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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
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帝都招集 (2)

帝都での会議日程を終えて久々に顔を合わせたラキリは、明らかに不機嫌だった。


「私欲にまみれている。国家の守護を預かる者としての自覚がまるでない。」


思わず「すみません」と口に出しそうになったが、慨嘆の矛先は俺ではないようだった。焦った。帝都でのこの数日間の夜の生活がラキリの耳に入ったのかと思った。


ラキリの話によると、軍と国教会だけではなく、各国や直轄地であるはずの領地ですら各々の思惑でしか動いていないらしく、魔族への対策をまともに考えている者を数えるほうが早いというような議場であったという。懸案事項への対策はどうにかまとまったが、ラキリ様子から察するに、手放しで喜べる内容ではないようだ。


現在メルトグラニア帝国は、2つの懸案――、2つの魔族の国との問題を抱えているらしい。その魔族の国というのは、1つが「北海魔王の国」、もう1つが「ディビステラム魔王国」。


まずエルミロイ要塞へ攻めてきたのは北海魔王の軍勢だったらしいのだが、これは帝国配下のアルレア王国が抱えていた勇者が北海魔王の領地に遠征したことへの報復行動だったらしい。このアルレア王国の遠征は他国へは秘密裏に行われ、帝都への報告は事後だったそうだ。


その事後報告も戦果があればまだよかったのだが、軍議の場で明らかとなったのはアルレアの勇者は返り討ちに遭い死亡が確認されたという事実だった。


「アルレアの遠征では、北海魔王の軍勢に対して、敵方に甚大な打撃を与えることができたという報告もあった。」


「事実なら、北海魔王の侵攻はむしろその反撃だった可能性もあるわけか。」


「そうだが、話半分だ。アルレアは信用ならない。が、敵方は損害の多寡に関わらず、手を出されて何もしないというわけにもいかなかったのだろう。体のいい口実を与えてしまっただけかもしれない。」


次にディビステラム魔王国について。たまたまなのか必然なのか、北海魔王への侵攻と同時期に複数回、ディビステラムは帝都に使者を派遣し通商協定の締結を打診してきていたらしい。しかしエルミロイ要塞へ魔族の軍勢が攻めてきたのを受けて、帝国側は訪れた使者を殺してしまい、ディビステラムは宣戦の文書を送りつけてきたのだという。


「ディビステラムは長らく、――500年余りの間、賢い王が統治する国として知られていた。メルトグラニアもかつては国交を持っていた歴史もある。賢王が健在ならば通商の選択肢もあっただろうが、しかし十数年前、かの国は蛮族の王に乗っ取られたと聞く。いまではその蛮族の王がディビステラムの魔王を名乗り、周辺の国々へ侵攻し国土を広げているそうだ。」


ディビステラムの現在の魔王は「決闘」による戦争の決着を好んで使うらしい。古いしきたりで、魔族世界でも国同士の争いを決着する手段としては野蛮だとされ忘れ去られていたが、その蛮族の王が復活させてしまったそうで、戦乱の魔族世界では広く普及してしまっているのだという。


勇者召喚の研究が盛んになったのはそれかららしい。組織だけではなく、個としての強さ。1対1での殺し合いで勝つことのできる戦力として勇者、というか俺は期待されているのだ。……いや、ちょっと待ってと言いたくなるが、周りを固められて異を唱えられるような状況ではない。


「今回エルミロイへ攻めてきたのは、北海魔王なんでしょ? その『ディビステラム』と何か関係が?」


「魔族世界の5つの大国は現在拮抗状態にあるからだ。山脈の南側に勢力を拡大すると戦略の幅が広がる……、いやそれよりも防備か。特にディビステラムにとって、帝国は背面だ。オルストロの山々に隔てられているとはいえな。安全のために敵対するのは得策ではないと考えていたのだろう。」


「使者を殺すまでは?」


「そうだ。協力関係ではなく、武力支配の方向へ舵を切らせてしまった。」


聞けば、使者は魔族でなくヒュームだったのだという。わざわざ同じ姿・同じ種族の者を選んで使者として寄越すくらいには、こちら側への配慮を行う姿勢を示していた国に対して、なぜ使者を殺すなんて選択肢を選んでしまったのだろう。断るにしてももう少しやり方があるのではないか、と素人の俺でも思う。


うまくすれば北海魔王に対抗するため手を組むことができたかもしれないのにその可能性を失い、逆に敵に回してしまった。最悪の場合、2つの魔族の国が連合して攻めてくるかもしれない。


「この件については国教会の動きがあったらしい。『戒律を犯すヒュームは魔族以下の大罪人であり、神罰が下って当然』だと。何も考えていない。政でも、権力闘争でも、功名心ですらない。まったく――、いや、失礼。」


国教会の修道士であるソフィアの手前、ラキリは言葉を止めた。しかしソフィアはソフィアで、国教会側の振る舞いに不満があるようだった。


「戒律では殺生は禁じられています。刃を向けられているわけでもないのに、対話もせずに人命を奪うことこそ戒律に触れます。」


邸宅の広間へ使いの者が来た。ラキリの迎えが到着したらしい。紛糾した王宮での会議を終え、いったんは国家や軍としての方針は決まったものの、その範囲の中で存分に力を発揮するための根回しや交渉に取り掛かるとのこと。帝都でのラキリのスケジュールはパツパツで、その合間を縫って久々に日中に邸宅へと帰ってきたのだった。


立ち上がりながら、ラキリは指示を出す。


「では、先に伝えたとおり明後日から訓練を再開。合同訓練だ。私は不参加だが戦場での魔術運用を中心とする。ヨル、貴様も参加だ。遅れるなよ。」


「研究院での仕事があるのだが?」


「研究院へは連絡済みだ。明日調整しろ。」


忙しく去っていくラキリの背中に、ヨルはあからさまに嫌そうな顔を向けていた。


次の戦闘――、戦争は、 ユグラシフェルト辺境領の総力戦といっていい規模となる。最初はやはり、"勇者"との決闘を所望するといった内容だったらしいが、王宮での最終的な決定では却下となったらしい。


俺がまだ頼りないということもあるのだろうが、勝った場合、負けた場合の条件が一方的で承服できないということや、魔族側にヒューム側の軍事力を誇示する意図があるということが理由と聞いた。


決戦の場は直近と同じエルミロイ。何でも北海魔王と、ディビステラムの魔王とは互いに覇を競っており北海魔王が陥とすことができなかったエルミロイを手に入れることで力量の差を示す狙いがあるのではないか、というのが帝国軍の参謀部の見解らしい。ラキリはこれについても一部不服の様子だった。曰く、敵が手を組む可能性を否定するための理屈を無理やり作り上げているとのこと。


テーブルの上には、ディビステラムから送られてきた書面が残されている。魔術で転写したもの、とラキリは言っていた。ラキリにしては珍しく忘れていったのかもしれない。


羊皮紙に魔族の言葉で書かれている。魔族世界での共通語らしい。……。まるで読めない。


眺めているとヨルが話しかけてきた。


「どうした、何か気になるところでもあるのか?」


「いや、全然読めないんだけど。ああ、ヨルは読めるんだっけ?」


「いちおうね。」


魔族共通語は古代エルフ語に近いらしく、古代エルフ語は魔術研究をしている者にとっては必須の言語なのだと、以前ヨルから聞いた。


「内容は、まあ、ラキリが言っていたとおりだ。難しい内容でもない。……ん? 署名の部分だけ言語が違う。」


ヨルは紙面を裏返しメモ書きを見つけた。そのメモは俺にも読むことができる。帝国の公用語だった。


「ディビステラム魔王国・東部方面軍首領・ソニ……、ソニタリオス=グラディオか。変な名前だね。」


「将軍とか、国王とかではないのか。」


「ディビステラムは、国を四方に分割して、それぞれを魔王配下の戦闘に長けた者が治めているらしい。『強い者が偉い』という世界だね。笑ってしまうが、それで領土拡大を続けているというから、案外馬鹿にできないのかもしれない。」


東西南北に強いやつがいるって、まんま"四天王"じゃないか。仏教の。俺の中ではもう、魔王軍四天王・ソニタリオス=グラディオと呼ぶことに決めた。そうやって四天王を1人ずつ倒していったら魔王に辿り着くのだ。少しはゴールが見えてきた気がする。


……ただし、倒すべき魔王は少なくても5人はいるらしいけれど。

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