当評価をしてくれるようにもなった。 

騒動から数週間後、僕らのアルバムはついにアルバムチャートのトップ30に入った。

快挙だった。

また時を同じくして始めた小ホールツアーも想像以上の観客を動員するようになった。 


真夏の8月も終わろうという頃 僕らは盛況に終わったホールツアーの追加公演をこなしていた。

その頃 結衣は押し迫る病魔と闘っていた。

僕はどんなに忙しくても必ず毎日のように連絡をしたし、会える時間がある時はどんなに少ない時間だろうと 許される限り彼女のそばに居た。

病状は日増しに酷くなり、彼女の髪はもう既に無く、痩せ細り まるで骨だけのような容姿・・・。 

時間の都合で会えない時の僕らのやり取りは 電話と 彼女のお母さんを経て届けられる結衣からのまるでメモのような手紙に代わった。 結衣はすでに書くことすら相当な疲労を伴うようになっていただろう、その手紙の字は 元気だった頃の結衣のそれとは比べ物にならないほど弱々しく、時にその字体は読むことが相当困難な手紙もあった。

それでも

「何かをレイジに残しておきたいから・・・」

と 会えない日には 彼女は手紙を書いてくれた。

僕は何も出来ない自分への怒りと憎しみ、そして絶望と悲しみに震えた。

しかし・・・結衣からは病気についての弱音を聞くことはない。

そんなことよりも家族のことを心配し、僕のことを想い心配し続けてくれた。

『レイジの本当に歌いたい歌に早く辿り着けるといいね 』

今では それが彼女の口癖のようになっていた。

『焦らずに、マイペースでいいんだよ。

 レイジはきっと辿り着けるはずだから 』

何度も彼女が僕に対して伝えた言葉は 『希望』。 

まるで自分に言い聞かせるように綴ったり 話したりだった。

人のことなど本当はかまっていられないほど苦しい過酷な病状の中で、それでも彼女は無償の愛で優しく僕らを包んでくれる。 家族、僕らバンドのメンバー スタッフ、間接的なのかもしれないが僕らを支えてくれているファン・・・なぜこうも彼女は強くいられるのか・・・。

ある時手紙のやり取りの中で僕はその質問を彼女へぶつけてみた。

すると結衣は たった一言。

「レイジから愛されることで私は いろんなことを学んだんだと思うよ。

 強さ、弱さ、勇気、希望、夢・・・人を愛するということを。

 だから・・・

 今度は私が返したいだけなの」

それは同時に 僕から彼女へ伝えたい言葉だった。

普段は照れてしまい 僕は彼女に 「愛している」などと 言うことはない。

しかし・・・必ず君に言おう。

歌だけで伝えるだけじゃなく 言葉で・・・。

自分らしく 精一杯生きるということを、君は僕に教えてくれたんだ。


結衣の病状が日増しに悪くなる中 僕らはライブの追加公演のため、明日から都内を離れ、明後日に大阪でライブを行う予定だった。

この追加公演が終われば しばらくは都内に戻れるし、結衣のそばに居てやれる。

以前 担当医師から説明を受けていた 結衣に残された時間が過ぎようとしていた。 

大阪へ向かうその直後に 恐れていたことがとうとう起こった。

どれだけでもいい・・・、彼女の命の時間が延びることを 僕はただ願っていた。


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