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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
24/31

凱旋 (2)

ユグラシフェルト辺境領・領主から、"勇者パーティ"の全員に勲章が授与された。


ラキリは更に昇進し、俺はこれまで名誉階級しか与えられていなかったが、正式に軍の中での階級を得た。つまり俺より下の階級の人間に対する正式な指揮命令の権限と責任が生じることになった。名誉階級と実階級との間に差があるので、実階級のほうを見るとなんだか降格させられたようにも感じるのと、責任が乗っかってしまったので複雑な気分だ。


いちおう固辞する選択肢もあったらしいが、それを知ったのはありがたく実階級を拝命したあとだった。ラキリの態度から知っていたとしてもその選択ができたとはとても思えないが。


ヨルは、戦争後の監査において発覚した死者からの魔力供給 (実際には制限を解除し生死問わず魔力を得ていたらしいが) についての研究を禁止されて憤慨していたものの、俺とヨル自身に、死骸からの魔力供給を受けるための魔術印を仕込んだあとで、監査官の目の前で魔術具を破棄してみせた。ヨルはその後すぐに別の研究対象を見つけて、存分に魔術研究や実験に勤しんでいる。


ソフィアも俺と同じく帝国軍内での名誉階級の位が上がったが、その栄誉以上に、ユグラシフェルト辺境領の民衆は彼女を尊敬しファンをますます増やしているようだった。戦場でも、戦争後でも、多くの兵士たちの命を救っているからだ。兵士や兵士たちの家族を中心に聖女だとか神の御使いと呼ぶものさえいる。


そして俺とラキリも、いままさにソフィアに傷を治してもらっている最中だ。通常の傷であれば、ソフィアほどの技量があれば魔力不足にならない限り1日か2日で全快できる。しかしソニタリオス=グラディオの、正確にはやつの振るっていた剣で直に斬りつけられた箇所が呪いのように傷口の修復を阻んでおり、定期的に治癒魔法をかけてもらう必要があった。俺とラキリは1日おきのペースでは、ソフィアに診てもらっている。


1日おきというペースは、俺にとってなかなか微妙なスケジューリングだ。俺とソフィアとは同じ"勇者パーティ"ではあるものの、実際に顔を合わすのは遠征のときくらいで、理由がなければ会うことがない。だからハイペースで定期的に会うことのできる現状は嬉しくはある。


しかしその一方で、1日おきというのは人間のなかで混ざってしまった魔力が正常な状態に戻るには十分ではないらしい。何をいっているのかというと、2日に1度、ソフィアに診てもらうということは、つまりさせてくれるほうのメイドさんと熱い夜――というか昼であったりもするわけだが、を過ごしていることがソフィアにバレてしまうのだということだ。


そのためここしばらくはずっと、不完全燃焼のままで終わってしまっている。ソニタリオスとの戦争の前はラキリの特訓が苦しすぎてベッドの中で泣いている俺を、優しく抱きしめてもらっていた。それでどうにか精神を保っていた俺だったが、戦争から戻ってからは一気にモテ期が到来して引く手あまたの状況となり欲望に身を任せていた。


特にさせてくれるほうのメイドさんとは、毎日のように攻守交代しながら延長戦に至っても降板せずにマウンドへ登ったりバッターボックスに入ったりして、直球勝負だけでなく様々な変化球を試しボールやファールや、何だったらデットボールを甘んじて受けてそれはそれで戦術のひとつだいう境地に達していた。不意にバントや盗塁を繰り出すことで互いに集中をかき乱すというような手練手管までおかげさまで身につけてしまいつつ、かと思えば甲子園球児よろしく真面目に真摯な姿勢で早朝からの自主練では基礎の反復練習に付き合ってもらったり。そしてまた非常にフランクに、対決するだけではなく少年少女のようにただただ遊びとして楽しむといった純粋な気持ちも決して忘れない、といったような、まあそういうことをしていたわけだが、ソフィアにはその切磋琢磨の様子はお見通しのようだった。


日に日に機嫌が悪くなっていく彼女の様子をみて、何日目かにやっと気づいた俺は、断腸の思いで現在の禁欲生活へと突入していたわけだ。最近では、ゴミかゴキブリを見るような冷たい目つきの彼女ではなくなり、もとの優しく明るいソフィアと楽しく会話ができるようになってきている。ああ、危なかった。あやうく"勇者パーティ"が俺のせいで崩壊してしまうところだった。もしそうなった場合、誰にどういう報告がなされるのだろう。ゾッとする。


冗談はさておき。


今日はソフィアが国教会からやってくる日だ。俺はとくにやることもないので離宮の医療所近くへと、一足早く訪れていた。ユグラシフェルトの王宮はバカでかく、俺を含めて普段何人もの人間がこの中で生活をしている。領主やある程度の地位の貴族は自室で医術や魔術により身体の悪いところを診てもらうわけだが、兵士や下級貴族たちは敷地内の医療所で診てもらう。


俺は、ユグラシフェルト辺境領の中ではいちおう貴族という扱いらしい。ただ位階としては真ん中かそれより下くらいと俺は認識していて、そういうこともあり俺は自室に回復師であるソフィアを呼びつけたりはしない。いまとなっては、俺の部屋で何かしらの魔力的痕跡を看破されて、再びゴミかゴキブリを見るような眼差しを浴びるのを避けるという目的も足されているのでなおさらだ。


到着すると、戦場を共にした魔法騎士の1人と顔を合わせたので、しばらく待合室のテーブルで会話をした。お茶を出してもらい魔法騎士は1杯だけつきあってもらった。時刻を告げる鐘が鳴り、彼は仕事へと戻っていった。引き止めてしまったかもしれない。だとしたら悪いことをした。


次の鐘のころにソフィアが来る。この世界に時計はなく、いやあるのかもしれないが普及はしておらず、日本にいた俺からすると時間はかなり雑だ。だからこうして、待ち合わせがある日はのんびりダラダラと過ごすことができる。


医療所に務めている人たちとも仲良くなってきた。仲良くなりすぎてずっとしゃべってしまい、この前、医療所の責任者であるフィリビオンさんに苦言を呈されてしまった。


"勇者"である俺に苦言を呈するような人は多くはない。俺が接するこの世界の全員分くらいの量の苦言と命令をラキリがしてくるが、そのほかだとヨルとソフィア、イリストリア、そしてこのフィリビオンさんくらいだ。いま気が付いたが全員女性だ。なるほど、いい感じに異世界転生ハーレム主人公な感じになっていてニヤニヤしてきますね。……まあでもラキリは半分男なので4.5人か。そう考えるとまだまだ増やしていきたい所存。


話が脱線してしまったが、フィリビオンさんはエルフとヒュームを両親に持つらしく、いわゆる『ハーフエルフ』ということになるのだろう。この世界の言葉で何というかを俺は正確には知らない。下手に聞いた単語をすぐ使ってしまうと蔑称であったりするので、慎重な言葉のチョイスが必要だ。


……また話が脱線した。フィリビオンさんはエルフの血を受け継いでいるため長生きで、今年でちょうど170歳なのだという。つまりこのユグラシフェルト辺境領がまだ存在しないときから生きているということになる。


エルフはみんな美人だ。「美人にちょっとたしなめられながら世話を焼かれたい願望」のある俺にとって、フィリビオンさんは、いままさに狙っている人なのである。モテ期到来の俺はいつもより強気だった。このままいると、フィビリオンさんが表に出てくるかもと期待しながらぬるくなったお茶をすすっていると、診療室の中が騒がしいのに気づいた。


「――しっかりでてきているほうだとは思うけれど、帝都に比べたらまだまだね。いい? これまでの常識は捨てなさい。優先順位の認識を改めて。まずは――」


イリストリアのようだ。診療室の中でなにやらイリストリアがわめいているらしい。そういえば確か「私がいる間に立て直す」とか言ってたっけ、確か。……あれ? 俺がここに座って結構時間が経っているけど、誰も診療室へは出入りしていなかったぞ。ということは、診療室のみんなはイリストリアの高飛車な説教をずっと食らい続けているということだ。気の毒に。


というかなぜ、俺の周りの女は態度が高慢で、人の行動に口出してくるやつばかりなんだ。バランスとれているのはソフィアくらいじゃないか。もうちょっとバリエーションってものを考えないと。異世界転生物によく出てくる神さま的なやつがいたらもっと考えてキャラクターを配置しろと思う。


ラキリは俺の一挙手一投足にいちいち命令してくるし、ヨルは自分の都合と興味関心であれしろこれしろと言ってくるしすぐマウントとってくるし、イリストリアに至っては命令するうえにマウントまでとってきて、さらにネチネチネチネチ、こっちの落ち度を延々といつまでも追求してくるから余計にたちが悪いし、フィリビオンさんも長く生きているからかちょと頑固っぽいところもあるし。


あれ? 考えたらソフィアも基本的にはバランス取れているけど、こと女がらみのことになると急に潔癖さを要求してくるというか、いや要求はされてないけど、ちょっとでも婚前交渉っぽい雰囲気を嗅ぎ取ったら人を汚物を見るような冷たい目で見てくることがあるぞ。


え? 全員……? 全員だ。俺の周りにはいろんなバリエーションで俺の行動に指図してくるやつしかいない。やや受け身の体質である俺だからどうにかなっているけど、このバランス、普通ならクーリングオフですよマジで。うん。


あ、いやごめんそこまではひどくないかもしれないけど。


などと。俺がこの世界の真実に気づいたのと、時を同じくして診療室のドアが開いた。ドアを開いたのは診療室に務める人間で、しかしイリストリアは自身のために開かせたドアを当然のようにくぐり、俺のいる待合室へと出てきた。


「――次の休息日が明けたらまた確認しに来ます。もちろん、今日指摘した点にすべて対応できるとは考えていないけれど、そのときまでに進捗を教えてください。ただし、クリ―サ―の件だけは最優先で。それでは、よろしくお願いしますね。」


イリストリアは「お願いしますね」と言っておきながら相手の返事を受けとるそぶりもなかった。ドアの間から見えたフィリビオンさんの表情を察するに、相手の話は聞かずに一方的にネチネチと彼女の考える改善点を指摘していったんだろうと推測できた。後ろにいる2人の従者も高慢そうな態度に見える。アメリカドラマのスクールカーストでいう「クイーン・ビー」と「プリーザー」そのまんまだ。


するとまたタイミングよくといっていいのか、もう一方の入り口のドアが開いて、今度はラキリが入ってきた。


「あら? 久しぶりね、ラキリエッタ。……いえ、ラキリ。挨拶に来ないから、またどこか猪でも狩りに行っているのかと思ってたわ。いたのね。」


「ああ、ずっとな。私は貴様と違って忙しい身でね。」


「聞いたわ。大変だったそうね。おなか割かれてしまったって聞いたわ。……死ななくてよかったわねぇ。」


……「死ねばよかったのに」に聞こえたのは俺の気のせいだろうか。


「ああ。うちには優秀な回復士がいるからな。命拾いした。」


「ふうん。じゃあ、感謝しなきゃね。その……、ソフィアっていったかしら? その子に。死んでしまったら勲章も昇進も意味ないものね。」


「修道士さまの言葉とは思えないな。」


「あら、失言。」


俺は息をひそめてラキリとイリストリアのやり合いを聞いていたのだが、ちらりと、イリストリアの視線がこちらへ向いた。


「……ロズワールとキルステンも、天上で喜んでいるでしょうね。立派に育ったようじゃない。勇者さまは。いったいどんな手を使ったのかしら?」


「別に。やつもまだまだ大したことはないが、それほど難しくはないはずだ。むしろ、あれほどの魔力を持った者をうまく活用できないほうが問題だろう。」


「まあひどい。死者に鞭打つようなことは謹んだほうがよくってよ。」


「……私は、貴様に対して言っているんだが?」


「あらそうなの? でも残念。私は修道士で回復士なの。敬虔な国教会の信徒である私が、たとえ人に害為す魔族であっても命を奪う行為への加担なんてとてもできないわ。誰かさんと違ってね。」


「ふん、どの口がいう。」


「……ついでだから言っておくけれど。修道士として。あなた、懲りずにずいぶん節操なく楽しんでるようね。」


「何だ? 貴様の従者はそんなことまで嗅ぎ回っているのか?」


「すこし診ればわかるし、……いえ、それだけ混ざっていれば診なくてもわかります。あなたも隠そうともしていない。嫌でも噂が聞こえてくるわ。恥を知りなさい。」


「どうせ破門された身だ。この上は信徒ではできないことを存分に満喫するだけだ。」


「汚らわしい……。あなたはよくても、家名に傷がつくの。私の出世に響くわ。」


「家名に傷がついたくらいで出世が止まるようなら、貴様の実力もそれまでということだ。少しは自分の力で勝負したらどうだ。」


「私以上の回復士が、帝国のどこにいるの? いるなら連れてきてほしいわね。」


「いるさ。大勢な。貴様の尊大な態度こそ、身を立てるうえで邪魔になっていることがなぜわからない。他人の密事ばかり追い回していい気になっている暇があればすこしは技量を磨いておけ。」


「なにが密事よ。この宮殿と教会の隅々まで知れ渡っているの。あなたの放蕩ぶりは。密事というなら少しは隠したらどうなの? まったく、『どの口が』ですって? あなたの下の――」


「イリストリアさま、……そろそろ次のご予定が。」


イリストリアの後ろに控えていた従者の1人が、イリストリアを制する。イリストリアは、自身が発しようとしていた言葉を飲み込み冷静さを取り戻す。


「……そうね。では、忠告はしましたからね。ラキリエッタ。せいぜい、私の家名を汚すことのないようにしておきなさい。」


イリストリアと2人の従者が騒がしく待合室を去り、俺とラキリが残された。


久々に見たが、この2人が顔を合わせるといつもこうだ。今日は特に周りに人がいないからか激しかった。さっさとどこかへ行っておけばよかった。そう思いながら、完全にこの場を離れるタイミングを逃してしまった俺はできるだけ気配を消すように、何も聞いていなかったというような顔をつくろっている。


するとラキリと目が合った。挨拶でもしようかと、今度は笑みでもをつくろうとしたところ。


「なんだ貴様、いたのか。気付かなかった。」


「はあ、どうも……。」


鏡で確認するまでもなく、自分が変な表情になってしまっていることは自覚できた。

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