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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
23/31

凱旋 (1)

監査官に対するヨルの魔術講釈とロジハラが止まらない。俺はしばらく前からヨルが何を言っているのか理解するのを放棄している。


「――ソニタリオスの攻撃を受けた時点で、空中艦はもはや機能していなかった。だから活用したまで。放っておいたところで、艦もろとも落下し無駄になっていたはずだ。だから装置が空中にある間に、無駄になるはずだった魔素をかき集めて有効活用してやったまでだ。帝国の勝利に貢献させてやったのだから、そのほうが彼らにとっても本望だったろうね。まさか、帝国の勝利自体に、意を唱えるわけではあるまい? それに誤解があるようだが、落雷というものは神の怒りにより天から降り注ぐものではない。距離の離れた2箇所の電位差によって生じるものだ。魔術発動は2箇所で、同時だ。地上だけでの魔術発動だけでは足りない。いいか? 敵の攻撃により破壊され機能しなくなった空中艦には、蓄積した大量の魔素がある。地上には承知の通り魔素は十分にある。図らずとも2箇所に大量の魔素が存在する状況が目の前にある。加えて直前にソニタリオス=グラディオは上空に向けて攻撃を放った。これにより空間的にも魔力的にも経路はできあがっていたわけだね。なぜかわかるか? わからない? なるほど、だからこのような意味不明な疑念が生じるわけか。監査官として最低限度の知識が足りていないようだね。かいつまんで説明すると、ソニタリオス=グラディオの攻撃により、大量の魔素の塊が空中艦に向けて移動したわけだ。当然移動経路にはいくばくかの魔素は残留する。これが魔術的経路。高密度に圧縮された魔素は物性を得ており、特に上空では氷晶の摩擦も生じる。これが物理的な経路。これでわかるかね? 君は繰り返し、空中艦に蓄積した魔素のみを利用し落雷を引き起こしたかのような誤った認識を披露していて、またどこに落雷が生じるか不確定だという誤った懸念点を指摘しているが、それは大きな間違いだ。なぜなら直前にソニタリオス=グラディオが空中艦に向けて攻撃したことで空間的にも魔力的にも経路はできあがっていたし、あれほど高出力の魔力源であれば落雷の経路選択には労力を使わない。むしろ別の箇所に狙いを定めるほうが余計な魔力消費が生じるくらいだ。君自身で調べてみるといい。あえて言っておくが、ここまで説明した内容は、多少の物理や魔術の心得があれば理解できる程度のごくごく基礎的な知識の積み上げでしかない。私も暇ではないので2度同じ説明はしない。もし理解できないのであれば君の職務として物理と魔術の基礎を学び直すといい。次の説明に進む。本件で最大の課題はやはり正負の電荷を蓄積し続けて漏出させないことだ。魔力の蓄積と漏出を防ぐことについてはいくらかの知見はあるものの、電力についてはまったく専門外だし文献もほとんどなかった。規模の拡大により対数的に魔力消費の量が増えることは十分にあり得たからね。その点において確かに指摘の通り、万全の検証が行われたわけでなかったことは事実だが、それならば他に何が有効だった? 答えられないはずだ。直前にあらゆる手段での魔術攻撃が有効でないことは、あの場にいた者は誰もが見ていた。君たちはその場にいなかったがね。そして落雷について、小規模での実験・検証は何度も行い報告書も事前に提出済みで、『軍事利用も一考に値する』という参謀部の評価も別資料にあったはずだ。当該の状況下で既存の、例えば魔素出力での攻撃を行ったところで防がれることは目に見えていたし、炎熱による魔術でも効果が期待できなかった。これは君が先に認めた通りだね? であるのならばそれ以外の方策として『軍事利用も一考に値する』という評価を得ている方法を、現場判断で実施することは自然だと考えるが? それでも君と君の組織は、戦場で効果のないことが確認された手法を変えずに、単純に投入する魔力量を増やせばよかったのだという主張をするわけかな? 私は構わないがその場合、誰と誰がそのように考えている、という主語は明記してくれよ。戦場での魔術運用についての知識があまりにも足りない。結果としてソニタリオス=グラディオの動きを止めて殺すことができたという事実は、どうあっても動かすことができない。気に食わないのであれば、君と君の組織の名前を明記して、『直前に効能が確認されなかった術式に固執して魔力量を無為に消費し続けることが正しい』という主張を記せばいい。その報告書とやらにね。」


「我々はあくまで事後検証として事情をうかがっているわけで、何らかの主張があるわけではない。空中艦の検証を行った結果、明らかに魔力を吸収する性質を持った装置が確認されたので、その点についての確認をさせていただいている。」


「だから『軍事利用も一考に値する』と記載があるだろう。もともと研究用途を兼ねて建造していた空中艦に、『一考』するための検証用の装置を積載することの何がおかしい? その装置が取り外されていないことについて、私に責任があると? 責任を問いただすとすればそれは空中艦の運用責任者だ。むしろ私が、いち兵卒の立場の人間が、戦術利用する空中艦の設備に介入していることのほうが問題で、越権行為だと私は理解しているがね。君は違うのかな? であればそれも記載すればいい。一介の魔術兵が戦術利用する空中艦の装置の取り外しを指図すべきなのだと。もちろん誰と誰がそう考えているかを明記したうえでね。」


「そこまでだ、ヨル。」


ヨルの言葉を遮ったラキリ。これ以上ヨルにしゃべらせておくとさっきのような罵詈雑言がまた始まってしまうと判断したのだろう。ラキリは、いつも以上に落ち着いた声音で、対峙する2人の監査官に正対して語りかける。


「本件、懸案は2つあったと認識しています。1つは『落雷』を用いることが適切だったか。しかしこの点は、最善手であったか否かはともかく、戦術行動の範囲を逸脱していないことをご理解いただけていると認識しておりますが、いかが?」


「その点は、同意いたします。」


「よろしい。では2つ目の魔力吸収の装置の可否について。この点は、当報告書として扱うべき範囲を超えていると考えます。『軍事利用も一考に値する』という記述は、軍事利用の許可を明言しているわけではないが、研究を禁じているわけでもない。その点は同意いただけますね? そしてこの装置に限らず、研究開発用途の空中艦を実戦投入するにあたり、装備選定の権限は殉死されたイグローリア提督にあったことも。いかがですか?」


「ええ。しかし――」


言葉を継ごうとした監査官の言葉を自然に遮り、ラキリが再び言葉を続ける。


「私は提督と面識がありましたが、非常に理知的で、こと軍事において私情をはさむような御仁ではありませんでした。帝国軍人として、勝利の確度を高める方策を、あらゆる手を尽くして、講じることのできる方だったと私は考えます。彼は国教会の敬虔な信徒でしたが、それ以上に軍人でした。……私情ですが、私は提督と面識ある立場としてこれ以上の議論は気が進みません。無論、命令とあらば従いますが。」


ラキリは若い監査官の目を見据えて、普段よりもだいぶ穏やかな口調で語りかける。


「それに信徒たちは帝国の勝利に歓喜している最中です。魔族どもとの戦争も、ともすれば継続してしまうかもしれません。私も部下も、イグローリア提督も、そして何よりユグラシフェルトの兵士たちは文字通り死力を尽くしました。傷の癒えぬ者もまだいます。いまは時機ではないと考えますが?」


口数少なく腰掛けていた年長の審査官が応える。


「確かに……。そして腰を据えて議論をすべき事柄ではありますな。ご懸念いただかなくとも、もとより我々は職務として事実のみを取りまとめて報告いたします。検討と判断は中央で行ってもらいましょう。」


年長の監査官は始終柔和な態度を崩さず、応接室を去るまでラキリと談笑していた。一方、若い審査官は去り際でもヨルに対する敵対心をあらわにしている様子だった。国教会の教典において、魔族は悪者として描かれているが、ダークエルフも同様にいい扱いをされてはいないらしいから、そのせいだろう。ヨルの態度も悪かったとは思うが。


敵に致命傷を与えたのは俺とラキリだったが、その直前に敵の動きを止めたのはヨルだ。あとで聞いたところ俺に渡したマント同様、ヨルへ魔力供給を行うための装置を空中艦に備え付けていたらしく、同じく地表で死体から吸い上げた魔力も使って、落雷を発現させたのだという。


帝国の魔術研究において「電気」に関する分野はほとんど手つかずな状態らしく、電気を防ぐための魔術防壁も同様らしい。このことから有効打になり得ると判断したヨルの機転で、ソニタリオスの動きを止めることができた。


ラキリも俺も、今回の勝利の最大の功労者はヨルだと考えている。しかし外から見ると、腹を割かれたり、右腕を切り落とされたりしてもなお敵へと立ち向かったラキリや俺が英雄として扱われ、落雷を発現したヨルはあくまでサポートとしてしか認識されていないようだった。そして敵の動きを止めることができた魔術については、発現した手法が国教の戒律に反するのではないかという懸念がちらほら聞かれた。


ヨルがダークエルフだからそういう扱いを受けているのか、それとも民衆や軍上層部が魔術や科学への理解が足りないからなのかは俺にはわからないが、扱いが公平でないのは確かだろう。当の本人が気にしている様子がなく、むしろ自身の考案した魔術を大規模な戦場で実践できたのでしばらくは機嫌がよさそうだったので、俺が変に気にしすぎているだけなのかもと思っていた。


しかし今回の監査でやり玉にあげられたのはまさにその点だった。国教会の戒律において2つの点において問題があるとのことだった。まず天から与えられた魔力を地上の人の都合でやり取りすること。次に魔力に限らず死者の持ち物を奪うことは重罪とされていること。死後の魔力も「持ち物」に該当する可能性があり、死体から魔力を得ることは二重の意味で戒律に反するとのことだ。


したがって、今回、"勇者パーティ"と魔法騎士たちが身につけていたマントや、空中艦に備え付けられていた装置は戒律に反することになり、持っているだけで禁忌を犯していることになりかねない。


国教会の信徒ではない俺は、死体の魔力を使ってパワーアップしても別にいいんじゃないかと思えてしまう。ただ一方で戦場で死人が増えれば増えるほど力を増す者が勇者を名乗るのも違和感はあることはわかるし、戒律にうるさい国教会側の人間が懸念を示すのも理解できる。それを踏まえるとヨルの口ぶりもよくなかった。国教会側の人間である監査官に対して「生かしていても何の役に立たないやつらを、死んだあとそいつらの望み通り帝国の勝利に貢献させてやった」など言ってしまっては、どう考えても不利になる。もうちょっとマシな言い方はなかったのかと。


監査官の2人を見送ったあと、案の定ラキリから、ヨルは口の聞き方を咎められていた。ヨルは終始ふてくされているような態度だったが、研究費の減額や、平時の特権を剥奪されかねないと諭されると、いちおう態度を改めることに同意をしているようだった。


そしてこの日は解散。ラキリはそのまま王宮に残り仕事を続け、ヨルは研究院へ。俺は魔法騎士たちとの訓練へ向かう。


ラキリは療養のため訓練にはしばらく訓練には参加しておらず、事務作業のみを行っている。俺はソフィアに右腕をくっつけてもらって3日ほどは安静にしていたが、休息日が空けるとまだ包帯や固定具が取れないというのに、戦闘時を想定した魔術の訓練をするようにラキリから命じられた。


この訓練は以前までと比べると何段階も難易度が上がっていたが、過酷ではなかった。ソニタリオスとの戦争の直前の地獄のような内容から比較すると、天国のようなものだ。それに戦争直前の特訓時には余裕がまるでなかったが、危機を一緒に乗り越えたからなのか、鬼教官が不在だからなのか、魔法騎士たちとも会話する機会が増えて、一気に仲良くなっている気もする。これもラキリが回復したらどうなるかわからないので、つかの間の休息だと思って謳歌している。


訓練へ向かうためにはいったん自室へ戻り服を着替える必要がある。急ぐでもなくできるだけダラダラと、離宮へと続く回廊を、中庭の景色を眺めながら歩いていた。


すると回廊の向こうに見知った顔があるのに気付いた。向こうも同様にこちらに気付いたらしい。


「久しぶりね、トサカ=ノヴォル。」


帝都で見られる回復士の装いの彼女はイリストリア=エル=エステマグナ。最初の"勇者パーティ"の生き残りで、ユグラシフェルトでの国教会のトップの姪だ。ラキリとはいとこにあたり、同様に絶世の美人という評判。イリストリアは2人の回復士を引き連れていた。


「まずは戦勝ご苦労さま。ずいぶん調子がいいみたいじゃない。」


「うん、おかげさまでね。」


「猪のお姫さまは元気? ……ああ、大怪我したそうね。療養中かしら。」


『猪姫』というのは、ラキリが陰での呼び名だ。軍に入ったころ、敵に対して正面からの突撃を行い、怪我をいとわず血まみれで帰ってくることを繰り返していた様子がイノシシのようだと揶揄されていたらしい。いまではむしろ古参の軍人や、周囲の親しい人間のからの愛称のようになっているらしいのだが、しかしイリストリアが言うとそのニュアンスは感じられない。


「療養中。といってももう仕事には復帰しているけど。」


「せっかく治してもらったのに。ソフィア……、だったかしら? あの子もかわいそうね。傷が塞がらないうちは出歩かないでほしいものだけれど。」


「ソフィアは腕がいいから、もうだいぶ治ったんじゃないかな。基本的にはずっと座っているし。安静にはしていると思うけど。」


「私は、あなたにも言っているのよ。」


イリストリアは、包帯と魔術布でぐるぐる巻きとなった俺の右腕に視線を送りながら言った。おそらく診ている。ソニタリオスの剣で斬られた傷は、通常の治癒魔法ではすぐには治すことができず、完治に時間がかかっている。


「あなたたちの不注意で傷口が開いてしまったら、回復士のせいにされてまうの。たまったもんじゃないわ、まったく。……まあでも、よかったわね。優秀な回復士を見つけることができたみたいで。」


優秀な回復士という言葉について、イリストリアの声音や態度からは「私以上の回復士はこの世に存在しないけど」という言葉が付け足されているように感じた。実際彼女は、ロズワールとキルステンを失った最初の"勇者パーティ"が解散となったあと、帝都で回復士を統括する立場に出世し、現在は帝都で暮らしている。


戦後、ユグラシフェルトの回復士たちは総出で負傷した兵士たちの治療にあたっている。ソフィアはむしろ戦争後のほうが忙しそうだ。俺とラキリは治療のために2日に1度、短い時間だけ会っているが、まだまだ落ち着く気配がない。人手不足解消のため帝都から回復士が派遣されるということを聞かされていたのでもしかしたら、と思っていたがやはり彼女が派遣されてきたようだった。


「久々に戻ってきてみると、設備も何もかも、てんで駄目ね。帝都と比べるのもどうかと思うけれど。私がいる間に少しは立て直さなきゃいけないわ。」


嫌味なのか本心なのか、高飛車な態度は帝都に行っても変わっていない……、というか増長しているような気がする。


イリストリアとはしばらく世間話をして別れたが、その間、後ろの2人の回復士がこちらをじっと見つめてきていたのを俺は見逃さなかった。魔王軍の幹部を倒してからというもの、周囲の目が明らかに変わった。貴族や軍人は以前よりも信頼してもらえているように感じるし、ご婦人方、というかまあ女の子へのモテ度は確実に上がった。


具体的にいうと、2人いるメイドさんのうち1人から誘われてちょくちょくいい思いをさせてもらえるようになったり……、とか。奔放な方・貞淑な方、どちらのメイドさん、そのどちらに誘われているのかは想像に任せるとして、これまで異界人として少し距離を置かれていたように感じていた何かが、魔王軍の幹部を退けたことで取り払われたように感じている。


イリストリアの後ろにいる2人の回復士も当然修道士でもあるからソフィア同様戒律に厳しいはずで、そういう機会もきっとないんだろうな、とは思うものの、だからこそ妄想が捗る。いや、モテる男も辛いね。


地獄の特訓の時期はキツすぎて死んでしまおうかとすら思っていたけど、こんなご褒美があるならまあいいかと思えてしまっているから不思議だ。辛いことや悪いことが先にあったぶん、いまは良いことが起こっているなという感覚。ずっとこうだったらいいのに。ラキリが本格的に復帰するまでは、せいぜい楽しんでおこう。


訓練の準備のために自室へ向かう足取りは自然に軽くなっていた。させてくれるほうのメイドさんがいたら訓練前にパパ―っと……、などと考えていたからだ。

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