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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
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魔王軍最強の剣士 (3) - 山脈の向こう側

ディビステラム魔王国・東部方面軍首領のソニタリオス=グラディオが単身でヒュームの国と戦争を繰り広げているのと同じころ。東部方面軍参謀長・ミンネは自身の作戦指揮を順調にこなしながら、夫であるソニタリオスのことが気がかりでならなかった。


ヒュームの国・メルトグラニア帝国が決闘に応じなかった時点で、兵の配備計画は見直すべきと彼女は直感した。しかし将軍をはじめとする旧首領派たちの思惑と、何よりソニタリオス自身の強い意志が合致したことにより「単体戦力としての制圧」という当初の方針を変更することができなかった。


せめて手練れの戦士を数名同行させようとミンネは準備をしていたが、旧首領派によって潰されてしまった。それは現首領であるソニタリオス=グラディオへのあからさまな敵対行動だった。証拠はいくらでもあり、糾弾しようと思えばいくらでもできたし、組織運用の観点から厳しい処罰を下すこともあり得えた。しかしそれをしなかったのは、ソニタリオスがこの局面を好機と捉えたからだ。


旧首領派の思惑に乗っ取り、敵の一軍に単身で対抗することができれば、それはディビステラム魔王国の方面軍首領としての力を実証することになる。運良くそのまま一国を攻め落とすことができれば、むしろ地位を一気に盤石なものとすることができる。彼はそう考えた。


ソニタリオスは、旧首領派の敵対行動について、古参の幹部たちから与えられた試練としての意味合いもあると受け取っていた。実際、旧首領派の面々のなかにも実力さえ示してもらえれば服従する意思を持っている者は少なくなく、読みとしてはおおむね正しい。ソニタリオスは旧主流派の考えを読み解くことができている自信があり、真正面から受けて立つ意向だった。しかしミンネは旧主流派の意図に関わらず、判断として的確かという点に不安をかかえており、独自に画策した。


今回ソニタリオスには、頃合いを見て撤退することが参謀部から申し伝えられている。つまり戦争での勝利は必達ではない。というのも、今回の作戦は北海魔王国の拠点制圧こそが主の目的で、エルミロイでのヒュームとの交戦はその目くらましに過ぎないからだ。目下、最上位の戦略として掲げる「北海魔王国への侵攻」の足がかりとするために、敵の視線をずらす目的として、ソニタリオス=グラディオはヒュームを相手に交戦している。作戦は功を奏し、兵力差で圧倒する主力側で展開する北海魔王軍との交戦は順調すぎるほど計画通りに進行できていた。


不安の根本に、妻としての憂慮がある可能性をミンネは否定することができなかった。参謀部を預かる身でありながら、判断に私情をはさんでいると見られることは避ける必要がある。ともすると、旧首領派への攻撃材料を与えかねないからだ。努めて参謀として思考し振る舞うことで彼女は冷静さを保っていた。


客観的に見て、撤退が織り込み済みであることと、ソニタリオスの戦闘能力とをあわせて考えると、そこまで悲観する状況ではない。というよりも単体戦力としての強さが求められる方面軍の首領として、本軍とは別個に行動することはむしろ本懐だ。仮に敵に同等の実力を持つ単体戦力――、ヒューム世界で"勇者"と呼ばれる者が現れたとしても方面軍の首領が敗れることはないし、仮に敗色濃厚だとしても撤退すればいい。理屈としてはこうなる。


余計なことを考えないように意識的に参謀としての役割に徹したことで、眼前の北海魔王軍との交戦においてはむしろ普段以上の戦果を上げようとしていた。参謀の仕事の大半は開戦前に終わっており、戦場から届く戦果を受け取るだけとなっている。その手持ち無沙汰な状況が、自身の内面にある不安の感情に再び目を向けさせるきっかけとなった。


ミンネが山脈の向こうの様子に考えを巡らせていると、上空から接近してくる者の気配を感じた。自軍の兵士だった。翼の生えた男が、ミンネを中心に集まった一団の前に降り立ち、息を切らしたまま、報告を行う。


「エンギュロート城、陥落いたしました!」


東部方面軍の参謀たちの表情が一気に明るくなった。今回の作戦の最重要目標の達成である。緊張の糸が切れたように椅子に身を預けたような者もいるが、ミンネ直属の参謀のうちの1人が報告に補足を促した。


「我が方の損害は?」


「我軍の損害は300程度に留まっております。」


手を叩いて喜ぶ者も現れた。


「おお! これはまた。想定よりうまくコトが進みましたな。」


「ええ。怖いくらいに。」


ミンネは笑顔で返し、伝令の男にねぎらいの言葉を与えた。


参謀たちは、すでに戦勝処理について口に出している者もいるほど浮かれた様子だ。ミンネだけが、落ち着いた様子で卓上に広げられた地図を眺めている。最重要目標であるエンギュロート城の陥落を、吉報として受け取るために自身の頭の中で検証していた。北海魔王軍の単体戦力として所在のわかっていない者の動向を思慮し、何に警戒すべきなのかを考える。


「参謀長。」


獅子の頭を持つ男が、ミンネに声をかけた。


「ご心配でしょう。勝手ながら、配下の者にエルミロイの様子を探らせました。」


最重要目標を達成した直後であるにも関わらず、卓上の地図から目を離さないミンネの姿に、別の意味合いを感じてしまったらしい。


「……そう。それで、エルミロイはどういう様子でしたか?」


「首領の奮戦凄まじく、敵戦力に引けを取らないご様子だとか。ただ上空から……、おそらく空中要塞から高威力の魔術攻撃が行われたとのこと。威力はヴェルキリス級です。」


「ヴェルキリス級。ヒューム側の魔術の程度を過小評価していたかもしれないわね。」


「ご心配でしょう。しかしソニタリオス=グラディオ殿は剣技により、窮地は脱したご様子とのこと。ご安心ください。」


「そうですか。苦労かけましたね。」


「いえいえ。それで……、どうでしょう。我が方の勝利は確定したも同然です。再度、エルミロイの様子を探らせますか?」


「ありがとう。でも結構。まだこちらも完全には勝ちきれてはいない。エゾルゲアもヴェルキリスも、いまだ所在不明の状況です。引き続き最優先でこの2名の所在を探るように伝えてください。」


「そのように。」


「余計なことを」とミンネは言わなかった。獅子頭の男は表面上、ソニタリオスやミンネに服従する姿勢を示しながら、内心では快く思っていないことを彼女は把握していた。具体的に目立つ敵対行動をしているわけではないため泳がしている。


知ってもどうにもならないエルミロイの様子を伝えてきたのは、ミンネ主導で進められた北海魔王国への侵攻作戦が、これ以上ないほどにうまくいっているのが面白くなく、その嫌がらせのつもりなのか。それとも戦果を目の当たりにしたことで現首領派へ取り入ろうとでもいうのか。どちらにしても、夫の安否が派閥争いの道具として使われてしまっている目下の状況は気持ちのいいものではない。


ミンネが内心で抱える不安と苛立ちに気がつく者はいなかった。彼女の参謀としての思考は的確に機能していて、参謀部を統括する立場として実に適切な姿として振る舞っているように、その場にいる者たちの目には映っていた。

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