表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
15/31

帝都招集 (1)

エルミロイ要塞での魔族軍撃退の功績もあって、"勇者さま御一行"は帝都へ招集された。


凱旋パレードで迎え入れられ、皇帝や教皇へ謁見するなどいくつかの行事をこなしたあとは、帝都での待機を命じられた。要は自由行動だ。従者と共に行動する必要があるので何でもありというわけではなかったが、訓練から解放されているのがとても嬉しい。


ラキリやヨルとは、ここ数日まともに会っていない。帝都での"勇者パーティ"の一員としての行事参加を済ませると、ヨルは王立の図書館へ向かった。ラキリはエルミロイ要塞での戦功が認められ階級が上がったらしく、それもあってか軍での仕事が忙しそうだ。早速、魔族に対する今後の方針を検討する会議に呼ばれ、帝国軍本部で喧々諤々やり合っているとのこと。ちなみに階級が上がったのは"勇者パーティ"の全員だが、ソフィアや俺のは名誉階級なので実態としては何も変わらない。


帝都では、ユグラシフェルトの領主の邸宅に滞在している。他の屋敷に比べて大きく立派な造りとなっており、領主の財力をうかがえる。また帝都の食事はどれもいまいちだと思っていたのだが、領主の邸宅で出される料理はどれも美味しく、あるところにはあるのだな、と認識を改めさせられた。おそらくこれまで帝都では国教会側の人間として招待されていたので戒律に遵守した料理が出されていたのだろう。もしくは、国教会の戒律を無視しても咎められないほどに、領主の権力が強いのかも知れない。


"勇者パーティ"のそれぞれに世話係が用意され、外出時には従者が付く。俺についてくれた従者・フラースは若いのにかなり有能な男らしく、俺が貴族を相手に気疲れしているのを察してか、スケジュールを調整して休みの日を増やしてくれたし、貴族御用達のきれいなお姉さんがいる館へ案内してくれて、それはそれは英気を養うことができた。


そんな具合に、帝都での充実した性活――、もとい生活を送っているとソフィアから声がかかった。


「教会のみんなにお土産を渡したいのですが、私だけだといけないので、一緒に行ってくれませんか?」


国教の戒律で、修道士たちは私物を持つことを禁じられているのだが、お布施の形で物品を受け取ることはできるらしく、今回のようによその街へ遠征した際には買い物に付き合わされることがある。


ソフィアの付き人である修道士の女の子を見てみる。こんなに大っぴらにショッピングの話をしていいのかと思ったが、大丈夫そうだ。ソフィアとまるで同じ、期待したような表情をしている。


「それでは、ご案内はこのフラースめにお任せください。」


従者を含めて4人、街へと繰り出す。ソフィアとその従者の女の子は、質素な平服に着替えていた。普段から、ほとんど教会の敷地から出ていないソフィアたちは終始楽しそうにしている。


化粧や装飾品の類は戒律に触れるらしい。しかし香水、石鹸、髪に艶を出す油などは問題ないらしく、その手の店を回った。購入するときには俺が代行する必要があるのであらかじめ渡されている財布から金を出して買う。あくまで「俺がプレゼントのために買ってますよ」の顔を作ったほうがいいのかとも思ったが、店の人たちも心得ているらしくスムーズに買い物ができた。


買い物をしながら、怪我人や病人がいないかをソフィアは店の人たちに聞いていた。市中の傷病人の手当を行うことが、いちおうの名目となっているかららしい。歯の痛みがあるおじいさんを治癒して、ソフィアは感謝されていた。


そうやっていくつかの店を、ソフィアたちに付いて回っているところ。ソフィアと従者が石鹸を吟味しているなか、何の気なしに露店の店先に並ぶ髪飾りを眺めていると、隣に、数日前の夜に楽しく遊んだお姉さんがいることに気付き、相手もこちらに気付いた。


こういうときは、会釈に留めるのが礼儀だ。向こうも所詮はお仕事。そこをわきまえないのは紳士ではない。


「あれ? お兄さんどうしたの? こんなところで。」


ん? 向こうから話しかけてきたぞ。挨拶を返す。


「あ、先日はどうも。」


「あはは! 『先日はどうも』だって。なぁに? かしこまっちゃって。」


急に気恥ずかしくなる。


「誰かに贈り物? 良い人はいないっていってなかったっけ?」


「ええ。次に会ったときにプレゼント……、手土産にでも持っていこうと思って。」


「ええ、ウソ? ホントに? じゃあ……、私向こうの首飾りのほうがいい。」


あからさまに高価そうな飾りを指差す。


「持ち合わせ足りないかも……、剣売ろうかな。」


「あっはっは、冗談。また遊びに来てもらえたらいいからさ。」


帝都のお姉さん方は美人すぎて困る。ここのところ毎日のように通っていたので少しは休もうかと思っていたが、実際に会ってしまうと撤回しようという気になってきた。


と、お姉さんの目が俺の背後に向けられているのに気付いた。


「お知り合い?」


振り返ると、ソフィアがこちらに向かって歩いてきていた。何やら診られている。目に魔力が集中しているのがわかった。


「その方は?」


笑顔だけど、笑っていない。


「えっと、知り合い。」


ソフィアはお姉さんに会釈する。


「こちらへ来てまだ何日も経っていないのに、ずいぶん仲良くなったんですね、トサカ。……ではこちらを。私たちは外でほかの品を見ていますから、どうぞお気になさらず。」


商品の石鹸を俺に渡し、再び会釈するとソフィアは立ち去った。


お姉さんは「あらあら」といった風な笑みを浮かべている。ああ、とりあえずこっちまで変な雰囲気にならずによかった。


急いで支払いを済ませて店の表に出てもソフィアの様子は変わらず、無視されるようなことはなかったが視線はどこか冷たいままで、邸宅までの帰路でもそれは変わらなかった。ただ話してただけじゃないか。やましいことは何も……、いや、ないわけではないけど。


ソフィアに付いている従者は気付いていたかわからないが、フラースは敏感に異変を察知していたようで、邸宅へ到着したあとに、何かあったか心配され、事のあらましを伝えた。


「回復士の方は、個々人が持つ魔力の色合いを見分けると聞きます。」


「色合い?」


「実際に色がついて見えるかはともかく、これは誰々の魔力、ということの見分けがつくようです。」


「ふーん。」


「そして、その……。例えば夫婦や恋人ですと互いの魔力が混ざり合うといいます。直接的にいうと、行為のあとに互いの持つ魔力が混ざり合うとか。数日ほどでその痕跡はわからなくなるそうですが。」


あ、そういうことか。なるほど。なるほどですね。


毎夜毎夜の性活が看破されてしまったということか。途中まで楽しく買い物をしていたのに、急にゴミを見るような目つきに変わったのはそのせいか。


国教会は、聖職者とされる者へ婚前交渉を禁じている。ソフィアは、"勇者"についてもそれと同じ基準で真面目に振る舞うすることを期待している。というより押し付けてくる。


もしかしてヤキモチ的なやつかなと最初は思った。いやその可能性がゼロだと否定するつもりは断じてないが、どちらかというと戒律を重んじる彼女の真面目さがそうさせているように感じる。


文字通り頭を抱えていると、フラースが助け舟を出してくれた。


「ノヴォルさま、どうでしょう。街でお会いしたご婦人は体調を崩していて、ノヴォルさまがそれをお助けになったということにしては。」


「ん、というと?」


「先日のエルミロイ要塞でのご戦勝について報告書を拝見いたしました。何でも、ミレツバウムさまの研究の成果として、戦場における魔力供給の実践に成功されたとか。」


「うん、そんなこともあったけど。」


「それを、ご婦人への施しとして応用されたということにするのです。」


「風邪を引いている彼女に魔力供給をして、体力を持たせてあげた……、と?」


「そういうことです。医術の心得がなくても、十分な量の魔力を得れば病魔を退けることもあると聞きます。昔話にもそういった類の話はございますし。」


いいアイデア、それだ! しかしそんなにうまくいくのか? 俺、嘘つくの苦手なんだけど、と考えていると有能なフラースは任せてくださいとばかりに頼もしげな笑顔で俺に告げた。


「私から、それとなくソフィアさまへは伝えておきましょう。」


翌日はおとなしく屋敷の中で過ごした。魔術に関する本でも読んで少しは勉強しておこうと思ったが頭には全然入ってこなかった。そうして夕食を済ませたあと、食堂を出る際にソフィアから声をかけられた。


「すみません私……、考え違いをしていました。大病を患っていた方を見捨てておけず、魔力を分け与えたそうですね。」


お、フラースがうまいこと伝えてくれたらしい。


「いや、まあでも慣れないことはするもんじゃないね。……だいぶ体力を使ってしまったから。」


「私には真似できないことです。医術や治癒魔法の心得がない方が、魔力量だけで解決するには、相応の魔力消費があったと思います。」


「ははは……。」


「回復士として、悔しい思いをしている、なんていうことはないので。救われる人は多ければ多いほどいいことです。……毎晩姿が見えなくなっていたので、私てっきり。それを知らずにあんな……。ごめんなさい。」


ソフィアの"誤解"が無事に解け、何だったら少し尊敬の念すら向けられてしまっているようだ。フラース、ありがとう。


しかしあまり話を盛りすぎるとあとでボロが出るし、何より心が痛むので今度から、そこそこにしてもらうと助かる。どうしよう、しばらく夜出歩くのはやめておこうか。くそ、これも"勇者"として転生してしまった運命か……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ