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episode Ⅱ~4

光が降り注ぐ。

まるでシャワーのように降り注ぐスポットライト。

オーディエンスの地鳴りのようなうねりに乗るようにバンドのビートが溢れ出す。 


ライブ。 

僕らに新たな命を注ぐロックミュージックにバンドは全てを委ねる。

メジャーデビュー後のファーストアルバムを発表してから 僕らは精力的にライブ本数を増やし、ある時は地方で ある時は都内でライブ。 週に2・3度は演奏していた。

その合間を見て 僕らは立て続けに発売予定の2枚目のアルバムの為の制作活動を行っていた。 

ファーストアルバムの売れ行きはデビューアルバムとしては、歌謡曲全盛、アイドル全盛の時代にしてはまずまずのセールス動向だったが、僕らは勿論周りのスタッフも満足してはいなかった。 すぐさま僕らは2枚目のアルバムを勝負のアルバムと位置づけ、それまでのハードロック一辺倒だった楽曲製作も変化をつけた。

まずは売れる法則を持つメロディーライン、戦略的に、歌謡曲の要素も取り入れた。

事務所もレーベル会社も更に強力な広告宣伝と雑誌を中心としたマスメディアへの露出を増やした。

僕らの人気は徐々に広がり TVショーなどにも度々呼ばれるようになっていったことで飛躍的にファンの数も拡大されつつあった。

僕らの目標は、デビューアルバムから一年を待たずして発売に踏み切ろうとしていたセカンドアルバムでの勝負、そしてその次作で 一気にその地位を不動のものにしようとしていた。

とりわけ、ライブは 僕らの真骨頂だ。 全てから開放されたように僕は叫び バンドのサウンドはアルバムで聞けるその演奏の非ではないほどスピード感を増す。

メロウな曲ではそのバンドの進化が問われるその感性を感じることが出来たはずだ。

デビューし、僕らはさらに進化し続けている。 ライブは僕らを日増しに魅了していく。 まるでドラッグだ。 これ以上踏み込んだらどうにかなってしまう・・・そうわかっていても僕らの演奏はよりスピードを上げ加速していく。 

僕らは 全身全霊を音楽に捧げていた。



「おい レイジ! 結衣ちゃんが!!

 結衣ちゃんが倒れて病院に搬送され入院したらしいぞ!!」

その日、ライブハウスツアーの真っ只中の西日本の主要都市でのライブの途中だった。

そのライブプログラムのアンコール前、楽屋に一度引き上げたその時に僕らの所属事務所でマネージメントをしてくれているヒデさんからその一報は伝わった。

結衣が自宅で鼻から血を噴き出したまま倒れているところ彼女のお母さんが偶然にもアパートへ訪れ発見し、すぐさま病院に搬送され、緊急入院になったことを。

連絡はすぐさま、彼女のお母さんから僕らの事務所に連絡が入り、そしてライブ中だった僕の変わりにヒデさんが連絡を受け取った。 つい30分ほど前のことらしい。

「おい、レイジ 聞いてるのか!? 

 ライブ・・・どうする? もしあれだったら・・・

 アンコールをそのまま出ずにやめて このまますぐに東京へ引き返してもいいんだぞ」

僕は ともかくすぐにその病院へと電話をし、彼女のお母さんと話すことにした。

信じられなかった。 気は完全に動転していた。

彼女のお母さんと連絡が付いた後に 更に僕はショックを受けた。

“ 急性骨髄性白血病 ”の疑いがあるので このまま入院してもらい 後日検査を行う ということだった。

彼女のお母さんは ともかく今夜どうこうなるものでもないからと 僕には そのまま仕事を頑張って と言う。 ただ僕は肯いていた。

なぜ・・・なぜ彼女がそんな病気に・・・。

そんな気持ちにしかなれなかったし 頭の中を駆け巡るのは 嘘だ という思いだけだった。

僕は放心状態のまま呟く。

「ライブは・・・ライブはこのままやりますよ」

「おい! そんなこと言ってる場合かよ!! お前、いいから結衣ちゃんのとこいけよ!」 

マサが怒鳴る。

バンドのメンバーにとってもいまや結衣はかけがえのない僕らのサポート・メンバーのひとりだった。 メンバーやスタッフが口々にライブは中止だとか 今すぐ東京へ帰れだとか言い始める。

僕はすぐさま東京へと向かうことにした。

ライブのアンコールは スタッフがその対応をしてくれた。

マネージャーのヒデさんの用意したレンタカーで、メンバーよりも一足早くヒデさんとふたりで東京まで移動することし、ともかく車を走らせた。 順調に行けば5時間で東京には着く、深夜には 結衣のその病院へところにいけるはずだ。

深夜の高速道路を飛ばしながら。

「レイジ、さっき事務所とも話したんだが、

 明日からたまたまオフで 3日後から行う予定だったレコーディングは 

 とりあえず中止にするぞ。

 原さんにも連絡はしておいたからな。

 それと・・・レイジ、

 当面の予定も とりあえず結衣ちゃんの様子次第でいいぞ。 

 幸いライブは来週末まで無いだろ。 

 レコーディングのほうは 先にバンドでリハを重ねたり、

 音取りだけ先行しておくから」

「すみません・・・」

その一言しか言えなかった。


予定よりもかなり遅れて、もう明け方といっていい時間に僕は病院へと着いた。

救急夜間口から入り 結衣の待つ集中治療室へ。

「レイジくん・・・」 結衣の親父さんが出迎えてくれた病室前。

僕はまるで僕自身が手術でも行う医師であるかのような格好で病室へと入る。

そこにいたのは・・・結衣。

結衣は酸素マスクを取り付けていたが、ただその音だけが異様に響いている病室。 

いろんな機材が結衣のベッドを取り囲んでいる。 

その横には 結衣のお母さんが彼女の手をしっかりと握り締めたまま寄り添っていた。

「レイジくん・・・ありがとう、こんな遅くに・・・」 

お母さんが力なく それでも気丈な笑顔で話してくれた。

結衣の意識はないままなのか、動くことすらしない。

僕は一通りの病状説明を彼女の両親と 当直の担当看護士から聞いた。

その中で僕はある事実を知らされた。

彼女にはここ数ヶ月、病気・・・その“ 兆候 ”が 実は既にあったということを知らされた。 そして実はこれも初めて知らされたのだが 今週にでも検査入院し詳しく調べる予定だっということを。

「ごめんなさいね・・・あの娘 あなたにはやはり何も話していなかったのね・・・」

そう誤るお母さんの言葉よりも 僕はただ自分に腹を立てた。


「結衣・・・」 

その言葉を出すのが精一杯だった。

勿論返ってくる言葉はない。

あんなに笑っていた結衣、優しい眼差しは閉じられたまま。 

昨日もいつもと変わらず僕のそばにいて 笑顔を見せていた結衣。

気付かなかった・・・、病気の兆候など・・・微塵も見せなかった。

彼女の手を僕はただ握り締めていた。


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