4.ジョブチェンジ
町に入って直ぐに昨日のゴロツキに会ってしまった。
俺たちは慌てて逃げようとしたが、子分と三人に囲まれて路地に追い込まれてしまう。
俺はゴロツキとミリアの間にたち、低く唸った。
「待ってくれ。サーラはどうしたんだ?」
なんだ?今日はゴロツキ感があまりないぞ。
「お姉ちゃんを探しに来たの。」
「サーラ、どうかしたのか?」
「攫われた。」
ミリアはまた泣き始めた。ゴロツキは慌ててしゃがみこんでミリアをよしよししてくる。意外と良い奴なのか?
「お兄ちゃん、昨日はお姉ちゃんを虐めてた。」
「違うよ。俺はサーラが好きなだけだ。だから話がしたかったのに、見た目がこうだから、サーラが怖がって逃げちゃってさ。どうしても話がしたかったから、強引に。この猫は邪魔するから、カッとなって、すまなかった。」
『ミリア、赤い奴の事を聞いてみろ。』
『分かった。』
「お姉ちゃん、赤い服着た騎士に連れてかれちゃったの。見なかった?」
ゴロツキ、いや訂正、町の青年1、は首を横に振ったが、子分が言った。
「俺見たよ。今朝港に居た。船に乗るところだった。」
『どこゆきだ?ミリア聞いてくれ。』
「何処に行く船だった?お兄ちゃん教えて!」
「確か、フングルの港行きだったと思うよ。」
子分訂正、町の青年2だ。
町の青年1が心配そうに聞いてきた。
「追っかけるつもりか?」
「うん。」
「どうやって?船代はあるのか?」
金の事はこれから考えなきゃいけない最大の事だな。
ミリアが返事をしなかったら、青年1は財布から金貨2枚を取り出して、ミリアに握らせた。
え?金貨って凄くないか?もしかして、青年1は金持ち?青年1、訂正、金持ち息子だな。
「これ、お前にやるから、頑張れよ。俺達はついて行ってやれないし。おい、猫、守ってやれよ!」
「にゃあん!」当たり前だ!
『そうだ、ミリア、赤い野郎の服から俺が剥がした紋章を出して、見覚えないか聞いてみろ。』
『うん。分かった。』
「お兄ちゃん達、これ、見た事ある?」
金持ち息子と友達1は首を横に振ったが、友達2が
「俺、知ってる!」
と答えてくれた。
「ダルラファ教の聖騎士の印だ。」
『ダルラファ教って知ってるか?ミリア。』
『知ってる。』
『よし、後で俺にも教えてくれ。それで、ダルラファ教の本拠地に行くには、フングルに行けばいいのか?』
『わかんない。』
『聞いてみろ。』
「フングルの港からダルラファ教の教会って近いの?」
「近くはないけど、ここから大聖堂に行くなら、まずはフングルに行って、そこから東のガヤの町を通って、大聖堂のあるハマーンに行くことになるね。」
『フングルの港行きの船はいつ出るんだ?』
「フングル行きの船は、いつでるか知ってる?」
これには金持ち息子が答えてくれた。
「今朝出たばかりだから、次は3日後だな。」
「ありがとう。」
俺達は彼らと離れて、別の路地に隠れた。
『三日も先か、参ったな。』
『お家に戻る?』
『いや、ここで旅費を稼ごう。』
『どうやって?』
『心配するな。俺が稼いでやる。ミリアは髪の毛の色と長さを変えろ。お前の髪は目立つからな。』
『うん。分かった。』
俺は町民に変わり、ミリアを連れて、宿屋に入る。サーラの給金があったので、それを使って一部屋とり、ミリアに部屋にいるように言って、外に出た。
猫に戻り、毛の色を変えてみた。これくらいなら気を抜いても直ぐには戻らないようなので、目立たない灰色に変える。白が気に入ってるけど、目立つからな。
町の中をぐるぐる歩き回ってみたら、貼り紙を見つけた。
【代理歌姫募集。今日、明日の舞台で金貨5枚。】
破格だ!よし、これ行ってみよ。
そういえば、俺はこの世界の言葉が読む事も書く事もできる。便利と言えばそうなんだが、不思議だ。変身できる体もそうだけど。
また町民に変わる。これ、本当に便利だな。
「すみません。表の貼り紙を見たんですけど。」
「はあ?歌姫って書いてあるだろ?男はお断りだ!」
「俺じゃなくて、知り合いなんですけど、ちょっと稼ぎたいので、歌わせて貰えませんか?」
「本当に歌えるんだろうなぁ?」
疑わしそうだ。そりゃそうだよね。
「大丈夫ですよぉ。良かったら今から連れて来ますよ。ただ、三日後にはこの町を出るんで、今日、明日しか歌えないんですよね。」
「それは構わないよ。うちも専属の歌姫がいるからね。その娘が親が死んでさ。今日明日は来れないんだ。じゃあ、今から連れてきてくれ。」
「近くに居るので、来させますよ。俺は一緒に来れないけど、サマンサって言います。」
「分かった。ここで待ってるよ。」
俺は頭を下げて、また人目をさけて路地に入った。
今度のイメージはもちろん歌姫をイメージする。声は有名な外国の人気歌姫の声にする。空気に溶け込むような、甘くて透明な声が気に入ってる。姿はもちろん、出るとこは出て、締まるところはグッとしまった素敵なボディだ。服は普通の服にするので、そんなに体型は目立たないが、見る人が見れば、わかるはずだ。
出来た。よし、上出来。顔はちょっと綺麗程度、後は化粧で化けられる。
「あの、サマンサと言います。」
よしよし、いい声だ!
「話は聞いてるよ。うん。なかなかいいじゃないか。中で一曲歌ってもらおうか。」
「はい。」
俺は酒場の親父について店に入る。店の真ん中にはちょっとしたステージがあった。
俺はステージに立つと深呼吸する。緊張するなぁ。
それから静かに歌い始めた。もちろんモデルにした歌姫の代表作だ。これがいい歌なんだよな。
最後の一小節を歌い終え、声が消えて行くと、親父は凄い勢いで拍手していた。
「凄いじゃないか!いいよ!凄くいい!看板を出して客を呼び込むぞ!給金も倍出してやろう!!」
顔を真っ赤にして興奮している。そうだろう、そうだろう。
俺は夕方来ることを約束して、店を出て路地裏で町民に戻り、宿に戻った。




