14.物の記憶
オーガスタが後ろから近づいてくる足音を聞いて振り返る。
「ドーラは物の記憶を辿ることができるんだ。」
「物の記憶?」
「そう。ミリアの手に残る拾い物の痕跡からその記憶を辿っている。」
「すごい。そんな事が。」
「君の力も相当凄いと思うけどね。」
ドーラは歌い終えて俺達の方を振り返った。
「お兄さん、封筒の届け先がわかりました。」
「どこだ?」
「サルナーシャ王弟閣下です。」
「わかった。直ぐに行くぞ。」
「ルルー、途中で説明をするから、君も来い。」
「はい。」
慌ただしくミリアを部屋に戻し、俺達は屋敷を出た。馬車に乗り、王弟の別邸に急ぐ。
馬車に乗るとオーガスタは説明を始めた。
この三年程、奇妙な突然死が増えていた。前日まで普通に暮らしていたのに、突然死んでしまう。
特に呪いの痕跡も無く、原因は不明だった。
しかし、ここ数ヶ月は聖女排斥派と言われる貴族が死んでいて、教会との軋轢が疑われるようになってきた。
詳しく調べたところ、死ぬ前日に手紙が届いていた人が何人かいた。差出人がわからず、捨ててしまっていて、その手紙の内容は分からない。ただ、その中の二件でバラの封蝋を見た者が居た。
それが関連するかどうか件数が少なすぎる為、判断は出来ないが、オーガスタはその手紙が死を招く元になっていると考えていた。
王弟閣下の正妃はゴヤの商人の娘で、王弟閣下の一目惚れだったと言われている。その彼女の為、別邸を建て、そこで過ごす事が多い。
「お兄さん、間に合うかしら。」
「どうかな。」
「どういう事ですか?」
「君達が郵便屋に拾い物を届けたのは昨日。今迄の例によると、手紙が届いた翌日に亡くなっている。」
そういう事か。
突然、馬車が止まった。
「どうした?!」
「オーガスタ様、囲まれました。」
屋敷街に入った所で馬車は何者かに囲まれたようだ。まだ夕方だけど、この辺りには人気がない。
俺が馬車を降りようとするのに気づいたオーガスタに腕を掴まれた。
「何をするつもりだ?」
「俺が行きます。その間にあなた達は先に行ってください。行先はこのまま真っ直ぐですか?」
「無理だ。君は武器すら持っていないだろう。それに敵が多い。」
「大丈夫です。武器も持ってますよ。これでも結構強いんです。」
俺はちょっと笑って、掴まれた腕を振り切って馬車を出た。
馬車を降りた俺の手には抜き身の刀がある。峰に返し、馬車の正面に走り、立っていた二人の男を一振で倒す。
「行ってください!」
馬車が走り去るのを追わせないよう、馬車を背にして刀を構える。
さっきの一撃を見た男達は既に腰が引けている。それでも引く気は無いらしい。残りは12人。
俺はゆっくり刀を構えた。久しぶりの刀に気持ちが昂る。その昂りを抑えるように深呼吸して気持ちを鎮めた。
男達は目をみかわし、一斉に向かってきた。思わず笑ってしまう。バラバラ来られるより早く終わる。
俺は向かってきた男達に自分から突っ込んでいき、左右に刀を振るう。俺の一撃で真ん中の4人が左右に吹っ飛ぶ。手加減出来てないから、肋の1本も折れたかもしれない。
「ぐわっ!」
残り8人。
逃げようとするのを追って更に4人。後、4人。
完全に腰が抜けて座り込む2人を横目に見ながら、後2人をおったが、1人逃げられてしまった。
「ちぃっ。逃げられた。」
俺は腰の抜けた男2人を峰打ちで倒し、倒れた男達のベルトで手首を拘束する。
縛り終えて、刀を消し、俺は馬車を追った。
真っ直ぐ進んだ正面に一層大きな屋敷があった。
屋敷に着いて、どうしようと悩んだ。大きな門は閉まっていて、俺なんかが行っても入れてくれそうにない。
悩んでいると、門番と目が合った。
「お前がルルーか?」
え、俺の名前?どうして?
「そうです。」
「入りなさい。オーガスタ様から伺っている。」
「は、はい。」
屋敷の中に入ると男性の歌声が聞こえてきた。静かで、それでいて力強い。あぁ、これがオーガスタの歌声なんだ。いい声だなぁ。
俺も歌姫を真似て歌ったけど、こんな力のある声じゃなかった。力のある声っていうのはこういう声なんだ。
ドーラの声は囁く様な鳥の囀りにも似た優しい声だった。
俺は案内されるまま屋敷の中を進んで応接間に着いた。
ちょうど歌が終わって、オーガスタが立派な紳士と話をしていた。きっとこの方が王弟閣下なんだろう。
袋に何かを入れていたドーラが俺に気づいて近づいてきた。
「ルルー、怪我は無い?」
「大丈夫です。」
「心配したのよ。これからは無理をしないでね。」
『これから』か。早くサーラ見つけたいなぁ。
話し終わったオーガスタが近づいて来る。
「無事だったか。」
「はい。男達は手を縛って置いてきました。」
「それは・・・。」
オーガスタは従者に男達の確保を素早く命じる。数人の男達が慌てて駆け出して行った。
「君に怪我が無くて良かった。」
「ご心配お掛けしました。」
「うん。でも助かった。ありがとう。」
間もなく出て行った男達が戻って来た。
男達に王弟閣下が声をかける。
「捕らえたか?」
「申し訳ございません。全員死んでおりました。」
あの逃げた男が帰って来たのか。周りに気配を感じなかったから、戻って来るとは思わなかった。
「何?そうか。仕方ないな。オーガスタ、今日は助かった。」
「いえ、私の務めを果たした迄です。では、失礼致します。」
俺達は馬車で屋敷に戻った。ミリアを一人で残していたので、気になっていた。ミリアの元気な顔を見てほっとした。
「あなたはだぁれ?」
そういえば、人型のままだった。俺は白猫に戻る。
「あ、ルルーだ!凄い。お兄ちゃんにもなれるんだ!凄い!凄い!」
俺の首を抱き、頭に頬をくっつけてくる。
夕食後、ドーラにお風呂に入れてもらったミリアはご機嫌でベッドに入り、間もなく健やかな寝息を立て始めた。ミリアは一度も辛いとも言わず、旅をしてきたけど、大変だったと思う。まだこんなに幼いのに。
早くこの旅を終わらせてやりたい。
俺はミリアの手をちょっと舐めて、部屋を出た。
これからの事をオーガスタ達と話さなければならない。
俺は二人と話す為にまた人に姿を変えた。




