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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
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三つ首の獅子 (2)

モコモコのキング○ドラ、もとい『三つ首の獅子』の首は地面に落ちてからも地面をのたうち回っていた。ラキリはそれぞれの眉間に剣を突き刺して回り、持ち運びやすいように、長い首から更に頭部だけを切断して戻ってきた。


「勇者失格だ。」


ヨルの口からすでに聞いた評価が、ラキリ教官の口から改めて告げられた。


「貴様は、やはり平面でしか観察ができていない。上と下にも気を払え。」


「はい……。」


「加えて、敵を1人倒したからといって、2人目、3人目がいないとも限らない。貴様は対象を1つ処理した途端、気を抜きすぎている。『竜は二度殺せ』だ。」


反対側を向き、岩に腰掛けているヨルが、わざわざ振り返って追撃してくる。


「それよりも、今度の討伐は『三つ首の獅子』だったはず。君が倒したのは『獅子とヤギの頭と、ヘビの尻尾を持った生き物』じゃないか。『三つ首の獅子』がたまたま襲ってきたのは運が良かったのかもしれないね。勇者さま御一行は、見当違いの善良な生き物を殺して帰ってきました、という報告がなされるところだった。」


何だこいつ、関係ないくせに。マジでムカつくんですけど。


「もとより、しばらくは逗留して様子を見る予定だったから、取り逃がすことはなかったろうがな。まあ、情報が不確かな中で、あの獣、――『キメラ』だったか。あれを仕留めるところまではよかった。やはりその後だ、課題なのは。」


ソフィアも同じように講評を待つためじっとラキリを見つめている。気づいたラキリが笑顔で答える。


「ソフィア、今回は咄嗟のことでしたが、防壁は遅れることもありませんでしたね。しかしまだ端の方に乱れがあるように見えました。形を整えるよう意識してください。あとは魔力総量を増やしていけば、自ずと強度は増すはずです。」


補足しておくと、ヨルに遅れて俺が魔術防壁を展開したのと同時に、ソフィアも自身を守るための防壁を発現させていた。現在彼女は、回復士として自分自身を守ることができるよう、魔術防壁発動の訓練を受けている。


「はい……、でもトサカやヨルに比べるとまだまだです。今日も結局は守ってもらいました。大きさを増すには、どうしたらいいですか?」


「あなたの本分は治癒と回復です。近頃はトサカも遠征のたびにあなたを頼ることもなくなってきましたが、いざというときに動けるよう、まずは自身の身を守ること第一に考えればよろしい。その前提で、まずは展開の速度と強度に集中してください。なに、この調子だと次の遠征には領域を広げる訓練もできるでしょう。」


軍属の俺とは違い、ソフィアの所属はあくまで国教会なので、ラキリはソフィアに接するときの態度がまるで違う。


教官、そのくらい優しく、俺にも手ほどきしてください。


「まあ、2人仲良く下履きを濡らしていたころよりはマシにはなっているようだね。」


「ちょっ、それは……!」


ソフィアが食ってかかろうとしたものの、嫌な笑みを浮かべるヨルを見て、黙ってしまった。いちいちマウント取ってこないと気がすまないのかこいつは……。つくづく嫌な性格だ。


「『三つ首の獅子』は、群れで行動する類ではないと聞く。おそらく2頭目はいないはずだが、予定通りこの地に留まる。首を持って帰れば、村の者たちも安心するだろう。」


ラキリは、丘の麓に見える集落を眺めながら語っていた。さすが騎士さま、貴族さま。敵を倒すとか魔術の腕がどうとか、そんな話よりも領民のことをよく考えていらっしゃる。性格のねじまがったダークエルフとは人間の性根が違う。


「首級は、貴様が持って帰れ。」


「え? 3つもあるから、手分けさせてくれても……。」


「一端の口を利くな。つつがなく討伐できていたならまだしも。その重さで己の未熟さを知れ。」


なんかそれっぽいっことを言って手間を押し付けられた感があるが、そう言われてしまえば、上官の言葉には従うしかない。領民に向ける慈愛の何割かでいいから、こちらにも気を回してほしいものだ。


「よし、このくらいでいいだろう。」


ヨルの方を見ると、手を組んで、手を頭上高くに上げ伸びをしていた。スケッチが済んだらしい。何を模写していたかというと、俺が倒した『キメラ』だ。バラバラになった死体をわざわざ集めてきて、――というか俺が手伝わされたのだが、バラバラになった箇所をある程度つなぎ合わせる魔法を使ってまで姿を復元していて、死骸を前に興味津々に細部を観察していた。意外なことに彼女らは『キメラ』の存在を知らなかった。


この世界には、俺が前世で目にした、空想上の化け物が結構な割合で生息しているようだが、ヒューム側の土地では見かけることがあまりないようだ。だから国から依頼を受け、化け物を退治すると、ヒューム側としては新発見の生き物だったりするらしく、ヨルはそういった新発見の生き物を見つけてはスケッチをして記録し、帝国内の研究機関に報告している。


ヨルは、描きあげたスケッチとバラバラの『キメラ』を見比べて最終チェックをしていた。しかし、どこの何をチェックしているのだろうと俺は思う。


端的にいって、ヨルは絵が下手だ。どう考えてもド下手くそだ。別に俺も絵が上手いわけではないのだけど、真剣に絵と『キメラ』とを見比べている様子が滑稽に見える。研究院は、この下手くそな絵を見て何をどう研究するのだろう。


ソフィアに目をやると、にやけてしまうのを抑えている様子で、さきほどマウントを取られた感情も相まってだと思うが、何ともいえない微妙な表情。目が合うと、ばつが悪そうに目を宙に逸した。


ヨルの姿に、少しだけ胸がスッとしたところで、ラキリの指示通り獅子の頭を1つずつ布に包んで、肩に担いだ。森に入ったら木の棒を探そう。少しは楽に持てるはずだ。


さて獅子の生首を3つ、持ちにくそうに持っている俺の姿は、その場にいる全員が見ていたはずだ。それなのに、それにも関わらず、ヨルが『キメラ』の身体も持ち帰りたいと言ってきた。


当然却下。お前の目は節穴かと。


ゴネるヨルに対して「ちゃんと特徴をとらえてスケッチできていたから必要ない」と伝えたところ、しぶしぶ納得していたようだった。よかった、ヨルの目が節穴で。


ラキリと一緒に前を歩くソフィアが、必死に笑いを堪えていることが、その後ろ姿からわかった。よかった。俺とメインヒロインちゃんは笑いのツボが似ているようだ。

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