1.猫になりました
俺はその日、猫になった。
高校二年、桜田翔。それが俺の名前だ。両親が海外赴任中で一人暮らしの俺は、コンビニに夕飯を買いに行った。外灯の灯りの下を通った時、ちょっと目眩がして、目を閉じた。
目を開けたら、外灯は無くなって、アスファルトの道路は舗装されていないでこぼこ道になっていた!
そして、伸ばした手はもふもふの白い動物の前足に変わっていた!!
「ダメだよ、ルルー。勝手に走ってっちゃったら困るでしょ!」
俺の後ろから来た女の子にいきなり抱きかかえられた。
女の子はうんしょと俺を抱えた拍子に後ろに転がった。
どうやら俺は結構大きい生き物らしい。喋れるかな?声を出してみよう。
「にゃあー。」
え?にゃあー?猫? これは夢か?
俺は驚きのあまり、意識を失った。
目が覚めた。暖かい手が優しく俺の体を撫ぜてくれていて、それがとても気持ちがいい。喉がゴロゴロとなる。そうか、やっぱり、俺、猫になっちゃったんだな。
ゲームやラノベの話が自分におきるなんて思わなかった。
なんで人の言葉はわかるのに、俺は猫語しか話せないんだよ!会話できないじゃないか。俺をこんな目にあわせたやついい加減過ぎだろ。
目を開けると部屋の隅に鏡があったので、俺は立ち上がり、鏡に近づいた。四足で歩いてるのに違和感ないなぁ。変なの。
鏡に映ったのは、全身真っ白な大型長毛猫。友達の家の猫と同じ種類か?長い名前だったよなぁ。えっと、確か、ノルウェージャンフォレストキャット。そうそれだ!
しっぽは太くてふさふさ。耳と鼻がピンクで、肉球もピンクだ。首の周りや胸は豊かな毛に覆われている。
目は少し緑色かかった金色。綺麗じゃないか。
「ルルー。おいで。」
俺の名前はルルーらしい。
俺を呼んだ女の子は10才くらい、緑色の髪をツインテールに纏めた可愛い子だ。俺は一人っ子だから、こんな可愛い妹が欲しかったな。
俺は素直にその子に近づくと頭を擦り付けた。
「ミリア、食事にするわよ。」
もう一人居た。同じ緑の髪の女の子。15才くらいかな。
髪は肩ぐらいの長さで、緩くウエーブしている。美少女だ!テレビに出たら直ぐにアイドルになれる。
「はい、ルルーも。」
目の前に木の皿が置かれた。そうだよね。猫だしね。
この世界には猫餌は無いみたいで、カリカリではなかったのが救いだ。夕飯前だったから、腹は減ってる。
なんか味がないけど、我慢だな。
なんでだろう。突然のこんな状況なのに、俺、やけに落ち着いてるなぁ。
姉妹の名前は、妹がミリア、姉がサーラ。
二人だけでこの家で暮らしているらしい。
家の中を歩き回ってみたけど、小さい家だった。前の世界で言うなら狭い1Kぐらい。でも暖かくて、居心地がいい。
俺は二人の間に潜り込み、ミリアの枕に頭を乗せて眠った。
この子達の朝は早い。いつもはグズグズ寝ている俺なのに、俺も早く目が覚めた。
目が覚めてもこの世界。いつ元の世界に戻れるのかも分からない。これは、腹を括るしかない。
「ルルー行くよ。」
俺はミリアに連れられて、裏山に向かった。この体、大きいのに、随分身軽だ。もしかして気にも登れる?
おぉ、登れた。凄いじゃないか!
「ルルー、その実取って。」
横を見ると、黄色の丸い実がなっている。前足で実を落とし、咥えて気から降りてミリアに渡す。
「わぁい、ありがとう。ルルー、半ぶっこしようね。」
ミリアの握りこぶし程度の小ぶりな実だ。一人で食べてもいいのに、優しいなぁ。
半分齧って、残りを俺にくれた。初めて食べる実だけど、甘くて美味しい。最近の果物は甘すぎて俺は好きじゃなかったけど、これは甘過ぎなくてちょうどいい。
周りの木を見上げると、同じ実がまだなっている。
俺は身軽に木を登り、実を取ってミリアに渡す。ミリアは腕にかけたカゴにその実を入れた。後、3つとってきた。
「今日のルルーはいつもよりお利口さんだね。ありがとう。」
どうやら俺が入って、前よりお利口になったらしい。
まぁ、バカになったと言われなくて良かった。
俺たちは山の中をあちこち歩き回り、キノコを採ったり、草を摘んだりした。俺には何が食べられるものなのか分からないので、ミリアを見習ってお手伝いだ。
途中に小さい淵があった。ミリアは小さな木のコップをカゴから取り出して、水を美味しそうに飲んだ。
俺も飲もうと体を伸ばした拍子に足が滑って淵に落ちてしまった。
おや、泳ぐのもいける。ふと見れば魚が泳いでいたので素早く魚を獲る。捕った魚をミリアに渡す。
「凄いルルー。今夜はご馳走だね!」
花が咲いたように笑う。ミリア、なんて可愛いいんだ。
体を振って水気を飛ばす。
ミリア達の食事は一日二食らしい。それもかなりつつましい食事だ。こんな小さい女の子二人で頑張ってると思う。この世界はどんな世界なんだろう。




