三番目に殺されたのは?
「た、助けてくれ。殺さないでくれ」
深山は哀願した。どれだけ懇願しようと、片山は許すつもりはない。
「じゃあ、こういうのはどうだ」
片山は倉庫の隅を指差す。そこには、うつ伏せで重なっている人間と小さな籠があった。
「そこに死体が三体あるだろ? 三番目に殺されたのはどれでしょうか?」
片山は提案した。深山はかぶりを振る。
「わかるわけないだろ……。その時、現場にいたわけではないから……」
「そうか。それじゃあ、今すぐ死ぬか」
片山は手に持ったナイフを持って深山に近づく。
「ひ、ひい。ヒントだけでも」
「じゃあ、ヒントを与えてやるよ。今から話してやるから、どれがそいつか当ててみろ」
*
第一の犯行。
ハトヤマはきょろきょろとせわしなく辺りを見回していた。
片山はハトヤマが背中を向けた瞬間、ナイフを突き刺した。情けない声をあげ、ハトヤマは死んでいった。
なんだこんな呆気ないものなんだな、と初めての殺しに片山は拍子抜けした。
*
深山は驚いた顔をしていた。何かを察したのか、それとも偶然だと解釈したのかはわからない。
片山はほくそ笑み、次の標的の話を始めた。
*
第二の犯行。
ホソカワも間抜けな様子でハトヤマと同様にせわしなく辺りを見回していた。
片山は持っていたハンマーでホソカワの頭を殴打した。一度の攻撃で致命傷になり、ホソカワはそのまま死んでしまった。
*
深山は愕然としていた。
「あのぉ、名前なのですが……」
「なんだ?」
片山が睨みつけると、深山はびくりと怯えた。
「あの、名前は作為的にそうしているのでしょうか?」
「何を言っているんだ? いいから話を聞け」
片山は犯行を語る。
*
第三の犯行。
名無しは眠っていた。すやすやと眠っていた。
片山は名無しの首を絞め、殺した。
*
「えっと、つまり、一番目は刺殺、二番目は撲殺、三番目は絞殺ということですね?」
深山が質問した。
「だから、いま、そう話しただろ」
片山は威丈高に言った。
「す、すみません」
「さあ、考えるんだ」
片山が促すと、
「あの、死体を見てもいいですか?」
深山はお伺いをたてるように言った。片山は首肯した。
片山は彼らを検分している深山をにやにやと眺めていた。思惑通りの引っかかり方で、今にも声をあげて笑い出しそうだ。
「わかりました」
片山のほうに振り返り、深山は言う。
「一番下の男性はお腹に出血があるので刺殺。真ん中の男性は頭に血がべっとりとついているので撲殺。よって、なにも外傷らしきものがない、一番上にいる男性が三番目の被害者です!」
「そんなわけないだろう」
「えっ? いま、何か言いましたか?」
深山は驚愕していた。片山がいる方向とは別の角度から声が聞こえたからだ。
「ここだよ」
死体役Cの男性が深山の肩を叩いた。死体役AとBも立ち上がっていた。
「ひい」
深山は腰を抜かし、失禁した。あたりにアンモニア臭がたちこめる。
三人と片山は哄笑した。
「なんで、どうして」
混乱している深山に対して、片山は冷徹な表情になって説明する。
「教えてやろうか。死体役Aさんはお前が二年前に犯した江口愛子さんのお父さんだ。今回の復讐のために協力してくれた」
深山は目を見開いた。
「次に、死体役Bさんはお前が去年パワハラで自殺に追い込んだ尾藤進さんのお兄さんだ。同じく協力してくれた」
死体役Cが人数分のナイフとハンマーを持ってきた。
「死体役Cさんは、お前が五年前に交通事故で殺した篠原加奈さんの恋人だ」
片山は深山の頬を殴った。
「そして、俺は、お前によって投資詐欺にあった片山節子の孫だ!」
片山に続き、他の三人も深山を殴る蹴る。
「あ、そうそう。正解を教えてやるよ。三番目に殺したのは、お前が先日買ったばかりのハムスターだよ。まだ名前がついていないハムスターな」
片山はハムスター用の籠を深山の眼前に置いた。さきほどまで倉庫隅にあった籠だ。そこには三匹のハムスターが死んでいた。
「お前は独り身で家族はいない。代わりに、俺たちが受けた苦しみの片鱗をお前の飼っているハムスターで――」
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