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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
商船護衛編
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プロローグ - ディビステラムの魔王

その日、ディビステラム魔王国の貴族や各方面軍の幹部、各界の有力者たち、そして支配下に置く国の王たちが、ディビステラム魔王国の本領と南部領との境にあるグゴロードア平原へと招かれていた。目的は、反旗を翻した南方オーガ連合との戦争の見物である。


敵・南方オーガ連合の兵力は46,000。火竜や大型の獣類も多く従え、巨人族も味方につけている。対するディビステラム魔王国側は、その長である魔王1名のみ。ディビステラムの魔王は、46,000の敵の中にただ1人で立ち向かっていた。


ただし「立ち向かっている」という表現は、戦場の様子を目の当たりにしている者たちの主観からすると適切なものではないかもしれない。戦況はあまりに一方的だった。


敵の大軍の中にある魔王は、ただただ悠然と玉歩しているだけかのように、諸侯らの目には映っている。まるで、すでに戦いが終わってしまっているかのように。


魔王が歩を進めるとその周辺にいる兵たちは皆、立っているのをやめて地に伏していった。遠目には、魔王がその存在により兵士たちを屈服させていっているようにも見える。


しかしオーガの戦士たちは、望んで自ら膝を折り、地に頭をつけているわけではない。戦士たちからすると魔王はオーガ族の裏切り者だ。同族を冷遇し多種族を取り立てて、いまの地位へと登りつめたと評されている。


そうであるにもかかわらず、その裏切り者が近づいてくると、オーガの戦士たちが平伏の格好にさせられているのは、魔王の行使する「地に引き寄せられる力」により、その身体を地面へと押さえつけられているからだった。


運悪く、魔王の進路にいた者たちは悲惨だった。「地に引き寄せられる力」は、魔王に近づくほど強くなる。彼の力に耐えきれず、押しつぶされ全身の骨が砕け、自身の血の海の中で絶命してしまった者の亡骸が、その通った道の上に無数に転がっていた。


戦場で動くことのできている者は、特に魔王の周辺に限っていえば、魔王本人と、火竜と、数体の獣類、数人の巨人のみである。しかし魔王以外の者の動きは鈍い。魔王の行使する「地に引き寄せられる力」の影響を受けているのだ。


道中で襲ってくる竜や巨人を軽くひねりながら南方オーガ連合の首領たちの前にたどり着いた魔王。名のあるオーガの戦士が挑みかかるものの、皆、辛うじて身動きが取れているという様子だ。魔王は攻撃を軽く避けたり、あるいは避けずに真正面から受けたりしながら、オーガの戦士を1人ずつ殴りつけ、蹴とばし、殺していった。その一撃ごとに地面が揺れ、ディビステラム側の見物人たちはその衝撃の大きさに息を呑んだ。


同族の戦士たちを撲滅し、最後の1人。その1人と短く言葉を交わすと、彼を地面に向かって強く殴りつけた。最後の1撃の威力は特に凄まじく、半径50トムル (およそ40メートル) 程度地面が陥没し、周辺にいたオーガの兵はその衝撃のみで少なくない人数が絶命。そして少し間を置いて、局地的な地震が起きた。


地震は魔王本人が意図して引き起こしたものではなく、あくまで偶然であった。しかしその場にいた多くの者にとって、それは魔王の力に人智を超えた存在が呼応したように受け取られた。魔王の腕力により生じた衝撃が、地中の断層へ影響を及ぼして活断層型地震を生じさせたのではないか、などと推測できた者はほんの一握りだった。


ディビステラムの属国となった王や貴族たちのなかにも、それまで内心ではオーガ族の魔王に対して「蛮族」などと罵っていた者もちらほらいたが、この日はじめて畏れ敬う感情が湧き上がった者もいたし、オーガの戦士たちにとっては同族の魔王に対する恐怖と後悔の念を強く抱かせた。


自身が陥没させたくぼみを、急ぐ様子もなく抜け出した魔王は戦場をぐるりと見渡した。すでに魔王は自身の「地に引き寄せられる力」の発動を解いており、オーガの戦士たちは自由に動けるはずであったが、彼らのほとんどが地に伏せたままだった。


「我が同胞! オーガの戦士たち! 誰か、我との勝負を挑む戦士はいないか! 俺は逃げも隠れもしない、かかってこい!」


静まり返った戦場には、魔王の声だけがこだました。


「誰もいないか! 俺の首を取ればこの国はお前らのものだ、それでもいないか!」


オーガたちの中に、声を上げる者は1人もいなかった。


魔王は挑戦者が現れるのをゆっくりと待った。反旗を翻したオーガの戦士たちや、各国の王侯貴族や、ディビステラムの抱える諸侯たちの、誰の主観にとっても十分すぎるほどの時間だった。そうして深く息を吸った魔王が、静寂の中に声を轟かせる。


「よかろう! ではここに、我がディビステラム王国の勝利を宣言する!」


魔王は再び悠然と、大地を踏みしめてディビステラム側の見物客の方へと帰っていった。さきほどと違い、魔王は自身の使うことのできる唯一の魔法を発動していない。それなのに、やはり起き上がる者の姿はほとんど見られない。隣で絶命している父や子、兄弟、友を抱きかかえて泣く者や、その場から逃げようとする者がちらほら見え始めただけで、大半は頭を地に付け、地に身体を伏せて、魔王が立ち去るのを息を潜めて待っている。


ディビステラム側で、魔王の勝利に拍手が広がる。魔王は雄々しく腕を振り上げて応じた。


やはりそれは、戦争と呼ぶにはあまりに一方的なできごとだった。

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