21.サーラの記憶
オーガスタに気づかれていたので、諦めて天井裏から降りる事にしたその時、ふと他の気配を感じた気がしたけれど、その気配はあっという間に消えてしまった。オーガスタも気にしていなかったから、気の所為なんだろう。
『なんで見えてるんだよ。』
「ふふふ。君の気配はわかりやすいからね。」
『嘘!そんなに?』
「それで?彼の話を聞いてどう思った?」
『もっと嫌な奴だと思ってたから、急にいい人になっても、正直困る。思いっきり復讐してやろうと思ってたんだけどな。』
「サーラ嬢は起きたかな?彼女に誰に傷つけられたのかを確認しよう。二人と食堂に降りておいで。朝食を食べよう。」
『わかった。』
俺が人になって部屋に戻ると、サーラもミリアも身支度を終え、部屋を出るところだった。二人を連れて、食堂に向かった。焼きたてのパンの匂いとコーヒーの香りがする。
「おはよう。さあ、座って。」
俺たちはオーガスタに促されるまま、席に着いた。
「話は後にして、まず、食事を食べよう。」
朝食はパンもソーセージも美味しくて、この世界に来て初めてコーヒーを飲んだ。今まではお茶しか見た事がないから、きっと高級品なんだろう。ふわふわのスクランブルエッグはチーズが入っていて、トロトロだ。それに卵の味が濃いのか、少し入っているハーブの香りが更に卵の味を引き立てていて、凄く美味しい。
こういう食事をしていると、やっぱり猫より人だと実感する。
お腹が一杯になった頃、侍従がお茶を全員に出してくれた。お腹一杯なのに、このお茶は飲んだら口も胃も凄くスッキリする。中国茶のような成分が入っているのかもしれない。
「サーラ嬢、落ち着きましたか?」
「は、はい。お世話になり、ありがとうございます。」
「ひとつお伺いしたいのですが、あなたは発見された時、かなりの大怪我だったとルルーに聞きました。誰があなたを傷つけたのですか?」
「分かりません。突然痛みを覚え、その後の事は何も。そんなに酷い怪我だったのですか?」
「そのようですよ。ルルーが治してくれました。」
「ルルー、そうなの?ありがとう。全部ルルーのおかげね。」
「そうよお姉ちゃん。ルルーは凄いのよ!」
二人が花が咲くような笑顔を向けてくれる。この笑顔だけで、俺、頑張って良かった。
「攫われてからあなたは酷い扱いをされましたか?」
「いいえ。なぜか、とても大切に扱われていました。」
「ふむ。彼の言う通りのようですね。」
「あ、そういえば。」
「何か思い出しましたか?」
「私が気を失う前、男の人の声がしました。」
「何を言っていたか覚えていますか?」
「お前が死にかければ、あいつがやってくる。と言っていたと思います。」
あいつ?俺か?でもそんな知り合いはいないぞ。
それに、サーラが死にかけなくても、俺は助けに行くぞ。なんだって言うんだ?
「そうですか。では、また何か思い出したら教えて下さい。ところで、あなた方は、この後どうされるのですか?」
「まだ悩んでるんだ。もう暫く、ここに居させて貰ってもいいかな?」
ちらっとサーラを振り返って様子を見るが、まだ気持ちは揺れてるみたいだからもう少し考えさせてあげたい。
「じゃあ、俺たち部屋に戻るよ。サーラ、ミリア、行こう。」
「うん。」
俺はミリアの手を引いて部屋を出ようとして、サーラを振り返ったら、サーラが何かに目を奪われていた。何を見て?え?小瓶?
サーラが見ていたのはあのバラの花びらの入った小瓶だった。
「あ、あの、その花びらは・・・」
小瓶はドーラの手の中にあった。
「え?これの事ですか?」
「は、はい。」
「先日、ルルーとミリア嬢が手に入れたものです。何か見覚えがありますか?」
「聖女のバラですよね。それ。」
聖女のバラだって?あの、焼かれたバラ?
「サーラ嬢、間違いありませんか?」
「え、ええ。」
「この花びらは何かの効果がありますか?」
「はい。守護者はその花びらを使って、人の心を操る事ができます。」
「つまり、聖女の一斉洗脳の劣化版ですか?あなたも使えるのですか?」
「いいえ、私は。使えるのは守護者だけです。聖女の勤めの手助けとして使っていたようです。私は使い方も知りません。」
また守護者か。先代守護者、あんた何してんだよ。
でも、どんな奴だったんだろうな。
オーガスタを見ると何か考え込んでいるようだ。
サーラは懐かしそうにバラを見ている。
「ルルー、君も使えるのか?」
オーガスタに言われ、自分でも考えた。俺も守護者ならば使えるのか?
「いや。使えないと思う。分からないけど。」
「そうか。」




