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7.怪しい宝石

俺とミリアは遠ざかる陸地を眺めていた。乗った船は帆船でまあまあ大きな船だった。


『船の中を冒険するか?』

『うん!』


俺達は船の中をあちこち歩き回った。船倉には大きな荷物がいっぱいだ。どんなものがあるのかも興味があって見て回った。


操縦室も見に行く。子供と猫だけなので、乗員も笑いながら室内を見せてくれた。へえ、ここはこんなふうになってるんだ。ふんふんふん。


初めてのものばかりで楽しいなぁ。


乗客もかなりいる。船旅は一週間だそうだ。

俺達は乗客に挨拶しながら全員を回った。もちろん目的はある。猫の俺は耳も鼻も人よりいい。

あの赤野郎達は同じ匂いがした。お香のような匂い。だからもし、同じ匂いがすれば、きっとダルラファ教の関係者だ。


それにもし怪しい会話をしていれば、俺の耳には聞こえるはずだ。


あちこち歩き回って、船酔いの心配も無さそうなので、甲板で日向ぼっこをする事にした。


ふいにミリアが屈んで何かを拾っている。

『どうした?』

「キラキラの小石だよ。綺麗だね〜。」

俺は覗き込んで息を飲んだ。それは信じられない程大きい宝石だった。鮮やかな緑の石はエメラルドだろうか。陽の光を反射して更に鮮やかだ。それにも関わらず、その石が放つ禍々しさにゾッとする。


『ミリア、その石を離せ!』

「嫌だよ。これはミリアが拾ったの!」

『ダメだ!手を離せ!』

ミリアは石を握りしめて離さない。いつもは絶対にこんな事を言わない子だ。この石はおかしいと俺の本能が警鐘を鳴らしている。


仕方がない。俺はミリアに体当たりをかけようとした。所が、その時、ミリアの背後に立った男がミリアを抱き上げたので、俺の体当たりは空振りになってしまった。


「おやおや、乱暴な猫ちゃんだね。お嬢ちゃん大丈夫かぃ?」

「おじさん、ありがとう。ルルーは嫌い。」

「じゃあ、おじさんとおいで。」

「うん、行く。」

『ミリア!行くな!そいつは駄目だ!』


ミリアは俺の方を振り向きもしない。

駄目だ!駄目だ!そいつには石と同じ嫌な気配がする!

走って二人の前に出ると、俺は低く唸った。


「行儀の悪い猫だ。お仕置が必要だな。」

男が俺を一瞥するだけで、俺は床に押し付けられて、身動きが取れなくなった。必死に前足を動かそうとするが動かない。


男はニヤリと笑って、ミリアを連れて去っていった。


床から俺を助けてくれたのは亜麻色の髪の少女とその兄の兄妹だった。確か、挨拶した時は、フングルの商家の兄妹だと聞いた。さっきの男はガヤの医者だと言っていたはずだが、その時にはあんな気配はしなかった。


「お兄さん、さっきの猫ちゃんだわ。どうしたのかしら。」

「病気かな?確か、飼い主の女の子がいたはずだけど、どこに行ったんだろう?」

女の子が俺に触れると、それまでの押しつぶされる圧力がふっと消えた。俺は自力で立ち上がった。体には異常は無さそうだ。


「にゃぁん。」

俺は二人にお礼のつもりで一鳴きし、ミリアの匂いを追った。ところが、途中で匂いが消えていて、ミリアの居所がわからなくなってしまった。

俺は客室のある階から、船倉まであちこち走り回った。また甲板を走っている時、離れた所でさっきの兄妹の声がした。


「お兄さん、どうしたのかしら。あの猫、ずっと走り回っているわね。」

「飼い主を探しているんだろうね。」

「船員に伝えた方がいいかしら?」

「うーん。どうだろう。船員には無理かもしれないよ。」

「あら、お兄さん、なんか感じたの?」

「まあね。」


俺は足を止めて、兄の青年をじっと見た。俺に見られているのに気づいたんだろう。彼は俺の方を見て微かに笑みを浮かべた。


こいつ、普通じゃないな。どうする?信用してもいいのか?船の上では見覚えの無い人間に変わるのは難しいだろう。ミリアが自分からついて行ったのも、あの宝石の力が関係しているかもしれないし、俺では対処出来ないかもしれない。

それにあの青年には、何か分からない力がある気がする。


俺はゆっくり二人に近づき、一声鳴いた。

「にゃうう。」


『妙な猫くん。私に何が頼みたいのかな?』

いきなり頭の中に話しかけてきた。

『俺と一緒にいた女の子、ミリアが攫われた。助けて欲しい。お願いします。』

『ふむ、ちゃんとお願いができるのはいい事だね。それで、誰に攫われたんだい?』

『ガヤの医者と言っていた男だ。』

『あぁ、彼か。ちょっと嫌かなぁ。こちらも怪しまれたくない相手だしね。』

『お願いします。きっと俺一人では助けられないと思う。力を貸して下さい。』

『私なら助けられるとでも?初対面の相手をそんなに信用してはいけないよ。君は世間知らずだね。』


どうしたらいいだろう。俺は確かに世間知らずで、力も無い。この人を説得する力も無い。


『それで、君は何ができるの?まさか、こうやって話ができるだけ、なんて言わないよね。』

俺は悩んだけど、力を貸してもらう為に正直に言おうと腹を括った。

『変身。』

『変身?それは何?』

『俺は猫だけど、猫以外に姿を変えられる。』

『それは凄い!だったらその力を使ってミリア嬢を助ければいい。私は手伝わないよ。』

『え?どうして。』

『君は自分のできる限りを尽くしたのかい?それもせずに他人に頼るのはどうだろうね。世の中はそんなに甘いものじゃない。出会う人がみんな善意の塊だなんて思っているのか?』


俺は返す言葉がない。この人の言うことは正しい。この世界に来て、今まで出会った人は赤野郎達を除けば、全ていい人達だった。俺はこの世界の善意に慣れてしまっていたのだろう。


元の世界でも、俺は悪意と向かい合った事もなく、必死になった事もない。剣道は一生懸命頑張ったが、楽しく努力したという感じだった。


『すみませんでした。』

『わかったのなら、それでいいよ。それでも、どうしても手に余るようだったら、訪ねておいで。』

『はい。ありがとうございます。』


確かに俺は闇雲に走り回っていただけだった。もっと、手があるはずだ。



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