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第五話 デートしましょう

 次の日、私達は荷物を京都駅に預けて、ずっと北にある貴船神社に来ていた。電車とケーブルカー、それからバスを駆使して辿り着いた神社は、確かにそれだけの価値があると思った。今朝、ホテルでいつまで経っても起きそうにない先輩を引っ叩いて起こしたのは、とても愉快な気持ちだった。

「ようし、じゃあさっそく縁結びで有名な結社でお願い事をしましょう!」

 専用の紙を購入して、願い事を書いた。先輩も書いたけど、お互いに見ないことにした。

「四日間の中で、ここが一番気に入りました。結婚式もここでしましょう」

「いくらなんでも気が早くないか?」

「こういうのは悩み出したらきりがないんですよ。それに、あれこれと吟味するのは得意じゃありません」

「頑張って費用を稼ぐよ」

「二人で頑張って、バリバリ仕事しましょう」

 これからの人生に負けないよう、二人で何があっても生きていけますように。私が願ったのはそれだけだ。欲しいものだとかは願ってない。それは自分で手に入れるものだ。転がり込んでくるのを期待するのは好きじゃなかった。

「じゃあ、一通り見て回ったら、街に戻りましょうか。そういえばにしんそばを食べ忘れていましたからね」

 結びつけた文をあとにして、歩き出した。でもそのとき、先輩が私の肩を掴んで引き留めた。何事かと聞いてみると、先輩は歯切れの悪い様子で、もごもごと何か言いたそうにしていた。

「どうしましたか? あ、お腹が痛いとか」

「いや……違う。そうじゃないんだが……」

「もう、はっきりしないですね。昨夜の男前はどこに行ったんですかー?」

「…………」

 先輩はあっちこっちに視線を泳がせて、何かを言いかけてはやめてを繰り返していた。私はそんな先輩が可愛くなって、先輩の両手を包み込むようにした。

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ほら、どうしたんですか?」

「……好きだ。俺と、交際してほしい」

「……はい?」

 今更何を言っているんだろうか。私が面食らっていると、先輩は畳みかけるように説明を始めた。

「い、いや、ほら、俺達ってこれまで一緒にいることが多かったけど、きちんと気持ちを伝えてなかっただろ? やっぱさ、なんかこう……ちゃんとけじめをつけたかったんだよ!」

「……そう来ましたかあ」

「え、俺なんかやらかした?」

「そうじゃないですよ」

 私は先輩の両肩に腕を乗せて、そのまま手を背中に回した。そう。抱擁だ。先輩の方がちょっと背が高いから、もたれかかる感じになった。先輩の言葉が嬉しくて、くすぐったくて、こうせずにはいられなかったのだ。でも、にやけた顔を見られるのは嫌だったので、顎を肩に乗せた。

「私も先輩が好きですよ。お付き合いしましょう。ええ、喜んで。だから、デートの続きをしましょう」

 どこかから、囃し立てる声が聞こえた。まったく、外国人というのは困ったものだ。でも、全然悪い気はしなかった。むしろもっと盛り上げてほしいくらいだった。

 旅行から帰ったら、どこで暮らしていくかを二人で考えよう。本当にこの街にしちゃってもいいだろう。空は広いし、ちょっとしたお出かけスポットがいくらでもある。まあ、そのためにはこっちで仕事を見つけないといけないけれども。

 ずっと昔から、遠くに行きたかった。けど、ずっと不安で何もできなかった。一人が嫌だったから。私は、不出来な人間なんだろう。気分屋で、甘えん坊で、不機嫌なときには信頼している人に当たり散らして。きっとこれからもそうだ。でも、先輩はそんな私が好きで、一緒にいてくれる。いてくれるなら、大丈夫だ。先輩となら、大丈夫だ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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