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生きていく理由  作者: 白百合三咲
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生きていく理由

最終回です。

 面会室に芳子さんの姿はなくその代わり看守が1人でやってきました。

「苺花さん、落ち着いて聞いて下さい。金壁輝、いや川島さんは本日未明処刑されました。」

看守の一言が私を現実に引き戻しました。芳子さんは面会の度笑顔で私を迎えてくれました。ずっと忘れていましたが芳子さんは死刑囚でした。

「こちら」

看守が差し出した封筒です。

「川島さんは今朝呼び出された時に書いていかれました。貴女に手紙を書く時間がほしいと。」

中を開けると一通の手紙が入ってました。



「苺花ちゃんへ

  僕は今看守に呼び出された。いよいよその時が来たようだ。だけど僕は自然と怖くない。きっとこの世に未練などないだろう。   

 初めて出会った時窃盗を咎める僕に君は言ったよね。それが日本人の言うことかって。その一言で僕は目が覚めたよ。僕は王朝復活のため日中の友好のため日本軍に手を貸したつもりでいた。だけど僕は日本軍に利用されてただけだったって。気付かない間に僕は中国人を苦しめていた。君を助けたのは罪滅ぼしだったかもしれない。

  だけど君が法廷に現れた時は驚いたよ。日本軍に手を貸して散々好き勝手やってきた僕を助けようなんて人がいたとは。でも最期に君と過ごせて良かった。天津でお店をやっていた頃を思い出せたよ。ありがとう。どうかその命僕の分まで生きて。そしてどうか僕を利用した日本人を嫌いにならないで。 

         1948年3月25日川島芳子」




 看守の話に寄ると芳子さんは執行人からの目隠しを拒み銃口を睨むように見つめ辞世の句を読みながら死んでいったそうです。

「気高く誇りに満ちた最期でした。」

看守が語ります。最期まで自身が生まれた清朝の王女として生を全うしたかったのでしょう。

芳子さんは以前私に話してくれました。僕と君は一緒だと。川島家とは折りは悪く、その後一度だけモンゴルの王子と結婚したが3年で離婚。かつて一緒に暮らした女性はいましたが彼女は男性と結婚。家族と呼べるのは中国にいた亡き父と母だけで自分は天涯孤独だと。

 きっと芳子さんが天国で家族と再会しているのなら結果的にこれでも良かったのかもしれません。

私は看守にお礼を言って監獄を後にする。

「苺花さん」

帰り際に看守に呼び止められる。

「川島さん言ってました。貴女を助けたのは間違った選択じゃなかったと。今お辛いでしょうが川島さんのためにも前を向いて生きて下さい。」

「ありがとうございます。」

私は看守に一礼する。






 あれから20年が経ちました。

私は日本の横浜に夫と店を構えてました。私が芳子さんの店で働きはじめて2年後家賃滞納で店は閉めることになりました。その後芳子さんの上官の紹介で日本人が経営するホテル内の中華料理店に再就職しました。10年前私はオーナーの日本人と結婚。3年前新店舗を構える際日本を提案したのは私です。


「どうか日本人を嫌いにならないで」


芳子さんの最期の言葉がずっと脳内を離れずにいました。私は一度芳子さんが育ち愛した日本に行ってみたくなったのです。

 3年前私は芳子さんが亡くなった時と同じ年齢になりました。長野県の松本にお墓があると聞いて手を合わせてに行きました。

 17年振りの再会でした。私は芳子さんとお墓の前で約束しました。

「貴女から救われた命必ず全うしてみせます。」

そしていつか向こうで再会したら必ず伝えよう。貴女のことが好きでしたと。

 

                   FIN


実際の裁判では弁護士はついたものの芳子様を助けるために証人はおらずほぼ1人で戦っていたようです。

 川島家に戸籍に細工して送ってくれと頼んだものもそれも叶わなかったとか。もし助けてくれる人がいたらと思って書いてみました。

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