2.力の目覚め
「今日は凄いご馳走。ルルーが捕ってくれたのね。ありがとう。」
サーラが俺をギュッとして喜んでくれる。
食事が終わるとミリアがブラシを持ってきて、俺の体をブラッシングしてくれた。気持ちよすぎて眠くなる。
前の世界では食事をしながらゲームをし、うたた寝して朝までって事もあった。こちらは随分健康的な生活だなと思う。
ゲームが好きだったけど、今は自分自身がゲームみたいな感じだから、ゲームが出来ないことも気にならない。
「ミリア、服小さくなっちゃったから、明日買いに行こうか。」
「お姉ちゃん、まだ大丈夫。着れるから。お金もったいないよ。」
「大丈夫よ。今日、お給金頂いて、女将さんから明日はお休みしていいって言われてるの。」
「お休みなの?凄い!嬉しい!一日お姉ちゃんと居られるんだ。」
サーラは勤めているらしいけど、話の感じから殆ど休みが無いのがわかった。ブラック企業かよ。こちらではこれが普通なのか?
でも、町か。俺も楽しみだ。
翌日は二人について町に向かう。
おぉーっ!感動!ゲームが動いてるよ!!
石畳の道路、石造りの城壁、広場に広がる市場の活気。剣をさして歩く人々!!まんまゲームだよ!
めちゃくちゃキョロキョロしちゃうね。自分がゲームキャラになれないのが残念だが、見てるだけでも楽しい。
前方に一際大きい建物もある。領主館だよな。すげぇ。
楽しんでいるのは俺だけじゃない。二人も凄く楽しそうだ。こうして周りを見回しても、この二人はめちゃくちゃ可愛い。もっとおしゃれしたら、振り向かない奴いないと思う。はぁ、猫じゃなかったら、俺が二人を守る兄ちゃんになれたのになぁ。
あちこちからいい匂いがする。肉の焼ける匂いがして見てみると、肉を串に刺して焼いてる店があった。
「ミリア食べる?」
「いいの?お姉ちゃん。」
「いいのよ。お姉ちゃんも食べたいから。食べよ。」
「うん!」
サーラは店で串を1本買い、二人で交互に一個づつ食べる。
「お姉ちゃん。お口が幸せっていってる!」
「うん。美味しいね。」
サーラは最後の一切れを指で外し、俺の目の前にくれた。
「もう冷めたから食べれるよ。ルルーもおあがり。」
俺はサーラとミリアを見上げた。たった1本しか無いのに、なんで猫の俺に寄越すんだよ。自分たちで食べればいいのに。
それでも二人はニコニコしながら俺が食べるのを待っている。俺はサーラに近づき、肉を食べた。
その肉は今まで食べた中で一番美味かった。
古着屋に行き、ミリアの服を買う。長く着れるように、ちょっとぶかぶかした服にしたようだ。それでも花柄のワンビースはミリアに似合っていて、可愛かった。
古着屋には小さな髪飾りも売っていて、サーラはミリアにその小さな花が並んだ髪飾りも買ってやっていた。
買い物も終わったので、俺たちは家に向かって歩き出した。
「おい。サーラじゃねえか。」
見るからにゴロツキ。うーん。お約束のようにいるんだなぁ。
サーラもこいつを嫌っているんだろう。返事もせず、ミリアをせかせて、横をすり抜けようとした。
「待てよ。」
「離して下さい。」
ゴロツキはサーラの腕を掴むと路地に引きずり込んだ。
「嫌っ!」
「暴れるなよ。」
俺はサーラを掴むゴロツキの手に飛びついて、思いっきり噛み付いてやった。
「痛っ!何しやがるこのバカ猫!」
その隙にサーラは路地から逃げ出そうとするが、路地の入口には他にも二人男が立っていた。ゴロツキの子分らしい。
俺は二人を庇うように前に立ち、毛を逆立てて唸る。
「うるせぇんだよ!」
俺はゴロツキに猫パンチを食らわせたが、蹴り飛ばされて、壁に激突した。痛い!
二人の悲鳴が聞こえる。嫌だ。二人を守るんだ!立てよ俺。ヨロヨロ立ち上がった所をもう一度蹴り飛ばされた。悔しい。俺が猫でも大きかったら、あんな奴ら倒せたのに!
俺の体が光を放った途端に、俺の目線の位置が変わった。それまではゴロツキの膝ぐらいだったのに、今は肩位になっている。
俺がゴロツキとその子分に向かって猫パンチを繰り出したら、三人とも吹っ飛んで行った。
おぉ!これでこそゲーム世界だろう。
体の変化はあまり長続きしないらしく、直ぐに元に戻った。あまりにも短時間だったので、ゴロツキ達は何が起きたのかわかっていなかったし、ミリアとサーラも気づいていない。俺は皆があっけに取られてるうちに、ミリアに前足をかけて、合図する。ミリアがそれに気づき、サーラの手を引っ張って、俺たちはそこから逃げ出した。
町を出て、家に着くまで、何も言わずに走った。
家に着いたら、やっと人心地着いたのか、サーラの紙のように真っ白になっていた顔色も少し赤みが戻ってきて、ミリアの小刻みに震える指先も落ち着いてきた。
可哀想に。二人とも怖かったよな。俺はサーラに体を擦り付け、そっとミリアのほっぺを優しく舐めて慰めた。
ミリアも俺の気持ちに気づいて、ギュッと抱きしめてきた。よしよし。もう大丈夫。
翌朝、サーラがいつものように身支度をしているのを見て、ミリアが慌ててサーラの袖を掴んだ。
「だめだよ、お姉ちゃん。あの悪い奴らがまた来るよ!」
「ミリア、仕方ないわ。働かないとお金が無くなっちゃうでしょ。」
「私、なんでも我慢する。お金もいらない。お洋服もいらない。だから行かないで、お姉ちゃん!」
俺もそう思う。行くなよ、サーラ。
「にゃあ!」
「大丈夫よ。いつもは何ともなかったんだから。ミリア、心配しないで。」
「嫌だよ。お姉ちゃん、嫌!」
「ミリア・・・。」
サーラは泣きじゃくるミリアを優しく抱きしめ、頭を撫ぜてやる。どうして、こんなに優しい二人が苦労しなくちゃいけないんだ。親は何処に行ったんだよ!
その時、突然ドアが空いて、見知らぬ男達が入って来た。昨日のゴロツキじゃない。こいつらはゲームで見る騎士のような格好をしている。
「この娘だ。連れて行け。」
先頭にいた。赤い服の男がサーラを指さすと、後ろに従っていた男達が俺とミリアを突き飛ばして、サーラを二人がかりで連れていこうとした。
俺はそいつらに体当たりしたが、殴り飛ばされてしまった。
「行くぞ。」
「お姉ちゃんを連れていかないで!」
「ミリア!!」
俺はヨロヨロと体を起こすと、赤い服の男目掛けて飛びかかった。男の服に前足がかかったと思った瞬間、腹に激痛が走り、床に飛ばされた。痛い!めちゃくちゃ痛い!
「ルルー!」
俺が意識を失う直前に見たものは、ミリアの泣き顔と、連れ去られるサーラの後ろ姿だった。




