2話 マリー・エトラント その2
「もう一度、聞くぜ? 俺の慰み者になる気はないんだな?」
「……ないわよっ! いくらなんでもそんなの……!」
「ああ、無駄話はどうでもいいわ。そんなら、お前は追放だ。荷物まとめて出て行きな」
流石に何かの冗談よね……? いくらなんでもそんな横暴な……。それに、家事とか料理はちゃんとしていたんだし、私をそんなに簡単に切れるはずは……なんて淡い期待をしていたけど。
「さっさと消えろ。このゴクツブシが」
「そ、そんな……!」
リビングウェイのリーダー、ギアスによって私は驚く程あっさりとクビになってしまった。その後もなんとか彼の機嫌を取ろうとしたけれど、慰み者にならなければ話を進めないらしくて……私の選択肢は脱退以外になかった。
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「これって、現実……?」
私は冒険者が集まる酒場、「ドットハーツ」で放心状態になっていた。この酒場は宿屋も兼ねているので、しばらくの間は泊まることが出来る。現に今までの賃金があるので、一室を借りている状態なんだけど……その代金が払えなくなる日も、そう遠くない。
どうしたらいいんだろう……Aランク冒険者チームを外された出来損ない、そういう噂はすぐに広まるだろうし。それに、低級ヒーラーの私なんかを雇ってくれるチームがあるのかしら? なんだか、どんどん悪い方向へと思考が向かっている。
「そういえば、私の能力の検証って行ってないんだっけ……」
「検証」というのは冒険者の中では必須事項に該当する項目だ。その人物の適正を見る為に、隠された能力がないかを判断する作業。私は低級の回復魔法しか使えなかったから、検証の作業を飛ばされたんだっけ……。
今にして考えると失礼しちゃう……私にも、唯一無二の能力があるかもしれないのに。そうでもなくても、ギアスの一方的な追放はあり得ない気がするけれど。私は水の入ったグラスに目をやった。なんだろう、この感覚は……。
「ヒーリング」
本当に無意識だった。何かを思ったわけじゃなく、気付いた時にはグラスに向けてヒーリングの魔法を唱えていたのだ。そんなことをしても、本来なら全然意味はないんだけど。
「……あれ?」
ヒーリングは生物に効力を発揮する回復魔法……グラスを直したりの効果はない。そもそも、壊れているわけじゃないし。でも……ヒーリングの光はグラスの中でしばらくの間光り続けていた。つまりは、グラスの中で留まっている状態……その状態は1分ほど持続してから消え去った。
なに今の? グラスだから上から抜けて行ったような気がしたけれど……今のが封をした物だったら、どうなっていたんだろう? そんな予感が私の中を駆け巡る。そして、その状態を見ていた人物が一人。
「おい……なんだ、今のは?」
ドスの効いた声が私の耳に届いて来た。私はビックリしてその人物に視線を合わせる。そこに居たのは……間違いない、SSランク冒険者のジーク・スタンレーだった。