第3話
「寝かせてほしいって……どういうこと?」
言われた意図がわからず、オウム返しすると、彼女は少し困ったような表情を見せながら、話し始めた。
「私、今まで寝たことがなくて……戦いのための努力と研究ばかりしてきたんだ」
「ずっとずっと努力して、魔獣がいつ現れてもいいように、戦争がいつ始まってもいいように、準備して。魔獣が現れてからは、ずっと戦いばかりしてきたの」
「だから、食べたり、寝たり、遊んだりしたことがなくて」
「いつか、機会があればしてみたかったの」
……壮絶な人生だな。僕なら気が狂いそうだ。
「君は、食べなくても寝なくても平気なのか?」
普通の生物だと、彼女の生活を続ければすぐに死ぬ。当然の疑問だ。
「天使と悪魔には、恒臓っていうのがあるの。恒臓は身体に必要なエネルギーと、魔力を生産し続け、体の状態を一定に保つ効果があるの。だから、不老不死でエネルギーの採取が必要なくなるんだ。それで、寝たり食べる必要はなくなるの」
なんだそれ。強すぎるだろう。さすが伝説の生物といったところか。
「それでも使いすぎると、休む必要はあるんだけど、私は突然変異で強く産まれたから、恒臓がより強くなってて。無限のエネルギーがあるから……」
彼女はもっと強いってことか。もう想像もできないな。
「なら、なおさら寝る必要はないのに、なぜ今寝たいんだ?」
と聞くと、彼女は。
「ずっと魔獣を送ってきたから、数が減って、もうずっと世界中巡回する必要はなくて。少し、他の生物の生活を真似してみたいなって。自分のしてみたいこと、してみようかなって思ったの、と……」
と言ったあと、言葉を詰まらせながら、上目遣いで、白い顔を少しだけ赤らめながら。
「私のこと、エストは怖がらなかったでしょ?だから、えっと……人間のエストなら毎日寝ているだろうし、もしかしたら、お願いすれば、教えてくれるかなーって……」
なるほど……白い肌で恥ずかしがると、すげーわかりやすいんだな……
真っ白な肌が赤らむだけで、白い紙に赤い色塗りしたように真っ赤に見え、とても目立つのである。
彼女の性格と言葉遣いも相まって、とても可愛らしく見える。ぼさぼさで全身黒ローブだけどね……実にもったいない。
「なるほど……もちろんいいよ。理由はわかった。君には恩もあるし。
でも、僕の家までは遠いよ?荷物と馬車もどうにかしないとだし……」
僕は馬車で行商のために、2の街ファーレンに向かっていた。
僕の家は1の街ガレムス。距離で言うと馬車で6時間以上かかるのである。
今は夜。このままいくと、夜が明けて朝になってしまうだろう。
「それなら大丈夫。私が、エストも馬車も運ぶから」
「……なんだって?」