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魔皇伝  作者: もす
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二章 街道二人旅

 アルカルズ大陸には、大小様々な国が存在する。

 その中でも特に、北のベルガ帝国、南のローランド王国、そして東のサイリア大聖国の三国は、アルカルズ三大大国と呼ばれるほどの列強であった。

 民族も宗教も違うその三国は、当然のことながら仲が悪く、隙あらば他の二国を滅ぼして大陸の覇権を握ろうと、虎視眈々と機会をうかがっていた。

 この三国のいがみ合いに巻き込まれて、数多くの小国が滅んでいった。ラトラス、セルニア、ゲルト、ローデンバーグ。まだまだ挙げればきりがない。

 小国が生き残るためには、これら三国のいずれかの配下に下るか、小国同士で手を結ぶことの二つしか道はない。しかし手を結ぶといっても、今の時代、絶対に信頼できる国など存在しない。

 大国の配下となり屈辱に耐えるか、いつ裏切られるかという不安に怯えるか。

 そのどちらも選べない国は、滅んでいくしかない。

 この世界は、そういう時代にあった。



     ☆     ★     ☆



 太陽が傾き始めていた。日が暮れるまでにはまだ時間があるが、街道を往来する人々は、やや足を速めていた。

 夜になってしまえば、街道といえど危険度は遥かに増す。魔物や野党の類にでも出くわせば、唯人ならまず生きて帰れない。

 しかし、にもかかわらずその2人は、逆にのんびりとしたペースで歩いていた。

 もちろん、青年とセリアである。


「ふぅん、なるほどねぇ。俺には他人事としか見れねぇが、この世界はこの世界でややこしいことになってるんだな」

「ええ。それでその、ルイ殿は別の世界からこられたということですが」

「ん、ルイでかまわねぇよ。この名前に敬称はつけられたくないんでな」


 普通の人間なら、その言葉には首をかしげたかもしれない。敬称をつけなければ失礼に値するのでは? 疑問に思う者も多いだろう。しかしセリアには、その言葉が持つ意味がよくわかった。いや、セリアだからこそわかったと言い換えるべきだろう。


「わかりました」


 青年は隣を歩くセリアを見やった。一言も聞き返すことなく素直に納得したのが少し不思議だったのだ。


「どうしました?」


 しかしその疑問は、すぐに晴れた。


「いや、何でもねぇよ」


 そう言って青年は、視線を前に戻した。


《そうかこいつも、俺と同じなのか》


「それで、何が聞きたかったんだ?」

「あ、はい。その、ルイは別の世界からこられたということですが、どのような理由でこられたのですか?」


 青年は再びセリアに目を向けた。 


《こいつ、俺が別の世界からきたってことは疑わないんだな。普通は馬鹿げた話だろうに》


 つい今し方のことだ。

 自分は違う世界からきて史上最大の迷子になっていると話したら、「頭でも打たれましたか?」と返ってくるかと思いきや、意外にも「そうなんですか」と返ってきた。


《この世界じゃ、誰かが異世界からくるってのは珍しくないのか?》


 するとセリアは少し慌てたように、


「す、すみません。聞いてはいけないことでしたか?」

「ん? ああ、いや、ちょっと考え事をな。えーっと、俺がこの世界にきた理由だったな……。残念だが、そいつは俺にもわからねぇな。目が覚めたらこの世界(ここ)だったんだ」

「つまり、自分の意思ではないと?」

「ああ、俺の意思じゃねぇな。仮にそうだとしても、違う世界に渡る術なんざ見当もつかん。よって帰り方もわからん。超弩級の迷子ってやつだ」


 そう言いながらも青年は、自分の置かれたこの状況に楽しみを見出していた。

 しかしセリアは、何と不憫なといった表情を浮かべ、


「私に、何か手伝えることがあればいいのですが」


 と言いつつも、セリアは心のどこかで、


《この人がいてくれるなら、あるいは……》


 青年は再び、セリアを見やった。ただ今までとは違い、その目には悪戯っ子のような光が宿っていた。


「それはお前の本心か?」

「え……?」


 セリアは明らかに動揺の声を発し、思わず足を止めていた。青年もそれに倣って止まる。


「手伝ってほしいのは、むしろお前の方じゃないのか?」


 図星だろ?


 その何とも無邪気な光を湛えた目がそう言っていた。


「どうして……」

 

 セリアは、すべてを見透かされているような感覚に陥りながらも、何とか言葉を紡いだ。


「どうして、そう思うのです?」

「真昼間に、5人もの刺客に狙われる女なんざ普通じゃねぇ。どこの誰にどんな理由で狙われてるのかは知らんが、お前、相当やばい状況にあるんだろ?」

「……」


 何も言い返せなかった。

 ただうなずくことしかできなかった。

 

「……仰る通りです」

「俺と一緒にいれば、確かに俺の力は利用できるだろう。でもな、それじゃあお前、俺が面白くないだろうが」

「……はい」


 セリアはしゅんとなってうつむいていた。

 手伝うという口実で、実は青年の力を利用できないだろうかという思惑があったことは認めざるを得ない。


「わかったら素直に手伝ってくれと言え」

「で、ですが、あなたを巻き込むわけには」

「あーもうめんどくさいやつだな。お前はそんなこと気にしなくていいんだよ。手伝ってほしいんだろ? 手伝うからな? いいな? わかったな?」 

「は、はい」

「よし決まりだ」


 青年は半ば強引に取り決めると、意気揚々と歩き出したのだった。

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