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24.聖女に手を差し伸べたもの


俺達の睨み合う部屋に音も無く入ってきた相手に対し、男は満足そうに声をかけた。


「よく来た。暗示が効いて嬉しいよ。さぁ、その歌人の力でそいつを殺してくれ。」


男は入ってきたオーガスタに嬉しそうに指示を与えた。

しかし、オーガスタは俺に近づき、その横に並んで男を正面から睨みすえた。


「な、なぜ?オーガスタ、そいつを殺せ!」


「残念だったな。もう私への洗脳は解けているよ。」

「そう言う事だ。俺も守護者だからな。お前に出来ることなら、俺にもできるはずなんだ。」

「まさか、しかし、バラが。」

「お前が王弟に使おうとしたバラが手元にあったから使わせて貰った。教えて貰わなくてもバラに触れたら使い方がわかったよ。」

「!・・・くっ。」


「先代聖女を殺したのは、確かに私の祖先だ。」


男はオーガスタを射殺しそうな目で睨みつけた。


「まだ当時は10才位だったそうだ。」


男に記憶に去来する幼い少年の姿。アマンダが可愛がっていた少年。その少年がアマンダを。


「聖女は死にたいと繰り返していたそうだ。兄は優しすぎて、自分を殺してはくれないと。そして、少年が歌人だと知り、殺して欲しいと頼んだそうだ。」

「アマンダが頼んだと言うのか?」

「少年はまだ家業を継いでは居なかったが、その技は身につけていた。幼くても才能のある少年は、大人と同じように技を使う事ができた。だから、少年は姉とも慕う、美しい少女の願いを叶えることにした。彼女の望む通りに。最愛の兄が居ない日に。苦しませず、幸せな夢を見させながら。」


男が両手で顔を覆い、うずくまった。泣いているのだろうか、肩が微かに震えている。


「アマンダが俺の居ない日に死にたいと言ったのか?どうして。」

「あなたに殺して欲しかったけれど、殺して貰えないことがわかった彼女は、兄の目の前で死に、兄を苦しめる事を避けたかったんだろう。少年は彼女に苦しませないと約束してくれたから。きっと自分の死に顔は愛する兄を苦しめないと思ったのかもしれないな。」

「苦しまなかったのか?」

「彼は天才だったからね。10才で、今の私よりも優れた歌人だった。痛みを感じさせず、きっと幸せだった頃の事を思い出させながら、命を奪ったと思う。彼女の死に顔は美しかっただろう?」


男は床に身を投げ出して泣き崩れた。

俺達はただ、それを黙って見守るだけだ。



俺は少し油断していた。男の後悔の涙に全て終わったと思っていた。でも100年の執着の怖さをわかってはいなかった。



男はオーガスタの部下に囲まれ、大人しく部屋を出て行くところだった。俺は咽び泣くサーラの背中を優しく撫ぜながら、彼女を慰めていた。親友が彼女を騙し、殺し、聖女を死にたくなるほど傷つけた事は、サーラを酷く傷つけ、後悔させた。俺はサーラのせいじゃないと何度も繰り返し、彼女に囁き続けていた。

だから、気づくのが遅れてしまった。

男がミリアを抱いてオーガスタの部下を殴り倒し、部屋から飛び出した事に。


「ミリア!!」


目の前に煙幕が広がり、視界を奪われた僅かの隙に、男は姿を消していた。



あの野郎、いい気になりやがって!もう絶対許さない!


「ルルー、追うぞ!」

「あぁ。」

「彼の塒は調べがついている。既にそこは捨てていると思うが、何か手がかりがあるかもしれない。」

「そんなまどろっこしい事はしない。このまま匂いを追う。」

「しかし、屋敷中に異臭が撒き散らされ、追えないだろう?」

「あいつじゃない。ミリアの匂いを追う。」

「わかった。訓練した犬を用意しよう。」

「要らない。俺が追う。俺が居ない間、必ずサーラを守ってくれ!」

俺は狼に姿を変えた。狼の臭覚が遠く離れた場所のミリアの匂いを捉えた。

『見つけた!』

「ドーラ、私達が居ない間、サーラ嬢を守れ!」

「任せて、お兄さん。」


駆け出す俺を追って、オーガスタと配下数人が馬で追走する。


この100年で一体どんな力をつけたのか。全速力で追うが直ぐには距離が詰められない。

俺達が男に追いついたのは、街を出て少し行ってからだった。



「今度は狼か。一体幾つの姿を持っているのか。俺にその力があったら、アマンダを守る事ができたのかもしれないな。」


俺は人型に戻り、刀を構えた。


「お前は不老不死なんだろう?それなのになんで妹一人守れなかったんだ。覚悟が足りなかっただけだろ。」

「残念ながら、不老不死だと気づいたのはアマンダが死んだ後なんだ。知ってたら何かやりようもあったかもしれないな。俺はアマンダへの償いとして、この娘を幸せにするんだ。」

「馬鹿言うな!攫われたミリアが幸せになる訳がない!」

「大丈夫だ。まだこの娘の分のバラは残っている。」

「ミリアに暗示をかける気か?ミリアを返せ!」


俺達は狂った微笑みを浮かべる男を睨みつけた。ミリアは男の胸に抱かれていて意識を失っているようでぐったりとしている。


「ルルー、生きて捕らえようと考えてはいけない。」

「オーガスタ。それって。」

「そう。彼にその長い人生を終わらせてあげなければ、彼の執着は止まらない。」


「オーガスタ。その坊やには無理だな。君が私を殺すか?その歌で。君の祖先がアマンダを殺したように。でもここには人が多い。他の人にも歌が届いてしまうのではないか?そこの坊やにも、この聖女にも。」




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