22.君が好きです
部屋に戻った俺は、サーラに聖女達について聞いてみたい事があった。
「なぁ、サーラ。守護者って、どんな人がなるんだ?」
「どんな人?」
「うん、俺、まだ守護者って実感がなくってさ。」
「そうね、色々な人がいたわ。兄妹だったり、恋人だったり、幼なじみだったり。大体は元々知り合いだった事が多かったかな。たまに、旅先で知り合ったりもしていたけど。猫はルルーが初めてね。」
サーラが微かに笑った。
再開してからのサーラは一緒に住んでいた時のようには笑わない。もっと元気に笑って欲しい。
「聖女はどんな人?」
「優しい人。聖女は聖女の種を持って産まれるの。それが芽生え、育って、花を咲かせると聖女の力が使えるようになるの。私が聖女に気づくのは少しその芽が育って、もう少しで蕾が付くかなって頃ね。花が咲くまでの時期は人それぞれで、出会ってから直ぐに花開いた人もいたし、なかなか咲かない人もいたわ。」
「ミリアは?」
「まだかかりそうね。ミリア程幼い時に気づいたのも初めてなのよ。出会った時はびっくりした。でもそうね。出会いは運命なのかもしれない。」
「じゃあ、最年長は?」
「聖女が22才の時だったかな。その方は直ぐに花開いて聖女として覚醒されたわ。」
「サーラ、もし、もしもだよ、サーラがその人達と出会わなければ、聖女は聖女として覚醒せず、普通の生活を送り続けられたのかな?」
サーラは俯いて少し口ごもるように答えた。
「そうかもしれない。元々その力はあるとは言うものの、目覚めなかったかもしれないわ。」
「聖女って幸せになれるの?」
しまった!言い方が悪い。
サーラが目に涙を浮かべながら怒りに顔を強ばらせた。
「私が悪いの?聖女を求める人達がいるでしょう?その人達はどうなの!私はずっと記憶を持ち続けて、それだけが役割のように生きてきたのよ!私には自分の人生も無くて、前回はまだ20にもならないのに殺されて。でもそれが自分の役割って我慢して。ずっと我慢して。それでも私が悪いの?」
「ごめん。サーラ。ごめん。」
俺は泣き続けるサーラの背中をそっと撫でながら謝り続けた。自分の人生は無かったと言うサーラ。俺には想像もできない人生だ。サーラだって影じゃなければ違う生き方ができたのに。
聖女なんてクソ喰らえだ!
庭で遊んでいたミリアが戻ってきた時にはサーラも泣き止んでたけど、まだ目が腫れぼったがったから、お姉ちゃんを虐めたとミリアに凄く叱られた。
ごめんなさい。
落ち着いたサーラにきちんと頭を下げて謝った。
「ごめんなさい。」
「ルルー、私こそ泣いてごめんなさい。でも、初めて言えて、なんだかスッキリした。」
「うん。」
「私ね、守護者に恋した事もあるのよ。絶対見込みのない恋だったけど。彼には聖女しか見えてないし。でも、初めての恋だったの。一緒にいれただけで嬉しかった。」
「サーラ、俺は君が好きだよ。」
「え?」
おぉ、勢いで告っちゃった。でもちゃんと伝えなきゃ。
「俺は君にずっと笑っていて欲しい。君は綺麗だから他の奴にも好かれると思うけど、隣で、君の隣で、君を幸せにするのは俺がなりたい。俺はサーラ、君が好きです!」
サーラが驚いた顔で俺を見ている。だよね。うん。でも俺は君が好きだから。
「私?」
俺は力いっぱい頷いた。
「聖女じゃ無くて、私?」
「ミリアは妹だろう?」
「私でいいの?」
「サーラじゃなきゃ嫌だ!俺が好きなのはサーラだけだから。」
俺はあちらの世界では、子どもの頃から結構モテていた。ラブレターやプレゼントも良く貰った。でも、なんだか好きって気持ちが分からなくて、爺ちゃんにはガキだとよく笑われた。
サーラだけだ。本当に笑顔を守ってあげたいと思ったのは。ずっと一緒にいたいと思ったのは。本当に愛しいと思ったのは。
「ルルー。そんな事言われたのは初めてだからまだよく分からないけど、でも、ありがとう。嬉しい。」
「俺、今まで人を好きになった事がなくて、サーラが初めてなんだ。これからは俺が君を守るよ。」
「ルルー。人がって、猫は?」
「え?そこ、突っ込むところ?無いよ。だいたい、俺は猫だけど、猫じゃないから。」
俺がちょっと不貞腐れると、サーラはくすくすと楽しそうに笑った。
ミリアは二人が仲直りしたと、満足そうだ。
「そういえば、ルルー、なんで人になれるの?」
「あぁ、言ってなかったね。俺は別の世界から飛ばされてきて、気がつけば、こちらの世界の猫になってた。今の姿は飛ばされる前の世界の姿だよ。」
「え?それって凄く大変な事じゃないの?」
「うん。まぁね、そうだね。」
「ご家族は?」
「両親はいる。兄弟は居なくて、一人っ子。」
「どうしてこの世界に?」
「分からないよ。ある日突然だったから、びっくりした。あちらの世界に戻れるとは思えないけど、もし、戻る事になったら俺と一緒に来て欲しい。」
「お姉ちゃん、ルルー、私も居ること忘れてない?」
二人の世界に浸っていた俺とサーラは、ミリアの不機嫌な声で現実に引き戻された。思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
「ごめんごめん。その時はミリアも一緒だ。ほら、一緒に遊ぶか?」
「うん。」
「何がいい?」
「お歌、歌って。」
「ルルー、歌えるの?私も聞きたい。」
「ううん。自分で歌えるのとは少し違うけど、まぁ見てて。」
俺はお気に入りのシンガーソングライターに姿を変える。手にはギター。そして、彼の人気曲を披露した。ちょっとスローテンポなバラードとアップテンポなラブソング。
「ルルー、かっこいい!」
ミリアからは絶賛を浴びた。サーラは目を丸くして驚いている。元の姿に戻ってミリアをおんぶして遊んでやる。
「驚いた。でも何故、顔も声も変わるの?」
「うーん。俺はあまり歌って得意じゃないから?」
「え?」
「歌の上手い人をイメージして変わると、その人になりきれるんだよ。」
「さっきまでの楽器はどこに行ったの?」
「あぁ、あれ。あれは俺の猫の毛って感じかな?自分でもよく分からないけど、出したければ何でも出せる。食べ物やお金はダメだし、手から離せば猫の毛に戻ってしまうけどね。」
「凄い!そんな事できる人、初めてだわ!聞いた事もない。」
「まあね。でも便利だろう?」
「う、うん。」
「俺はきっと君を守るよ。俺の事、急には無理だと思うけど、考えて。」
サーラは頬を染めて頷いた。耳まで赤くなっているのが可愛い。
「うん。」




