20.鮮紅の騎士
翌朝、俺は猫のまま、庭を散策していた。
猫の姿でいると、蝶々が飛んでいるのを見るだけで、追いかけたくなるのは何故だろう?
早い時間なのに、玄関に近づく人影が目に入った。
(朝食前に人んちに来るって、誰だ?)
自分がいる場所からでは、相手がよく見えないので、玄関近くに近づいた。
(え!嘘だろう?なんで赤野郎が!サーラを追って来たのか?殺しかけといて、何のつもりだよ!!)
どうやら侍従に取次を頼んでいるようだ。オーガスタに話があるのか?侍従が戻ってきて、案内する気配がした。
どうする?部屋に戻って聞き耳たてるか?でも話の様子も見てみたい。とりあえず、足音を忍ばせて天井裏に潜む事にした。この体は大型猫なのに、以外に身軽で足音を立てることもない。耳も良いので、音も拾いやすいのだ。
俺は足音を忍ばせて応接間の天井裏に向かった。ちょうど侍従がお茶を運んできたので、そのドアの開け閉めの音にあわせて動くようにする。
部屋の中にはあの赤野郎とオーガスタ、ドーラがソファに座って向き合っていた。
「突然の訪問、申し訳ありません。」
「いえ、それでご要件は?」
「探し人をお願いしたい。あなたの事は以前から王弟閣下からお伺いしておりました。」
あれ?王弟閣下って、聖女排斥派じゃあなかったのか?
「カース様と王弟閣下は遠縁にあたられるのでしたね。」
「その通りです。子どもの頃には良く剣を教えて頂きました。私が尊敬する方です。」
え?こいつ、王族?サーラを攫った時と人変わってない?あの問答無用の悪役感はどこに行ったんだよ!
「そうでしたか。それで、お探しの人とは?」
見えてない筈なのに、オーガスタが俺の居る場所に視線を向けた気がする。まさかね。
「私が聖女として教会に連れて行こうとしていた娘です。ローゼン司祭様に治癒の力を持っていない事を見抜かれ、牢に入れるよう命じられていました。」
「それで?」
「王弟閣下からあなたには隠し事をせず、全て話して助けを乞うように教えられました。私はその娘が聖女では無いことも最初から知っていたのです。」
「そうなのですか?」
「はい。聖女はその娘の妹だと思っています。私が探して頂きたいのはその二人です。私は無理やり姉を聖女として攫って来ました。妹である聖女を護る為です。姉を攫った後、直ぐに妹の保護に信用できるものを送ったのですが、家はもぬけの殻でした。幼い娘一人でどこかに行ってしまうとは思っていませんでした。私の手の者は町を探し回り、娘が船でこちらに向かったかもしれないとの情報をもたらしました。」
誰に聞いたんだろう?俺たちとあの金持ち息子三人組の話を聞いてた人から話を聞いたのか?
「港町で幼い娘が一人で旅をしているのを見かけたという報告がありました。猫を一匹連れていたそうです。しかし、髪色も猫の毛色も違った上に、まかれてしまいました。確かに娘の傍には猫が居ましたが、私が斬り捨てたので、あの猫が生きていたとは思いません。しかし、幼い娘の一人旅というのが気にかかり、ガヤの町に入った所までは突き止めたのですが、その後の消息が掴めません。」
「妹はその後行方不明と言うことですね?」
「そうです。」
オーガスタは初めて聞く話みたいな顔をして聞いている。なんかなぁ、やっぱり気づいている気がするんだよなぁ。
「それで、姉は?あなたの所に居たのではないのですか?」
「そうです。ローゼン司祭様が立たれるまでと牢に入れておりましたが何者かに攫われてしまいました。それもそこには大量な血が流れていて、生きているのかどうかも分からないのです。」
「その娘を傷つけたのはあなたでは無いのですか?」
「とんでもありません!私は絶対に傷つけていません!」
「しかし、あなたが力づくで攫った娘ですよね。」
「そうです。過去の聖女の記録はありませんが、私の母の乳母の家はその昔、聖女に救われた方のお傍に仕えていたそうです。その時の聖女の傍には、聖女よりも少し年長の同じ緑の髪の娘が仕えていたそうです。」
「そうなのですか?」
「私は幼い頃からその乳母に聖女の話を聞かせて貰うのが楽しみでした。人を癒し、慈愛溢れる聖女の話は何度聞いても飽きる事はありませんでした。そして、その聖女を護る騎士の話は私に騎士を目指させるものでした。一生の間に聖女に会えるとは思っていませんでしたが。」
「それ程、聖女を慕うあなたが何故、姉を攫ったのですか?」
「見つかった聖女が偽物であることを証明し、聖女を隠したかったからです。」
「聖女を隠す?」
「聖騎士として、このような話をするのは、はばかられるのですが、今の大司教様は政治的野心が強すぎて、聖女の洗脳の力を利用しようとしています。私は聖女をそのような人に会わせたくありませんでした。しかし、聖女を探すように命じられていたのは私だけではありません。他の者の目からも聖女を隠さなければなりません。
有難いことに緑の髪の娘たちの年下の者が聖女であると言うことを知るものは居ませんでした。ただ緑の髪としか知られていないのです。だから私は緑の髪の娘として目をつけられた姉を聖女として攫いました。」
「攫ったりせずに、最初から二人を保護する方法はなかったのですか?」
「教会の力は強すぎて、難しいのです。姉は既に教会から目をつけられてしまっていましたから。私は、姉を攫い、その間に知られていない妹を隠し、姉が聖女でない事を教会に証明させた後、姉も保護するつもりでした。私がその昔の聖女に仕えた騎士のように二人を護ろうと思いました。」
「どこに隠すつもりだったのですか?」
「東のサルネシア王国に伝があります。かの国には聖女の伝説もありませんし、教会の力も及びません。そこに二人を連れていくつもりでした。教会から聖女では無いと証明されれば、国外に連れていく事も難しくなくなります。」
「わかりました。探せるかどうかわかりませんが。」
「お願いします。姉妹の住んでいた家から姉妹の使っていたものを持ってきました。よろしくお願いします。」
赤野郎、カースと言ったっけ、悪い奴では無かったんだな。
今も深深と頭を下げて、必死さが伝わってくる。
「ところで、なぜ猫を斬り捨てたのですか?」
そうそう。めっちゃ痛かったんだ!どうしてだよ!
「実は私は猫が苦手で。姉妹の飼っていた猫がかなり大きな猫で、それが突然飛びかかってきた為、思わず。可哀想な事をしたとは思っています。聖騎士として猫に怯えたとは、恥ずかしい話です。」
カースが侍従に連れられて部屋を出ていくと、オーガスタが天井にむけて話しかけてきた。
「と、言うことだ。ルルー。」
なんで見えてるんだよ!




