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異世界魔王が強すぎて  作者: new1ro
勇者編
14/31

おまけ - この世界

メルトグラニア帝国・ユグラシフェルト辺境領。俺が勇者として召喚された土地の名前だ。


この世界全体の地図を俺は見たことがなく、知っているのはこの大陸のことだけ。大陸を南北に分断するオルストロ山脈の北側が魔族の土地で、南側がヒューム (人間) の土地なのだという。


メルトグラニア帝国はヒュームを中心とした複数の王国から成り、一部にはエルフやドワーフなどの国家も含まれる。その帝国の広大な国土の北端、オルストロ山脈を望む地域に100年ほど前に築かれたのがユグラシフェルト辺境領だ。山脈で採掘される金属や、山脈の向こうのヒュームの国との交易など、物流の要衝として栄えている。領主の在する城郭都市の規模は帝国でも指折りらしい。


そして帝国直轄のこの領地は、魔族側の脅威からヒューム世界を守る役割も担っていた。城郭都市は堅牢な城壁で固められており、山脈近くには城壁を持つ軍事拠点が点在している。エルミロイ要塞はその1つで、今回の防衛戦ではその役割を見事に果たしたことになる。


「魔族」の定義を、俺はいまいち厳密には理解できておらず、かなり大雑把にヒューム以外の敵対する他種族すべて、という印象を持っている。そしてこの魔族を統べる王を「魔王」といい、250年ほど前から今日に至るまでは、この「魔王」を名乗る者が乱立したいわゆる戦国時代のような時世なのだという。現在はおそらくその末期で、ここ数十年ほどは5つ程度の勢力にまとまり、拮抗していると聞く。


これまでの数百年の間、魔族の襲撃は幾度となくあった。しかしそれは軍隊としての戦略的侵攻ではなく、魔族側の武力衝突の余波として、敗残兵がヒューム側へ流れ込んでくる、といった程度の小競り合いに過ぎなかった。しかし魔族側の勢力が統一されていくにつれ、魔族の巨大な軍勢が、いつ山脈を越えてヒューム側の領域へ進行してきてもおかしくはないという憂慮を帝国側は抱くことになり、ヒューム側の戦術魔法の研究は進んだ。勇者召喚の儀式もそのうちの1つだったらしい。異世界から召喚された人間は強い魔力を持つことが多く、魔族や魔王へ対抗するための戦力・勇者としての役割を背負わされる。


勇者召喚の仕組みもいくつかあるらしい。俺の場合、「転生」か「転移」かでいうと前者と理解している。姿形は前世のものとは全然異なっていて、この世界で生きていたロジェ=トルメという名前の16歳の男を依り代に召喚された。生まれてから16歳までの記憶は断片的だが、思い出そうとすれば記憶を遡ることはできる。


ロジェ=トルメは、儀式が執り行われる前までは"勇者"ではなく帝国臣民の1人としてユグラシフェルトの城郭都市内で生まれ育ち、ここ3年くらいは兵士としてかなり真面目に訓練を受けていた。それは俺が召喚された時点で身体は仕上がっていたことや、剣や槍、体術に関する基礎的なスキルがしっかり身につけていたことが証明していて、何よりロジェの記憶を思い出すことで俺にはわかる。


そんな真面目な兵士・ロジェはある日、上官に呼び出され勇者召喚の器としての資質があることを告げられ、俺を転生・召喚する儀式に臨むことを受諾した。それまでの人格が無くなってしまうことを彼は理解していたらしい。それでも身を捧げることを決めたのは、「国家のため」とか「ヒュームのため」といった正義感も一因ではあったが「これで家族を楽に生活させてあげられる」という想いが一番強いようだった。記憶の中で、この感情は俺の頭の中に比較的強く残っている。


しかし悲しいかなこのロジェの――、この世界での俺の家族は、全員死んでしまった。


ロジェの父親はユグラシフェルトの城郭都市の建設に携わる石工だったようだが、勇者召喚の儀式の最中、魔族の襲撃に遭って死亡。兄弟も、その前に全員死んでいる。兄の1人はドラゴンに食い殺され、もう1人は兵として隣国との戦争で死亡。妹もいたが、嫁ぎ先で出産時に命を落としたのだと聞いた。家族や親族は、もとはユグラシフェルトから見てずっと東の、ドワーフとヒュームの連合国内の漁村にいたらしいが、父母が幼少のころに飢饉と疫病の流行が重なって身寄りとなる親族はおおかた死んでしまったそうだ。


そしてこの話を俺に聞かせてくれたロジェの母親も、もうこの世にはいない。父親と同様、魔族の襲撃で重症を負っていたからだ。俺が城郭に戻ってから2日間だけ彼女と会話をすることができたものの、最期を看取ることもなくこの世を去った。この世界に写真はないので、顔のわかる血縁者はこのロジェの母親だけだ。


あとで聞いたのだが、"勇者"を召喚する儀式において、親族が同席する必要は本来ないそうだ。しかし儀式を行う関係者のそれなりの立場の人物が、なぜだかこの世界での父母と顔見知りだったらしく、身の上の不幸を憐れみ儀式に招待したと聞いた。その結果、命を落とすことになってしまう運の無さが、どうしても前世での俺の姿と重なり同情してしまう。


端的にいって、俺は見も知らない異世界でいきなり天涯孤独になってしまったのだが、無理やりポジティブに考えると、そのおかげで勇者としての訓練に専念できた、といえるのかもしれない。いや正直、前世でここまでストイックに何かに打ち込んだことはなかった。朝から晩まで槍術や剣術、魔術を学び、時折城郭の外に出て村々を襲う獣や魔族の討伐などに駆り出されている。何度か死ぬ思いをしたが、この世界では治癒や回復といった類の魔術が発達しているおかげで死なずに済んだ。


城郭の中での暮らしはというと、まず衣食住の心配はなく、身の回りの世話をしてくれるメイド的な人を2名つけてもらっていて、本来王族や貴族を相手にしているような先生が用意され……、という破格な環境だ。しかし逆にひどいプレッシャーを感じる。「ここまでしてやっているんだから、お前わかっているよな?」感。失敗できない感覚。官僚や貴族連中は基本的に終始にこにこしているが、たまに遠征の結果が芳しくないときに笑顔じゃなくなるときがあるので怖い。


この世界に来て多少は魔力を扱えるようになってから、力が強くなったり、走るのが速くなったりした。それと同じように、視力や聴覚も集中しさえすれば強化できる。だから城の中で聴覚に集中していると、貴族たちの会話が耳に入ることがある。さっきまで楽しげに会話をしていたのに本人がいなくなった途端、「あの家はもう駄目だ」とかいう陰口を耳にしてしまうことがある。精神衛生上よくないので、あまり人の噂話に聞き耳を立てないように俺は気をつけている。


ちなみに俺がなぜ城内で聞き耳を立ててしまっているのかというと、俺が暮らしている城の中では前世でいうオフィスラブを繰り広げている人たちが結構いて、その不届き者を見つけるためだったりする。ちなみに俺の身の回りの世話をしてくれる2人の若いメイドさんはともに有能で、清楚なすまし顔で淡々と仕事をこなしているのだが、片方はなかなかお盛んであるという事実を俺は突き止めている。いやまったくけしからん。国教会の戒律では、ほかのあらゆる宗教と同様に淫らな行為は禁じられている。それを、こともあろうに、最近ではなんと3人の男と同時に……。


などと。俺がそんなことのために聞き耳を立てているのだということはもちろん冗談だ。


実際のところ、俺がときたま城内で聞き耳を立てざるを得ないのは、城内で暗殺を企てているような不届き者がいないか警戒しているからである。実際に1度だけ、毒殺未遂が暴かれたのを見て、俺も注意しなければなと思ったのがきっかけだった。そうだった、思い出した。危ない危ない。


ふう、まったく。ちょっと気をゆるめるとすぐこれだ。ロジェ=トルメさんの身体は16歳なので、性欲が完全に十代のそれなのだ。やれやれ、困ったものである。俺が召喚されるまでは鋼の精神力により「我慢する」という方法だけでどうにかしていたらしいが、とても信じられない。兵隊として訓練を受け体力があるからなのか、前世での同じくらいの年齢のころと比べてもエネルギーが有り余っているように思える。


……何でこんなこと考えているんだっけ?


ああそうか。先日のエルミロイ要塞防衛戦から凱旋し、俺は1日は休息日を与えられた。しかし通常通り今日からラキリとの訓練が再開されるんだった。目は覚めたものの、起き上がるのが嫌でベッドの中でゴロゴロしていた。


メイドさんがしてくれている支度もそろそろ終わるので、いよいよ本格的に起きなければならない。


「あーあ、ずっと休みだったらいいのに。」


あ、まずい。声に出してしまった。


慌ててメイドさんの方に目を向けると、一瞬だけ手が止まっていたようにも見えたものの、何事もなかったかのようにテキパキと支度を続けていてくれた。まったく、俺とは違いみんな優秀だ。

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