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魔皇伝  作者: もす
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三章 セリアの目的

「そういや、腹が減ったな」


 青年は思い出したように言った。隣を歩くセリアは、人間らしさが滲み出たその発言にくすりと笑みをこぼした。


 街道を歩く2人を、夕陽が紅く染め上げている。東の空はすでに薄暗く、風もやや冷たくなり始めていた。幾ばくもしないうちに日は沈み、辺りに闇の帳が下りるだろう。

 道行く人も、先ほどからほとんど見かけない。


「もう少し西へ行くとルナンという町がありますから、そこで食事にしましょう」

「おう」


 しかし次の瞬間、青年ははっとして足を止めた。いきなりのことに、セリアも何事かと思って立ち止まる。


「金がねえ」


 危うく吹き出しそうになったセリアである。


「くそっ、少しぐらい持っておけばよかった……って駄目か。俺がいた世界の金がここで使えるわけないよな」


 ふぅむ、と考え込み始めた青年である。


 セリアは笑いを堪え、目尻を緩ませながら言う。


「ルイ、お金なら私が払いますから。」

「今日はそれでいいとしてもだ。これから先、ここで生きていくにはこの世界の金がいる。何とかして稼ぐ方法を考えないとな」

「それは……確かにそうですね」


 言われて初めて、セリアは意外と大きな問題だったことを理解した。しかし危機感はまったくと言っていいほどなかった。というのも、この青年ならその程度の問題は簡単に何とかしてしまいそうな気がしたのだ。


「お前はどうやって稼いでいるんだ?」

「私ですか? 私は傭兵が大半ですね」

「ようへい?」

「ご存知ありませんか?」


《そういやヨーとヘイっていう双子の兄弟がいたっけな……》


「んーたぶん知らねぇな」

「えっと、傭兵というのはですね、依頼主(クライアント)から引き受けた仕事をこなして報酬をもらうんです。仕事内容は依頼主次第ですね。指定された人物の護衛をしたり、あるいは魔物や野党の討伐をしたりと、色々です」

「ふーむ、まあ要するに、金のために戦うってことだな」


 身も蓋もない言い方だが、大体的を射ている。


「そう言われると耳が痛いですが、その通りです」


 セリアは苦笑いを浮かべながら答えた。


「金のために戦うのが悪いって言ってるわけじゃないけどな、俺はあんまりそういうのは好きじゃねぇな」


 恐らく、自分の力を金のために使うのが嫌いなのだ。

 セリアもそれに似た感覚を覚えるときがあった。

 自分には剣才がある。傭兵ができるのもその剣才があるからだ。しかし仕事で剣を振るい、いざ報酬を受け取るとき、無性に虚しくなるときがある。


 この(ちから)は決して、報酬(こんなもの)が欲しいためにあるのではない。


 そう、思うときがある。しかしそんなことばかりを考えていては、それこそ傭兵などやっていられない。生きるためには仕方がない、と、ある程度割り切らなければ。


「おっと、話し込んでる場合じゃなかったな。とりあえず金を稼ぐ方法はおいおい考えるとしてだ。今大事なことは飯だ。そのルナンって町に急ぐぞ」

「ええ」


 一行は再び歩き出した。



     ☆     ★     ☆



 アルカルズ暦2015年、大陸最西端にあるレイザード王国を悲劇が襲った。

 有力貴族を筆頭とした反乱である。

 そして、まるで計ったかのような、隣国カルファラ王国のレイザード侵攻。

 反乱を起こしたレイザードの貴族たちがカルファラと手を結んでいたであろうことは、誰の目にも明らかであった。

 レイザードには強力な騎士団があった。有能な魔術師も多くいた。しかし反乱によって内側から、そしてカルファラに外側から攻められ、レイザードは戦わずして崩れ落ちた。わずか幾日の出来事だった。



 ルナンはそれほど大きな町ではない。むしろ田舎町である。一行がそのルナンの町に着いたときには、すでに日も暮れて辺りは闇が支配していた。そのせいだろうか、町には人の姿はほとんど見当たらない。

 2人は適当に開いている店を探し、中に入った。案の定客はほとんどおらず、青年とセリアを除けば1人しかいなかった。


 青年の食欲はすごかった。

 肉と野菜を煮込んだシチューをはじめ、魚の塩焼きや鶏肉の唐揚げなど、次々と皿を空にしていく。野菜スープをまるで水を飲むように飲み干したときは、さすがのセリアも呆然と眺めていた。


 そして食事も終わりかけた頃、


「ルイ」


 セリアは青年だけに聞こえるような声で言った。青年は、先ほどおかわりした鶏肉の唐揚げにかぶりつきながら、セリアに目を向けた。


「食べながらで結構ですので、聞いていただけますか?」

「ん」


 青年は再び食事にとりかかり、セリアは小さな声で話し始めた。


「今から2年前のことです。この大陸の最西端にある、ふたつの国が戦争をしました。その国の名前は、カルファラ王国と、レイザード王国です」


 青年は再び食べるのをやめ、セリアを見やった。

 ある言葉が引っかかったのだ。


 レイザード。


《確かこいつの名は……》


 セリアシュリン・ストラディウス・レイザード。


「この二国の戦争は、史上最も早く終結したことで有名です。いいえ、もはや戦争と呼べるかどうかすら怪しいですね……」

「続けろ」

「発端は、レイザード王国の有力貴族が起こした反乱でした。そしてまるで狙い済ましていたかのように」

「カルファラが攻めてきたのか」

「はい。レイザードは反乱とカルファラの侵攻によって、内と外の両側から崩され、崩壊しました。わずか幾日のことです」

「……仕組まれたな」


 セリアはうなずいた。

 反乱を起こした貴族たちがカルファラと手を結んでいたであろうことは、火を見るよりも明らかである。


「王が無能だったのです」


 セリアはぴしゃりと言った。


「王は……父は、権力とお金にしか興味がない人でした。先王が病で先立たれ、父が王位を継いでわずか二年。あの反乱は起こるべくして起こったのです」

「……」

「レイザードは今、カルファラの属国という形で存在しています。このルナンも実は、レイザード領に属します」

「するとお前の目的は、レイザードをカルファラから解放することか」

「その通りです」

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