12.バラの封蝋
思った以上にガヤの町は大きい町だった。
俺とミリアは宿をとる前に郵便屋に向かった。受け付けで封筒と小瓶を渡し、街道脇で拾った事を伝えると、受付嬢は笑顔でお礼を言ってくれた。
「これはありがとうございます。探していたお届け物で大変助かりました。お礼を差し上げたいので、こちらにお越しください。」
「でも、拾って届けただけなのに。」
ミリアが遠慮するのを見て、受付嬢は更ににこにしながら、誘った。
「遠慮しないで、お嬢さん。美味しいお菓子を用意するから、ね、いらっしゃい。」
「お菓子?食べたい!」
ミリアはお菓子に釣られてにこにこ顔だ。余程良い家の落し物だったんだろう。
「ルルー、お菓子だって!お菓子!」
『ハイハイ、わかったから、落ち着こうな。』
案内されたのは応接間の様な部屋で、俺達はちょっと気後れしてしまいそうになった。直ぐに先程の受付嬢が紅茶とお菓子を持ってきてくれた。焼き菓子の上にソースと果物が乗った豪華なもので、ミリアは夢中で食べ、
「ルルー、美味しいよぉ。こんなに美味しいお菓子は初めて食べた。やっぱり届けて良かったね!」
と、ご満悦だ。
受付嬢は俺には解した焼き魚をくれた。俺もお菓子が良かったかな。
貰った焼き魚にはちょっと変わった匂いがして、何のハーブか分からないけど、余り好きな匂いではなかったので、食べようかどうしようか迷ってしまった。
せっかくの好意なのに、どうしようと思っていたら、隣でカチャっとカップが落ちる音がして、驚いた。
『ミリア?』
見るとミリアがソファに倒れ込んで、お茶がテーブルにこぼれていた。
嵌められた!やっぱり拾い物にはろくな事が無い。
奴らが来る前にミリアを連れてここから逃げ出さないと、きっと大変な事になる。
その時、扉が開き、受付嬢と三人の男が入ってきた。
「あら、猫ちゃんは魚を食べなかったみたいね。まぁいいわ。猫なんて。そこの窓から放り出しなさい。」
「この娘はどうしますか?」
「どこであの小瓶を盗んだか喋らせなさい。道端で拾ったなんてありえない。うす汚い娘だから、手癖が悪いに違いないわ。」
こいつらは俺達があれを盗んだと思っているみたいだ。ちゃんと拾ったと伝えたのに。
たかが花びらの入っただけの小瓶じゃないか。あれがなんだって言うんだ!
ここで連れ出されたらミリアがどんな目に合わされるか分からない。人前で変身はしたくなかったけど、そんな事は言ってられない!
俺の体に接するものなら、俺は自分の体と同じように好きに形を変えられる。人を試した事はないけど、できると信じて、俺はミリアの手を咥えた。
次の瞬間、光を放ち、ミリアの姿が消え、俺はミリアと一つになって鳥になり、開いていた窓から、外に逃げ出した。
後ろで女達の叫ぶ声が聞こえる。
できるだけ遠くまで逃げないと、きっとあいつらが追ってくる!逃げろ!遠くへ!早く!
どこをどう飛んだか分からないけど、気がつけばゴヤの町外れにあるどこかの邸宅の庭の片隅にいた。
姿はすっかり元の白猫に戻り、ミリアは隣で眠ったままだ。あの時、お茶に麻酔薬が入っていたんだろう。
俺は力を使い果たして、もう一歩も動けそうにない。
俺は今凄く後悔している。
変身を見知らぬ人に晒してしまった。あんな逃げ方しか出来なかった。逃げれたけど、事態は良くなっていない。きっともっと悪くなったかもしれない。でも、あれしか出来なかった。
俺は、今凄くこの世界に俺達を助けてくれる人がいない事が心細くて、誰かに縋りたくて仕方がない。
もうどうしていいか分からない。周りが不安でしょうがない。
自分達に向けられた悪意が怖かった。あいつらが追いかけて来る気がする。
(爺ちゃん、助けてくれ。俺、もうどうしたらいいか分からないよ!怖い、怖いんだ!)
俺はミリアの隣に蹲ってただ震えていた。




