『ハジマリのキオク』
※当作品には、過激な表現、また残酷な表現が含まれます。ご注意ください
東條海斗の記憶は、殺風景で何も無い部屋から始まる。
拘束具でベッドに縛り付けられ、カメラで四六時中監視され、恐怖に震え、何度も、何度も何度も母親を呼んだ。しかし、いつも現れるのは白い服を纏った男と女だった。(後に、看護師と医師だと知る)
喉が潰れる程叫び、拘束具を引き千切ろうと暴れたら薬で眠らされる……そんな日々をもう何週間も過ごしていた。
自由も人間としての尊厳も無い世界……真っ白い部屋から見える、鉄格子越しの蒼空を見る。
それだけが、唯一の自由だった……………。
しかし、その後数ヶ月間の記憶が海斗には無い。何度試みても思い出せない…いや、抜け落ちている、という方が正しいかもしれない。思い出す事を、まるで拒否するかの様に、自身の記憶を探ろうとする度に、酷い頭痛と耳鳴りがした。もう、自分にはこの記憶を取り戻す術は無いのだ……いつしか、そう言い聞かせ、思い出す事も諦めていた。
海斗は12歳となり、遠い母方の親戚の家に預けられる事となった。外の世界に出て、初めて自分の居た場所が病院…それも、精神病院だと知った。自分が此処に入れられた理由も、誰が入れたのかも解らないまま、海斗は簡単な挨拶だけ済まし、病棟の外に出た。
去り際に振り返り、外から見える鉄格子を見つめた。
理由は解らない…けど、そうしたかったから、かもしれない。纏まらない考えのまま、病院長から渡された簡易地図を見ながら海斗は歩き出した。
待ち合わせ場所の駅に着くと、恐らく親戚の者であろう女性と男性が車から降り、手を上げ此方だと呼びかけて来た。女性は30代半ば、男性は40代前半といった風貌だった。
「宜しくお願いします。」と、お辞儀をした後、促されるままに車に乗り込むと「海斗君と、同い年くらいの子が家に居るんだけど、きっと仲良くなれると思うわ。」と、親戚の女性が話しかけて来た。
そうなれれば良いが……と、ぼんやり窓の外を眺めた。その後、親戚の女性と男性に何か言われた気がするが、まるでちぎれ雲の様に言葉が浮かび頭によく入らなかった。
時は流れに流れ15年後………
海斗は邂逅する事となる、自身の過去と記憶―――
そして、認め難い真実に……………。