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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
26/31

火竜討伐 (1)

ディビステラム魔王国・ソニタリオス=グラディオとの戦いのあと、負傷した兵士たちの治療もおおむね終えつつある。ヨルが実用化に成功した死体・生体それぞれからの魔力供給の仕組みは戦後処理の過程で禁止とされたものの、生体間の魔力供給に関しては特別措置として使用が認められた。方針が大大的に布告された結果、魔力を提供する者は大勢現れ、回復士たちは魔力切れの心配をせずに治療にあたることができるようになり、死亡してしまう兵士の数は激減した。


現在は負傷兵の命を救う段階は終えることができていて、戦場での四肢の欠損などを元の状態に回復する段階へと移行している。そのため国教会の回復士たちの稼働はまだ続いているが、命の危機を抱えた兵士はいなくなったためイリストリアは帝都に戻り、ソフィアは"勇者パーティ"としての任務にも復帰していた。


任務といっても、2度のエルミロイでの戦闘に比べたら楽なもので、せいぜい訓練の一環として獣や野盗の討伐程度だったり、行事に参加したりだ。ソフィアにとってさほど負担にはならない。もちろん俺の"勇者"としての訓練は着実に難易度を増してはいたものの、苛烈さはソニタリオスとの戦いの直前ほどの異常なものではない。手順を踏んで学ぶことができているので、戦闘や魔術について、技術面において少し深く理解できるようになってきた気がする。前が異常だったからか、こんなにゆったりとしていて大丈夫かなと思うことがあるくらいだ。


……いや、そんなことを考えていたら前の異常な訓練が復活しそうなので取り消しだ。ウソウソ、無し無し。


"勇者パーティ"は、ヒューム世界の平安のためオルストロ山脈の北側・魔族の世界へ差し向けられるために組織された。しかし魔族側からの動きがないことから、"勇者パーティ"の魔族世界への遠征は急ぐ必要がなく、むしろユグラシフェルト辺境領の防衛の要とするほうがいいのではないかという考え方が、国の中枢では主流となっているらしい。


そのまま話がまとまってくれれば、わざわざこちらから魔王討伐の旅に出て危険な目に遭うこともない。ぜひそうなってほしい。


そう願うのは、もちろん安全に生活できている現状を失いたくないからなのだが、最近の事情としてはもう1つ。魔力供給の一件以来、いよいよソフィアと俺との関係は良好で、まさにハッピーエンド直前といった感じなのだ。完全に、押したらイケる自信はある。


しかし問題は、彼女が国教会の修道士だという点だ。神に身を捧げるために清純を貫かなければならないという戒律がある。これをどう崩していくのかが直近の課題だ。魔王討伐の遠征のため帝国の外に出たら、なし崩し的にどうにかできるんじゃないか、と妄想していたのだが、この国に留まる可能性が高まってきている現在、その手は使えない。


周りを見てみると、例えばラキリは戒律を無視して修道士だろうがなんだろうが関係なく手を出しまくっているが、あれはいろいろ例外なので参考にならない。


どうしたものかと頭を悩ませていたところ、もしかしたら俺とソフィアとの関係の膠着状況を打開できるかもしれない新たな指令が下った。オルストロ山脈での「火竜討伐」だ。


かねてからオルストロ山脈で姿が確認されていた火を吹くドラゴンの存在により、山にいたほかの獣類・竜類などが山を下ってきている件は報告されていた。その討伐のための遠征も何度か行った。


しかし以前と事情が変わってきているのは、ドラゴンの直接の被害が生じているという点だった。以前の討伐任務はあくまでドラゴンにより住処を追われた獣類・竜類が対象だったが、最近はそうでもなくなってきているらしい。ドラゴンは家畜を狙って村に現れるようになっているそうなのだが、いつ人が襲われるかわからないし、それに実際、火事により家を失う者もいるのだとか。


ここしばらくは魔族側の侵攻に備えて手出しを控えていたのだが、そちらへの警戒レベルが下がったことにより、ユグラシフェルト辺境領においては、オルストロ山脈のドラゴンが目下での最大の懸案となっている。


軍から提供された情報によると、ドラゴンの姿は、その俺が最初にイメージした姿からあまりズレてはいなさそうだった。大きなトカゲような姿で、背中に翼があり、首と尾が長く、頭には角があり、そして火を吹く。いわゆるドラゴン。ただ、キルステンやロズワールが死んでしまったときに目にした個体よりもおそらく大きい。今回も1体だけという報告だったが、2体目、3体目がいても大丈夫なように、少なくても仲間と一緒に逃げることはできるように心構えはしておく。


それで、そのドラゴン討伐がなぜ俺とソフィアとの関係に影響するのかというと、ドラゴンの出現が確認される地域の中に、ソフィアの生家のあるマルトル村があるからだ。そつなくドラゴン討伐をこなした暁には、ソフィアの故郷を救ったことにもなる。そうなればあわよくば、というわけだ。


そして俺たち"勇者パーティ"は、マルトル村に逗留している。これはおそらくたまたまでもない。ドラゴンの住処に踏み入るのにちょうどいい位置にマルトル村があったから、というのは名目の1つではあるが、ラキリがソフィアを労う意図でマルトル村を選んだのだろう。


その証拠に、本来村への逗留は1泊でいいはずなのだが、3泊が予定されている。ずっと働き詰めだったソフィアへのご褒美といったところなのか。ラキリも憎いことをする。……まさか、ラキリはフィリビオンさんに続きソフィアも狙っているのか。いやいや、いくらなんでも、そんなことされたら俺だって考えがあるぞ。


そう危惧していたが、歓迎のため催してもらった酒宴では、ラキリは毎度の通り、村の娘たちをはべらしており、ソフィアもそれを目にしていた。だから心配はなさそうだ。


「――それで、もうダメだと。これは死んだなと思ったところ、向こうのヨル、あいつ。あいつが雷を落としてソニタリオスの動きを止めて、その隙に俺とラキリの二人がかりで倒すことができたわけです。いや、あれは強かった。何でまだ私たちが生きてるかわからないくらい強かった。もう1回戦ったところで勝てるかどうか。」


「何を弱気な。謙遜なさるな、勇者さま。この数百年、魔族どもとまともに剣を交えた者すらそう多くない。私も若いころは帝国軍の一兵卒として命を捧げて戦場を駆けましたが、戦場で魔族なんか1度も見たことはなかった。いや、生きてそのような方にお会いできる日が来ようとは。」


「おいおい、ドワーフ爺、あんた救護兵だったんだろ。いつ戦場に出たんだよ。」


「やかましい、私の話はいい、勇者さまの話をしているんだ。」


「でよ、そのソニタリオスって敵を倒したときも、ソフィアは戦場にいたのかい?」


老齢のドワーフを尻目に、ヒュームの若者からの問いに答える。


「ソフィアもいましたよ。いやもちろん、護衛は周りに置いて。」


「へえ、やっぱりすげぇんだな、ソフィアは。あのトロかったソフィアに、まじないの才能があるって聞いたときにもたまげたけど。教会で回復士やってるって聞いてもピンとこなかったのに、まさか勇者さまのお仲間に選ばれるなんてね。実際見るまで信じられなかったよ。」


「お前さんはそうだろうよ。だが私はちゃあんとわかってたんだ。だからソフィアに魔術の勉強をしなさいと、言ってやったんだ。」


「それ俺の婆さんも言ってたぜ。」


「俺の親父も。」


ドワーフ爺は器の酒を一気に飲み干すと、新しい酒瓶を開けて、自身の器に注いだ。続いて中身がまだ残っている俺の器を半ば強引に奪い取ると、並々注いでくれた。


何から作られているかわからない白濁した酒は、酸味が強く最初は受け付けなかったが、料理と一緒に口にすると旨さがわかってきた気がする。もしかしたら酔が回ってきて何でもよくなってきているのかもしれないが。


俺にとって遠征時の楽しみはまず食事だ。今回はまずまず。メインの肉はとても旨い。全体的に味は薄味ではあるものの、それは城郭の中と外で変わらない。だけどやはり調理法の制約なく肉が食えるのが嬉しい。


人の往来のある宿場町だとそれなりに食器が揃っていたりするが、この山村ではスプーンなど口に運ぶための食器がなく、手づかみで食べるスタイルだ。城郭都市から離れた田舎なので、やはり国教会の戒律はゆるゆるのようだった。骨付き肉にかぶりつくような食べ方も、宮廷や城郭都市ではあまり見られない。野味あふれる味というか雰囲気というのか、俺の好みには合っていて、食事が楽しめた。


ソフィアもしきりに村人たちから料理を勧められていたものの、申し訳なさそうに断っていた。この村で暮らしていたころは、なにか特別な日にはソフィアも食べていたはずだ。頑なに国教会の言いつけを守るソフィアの真面目さに頭が下がるが、一方で今回くらいはいいんじゃないかと思えてしまう。


淡水生の小型の水竜の肉の筋を、歯で骨からこそぎ落としていると、さっきとは別の若者が俺に話しかけてきた。


「そんでソフィアは、ちゃんとお役に立っていますか? 勇者さま。」


顔つきがなんとなくソフィアに似ているような気がした。兄弟か、親戚なのかもしれない。ゴマをすっておこう。


「役に立ってるどころか! 何度も命を救われましたよ。」


そういって俺は服の袖を捲くって、右腕の、ソニタリオスに斬り落とされたときの傷を見せる。


「この傷は、さっき話していた敵を倒したときの傷です。傷口が一周しているでしょう? 一時は、完全に斬り落とされてしまったんですが、ソフィアに治してもらいました。いや、ソフィアがいなかったら右腕が失ってたところでした。」


「回復士っていうのは、そんなことまでできるんですね。」


「いや、全員ができるわけではないみたいですよ。ソフィアだからできるらしい、って聞きました。本当は胴体にもいくつも怪我があったんですけど、ほかの傷は全部、跡も無くなるくらいきれいに治してもらいました。向こうにいるラキリなんか、腹を半分くらい割かれて、ソフィアがいなければ死んでましたよ。」


若者が、どこか満足げで、誇らしそうな表情となった。よしよし、ゴマすりはこの方向でいいらしい。いや、まあ、ゴマすりというか事実をそのまま伝えているだけなのだが。


話していると、この若者はソフィアのいとこで、ソフィアと同い年。小さいころは兄弟のように一緒に過ごしていたのだということがわかった。まあ、将来義兄弟的な仲になるはずなので、仲良くして悪くない。……なんていう、俺の浅ましい考えが少し恥ずかしくなるくらい、純朴そうな心根のいいやつのようだった。


騒がしいドワーフ爺が用便に立ったあと、青年がソフィアの前にいた夫婦を呼び寄せた。夫婦は、ソフィアの両親だった。両方とも、優しそうな、のんびりとしたような顔つきでソフィアに似ていた。


失敗だったのはこの時点で俺が結構酩酊していたことだった。ドワーフ爺に付き合って何杯も飲んでいたからだ。なんとなく、ソフィアの幼いころの話や、村を出るまでの話をしてもらったことは記憶しているが、具体的には何だったか思い出せない。


ただ、何度も何度も、


「娘をどうか頼みます。」


と言われたことは覚えている。


ちゃんと返事できていたかは不安だが、次の日の朝に、丁寧めにあらためて挨拶したところ変な様子ではなかったので、まあ、失態を犯してはいなかったのだろう。まあ、ひとまずご両親への顔合わせはまずまず成功したようだったのでよかった。


予定通りマルトル村へは3泊して、体力と魔力を万全の状態にして4日目の早朝、日が昇る前に村を出発した。


出立の際、ソフィアの両親と青年と、何人かの村人がわざわざ見送りに出てきてくれていた。それは、"勇者さま御一行"のためというよりも、村の自慢であるソフィアのためだったのだろう。


無事ドラゴンを倒したら、再びこの村に立ち寄ることになっている。しばしの別れだが、互いの姿が見えなくなるまで、ソフィアは何度も振り返っていたし、村の人たちもずっと見送ってくれていた。

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