ひらひらと蝶のよう
ヘンリーがアンナと出会ってから、街で画家にあったときの話です。
本編には……ないシーンです。
「ヘンリー、明日、城にまいる。
ついてくるように」
父に言われ、城に行くことになった。
トワイス国の次期国王となる殿下のご学友にと選ばれた僕と、未来の妃候補として、公爵家イリアと侯爵家アンナリーゼという女の子が選ばれ、紹介された。
城で初めて会ったのは、5歳ごろだっただろうか。
僕たちは、いつもアンナに振り回されていた。
アンナは、かけっこも1番、かくれんぼも1番、お魚釣りも1番であった。
勉強は苦手のようで、家庭教師に出された課題に手こずってるように見えた。
とにかく元気で、明るくよく笑う子であった。
そんなアンナが、僕は大好きである。
なので、城で集まる日以外にも、一緒に勉強をしたり、武術を習ったり、城下町で、庶民の子たちと混ざって遊んだりと、とても貴族の令嬢とは思えないようなことをしているアンナと長い時間を共にすごしたのだ。
あまりにもアンナといつも遊んでいたため、イリアによく2人で叱られた。
それでも、アンナはケロっとしていた。
「イリアに怒られちゃったね……」
とか、いって舌を出して、失敗失敗と言っている。
イリアに叱られて僕は、こんなに反省しているのにだ……
街で一緒に遊んでいるおかげでわかったが、アンナの興味はいろいろなモノにあるようだ。
いつも後ろから見ているからわかる。
今日の興味を惹かれたのは、絵のようだ。
「おにぃーさん、おにぃーさん、これ、どうなってるの?」
その絵は、トリックアートと呼ばれるもので、最近、巷で話題になっていると従者たちが言っていた。
壁に描かれた絵で、まるでそこに階段があるかのようだった。
「それはね、秘密!」
「えぇー秘密なの?間違ってこの階段登っちゃいそうだよ!
なんでこんなところに描いてるの?」
「なんでかな?
ここに描きたかったから、描いてるかな?」
「私も描きたい!!」
そう言ったアンナに、お兄さんは絵筆を渡している。
お兄さんは、アンナの手を上から握って絵筆を動かしていた。
真剣に筆を動かしていくアンナ。
「わー!すごいすごい!
吸い込まれていくみたい!!」
アンナがとびきり喜ぶので、お兄さんの手にも力が入る。
「お嬢さん、名前は?」
「アンナ!」
「じゃあ、あ、ん、なっと……」
そう、大胆にも壁にアンナと文字を書き、それを上手に隠して絵にしてしまう。
その絵は、蝶の絵であった。
「すごいね?おにぃーさん」
お兄さんもアンナの喜びように嬉しそうである。
「じゃあ、アンナ。
これは、アンナと書いた絵だけど……
僕たちが描いたことは3人の秘密だよ?」
そう言って、絵を完成させたお兄さんはどこかへ消えていった。
ちなみに、このお兄さん、巷で話題の覆面絵師の5ドルだったのは後のお話。
「アンナ!」
「ハリー!遅いよ?」
そう、僕たちが街に降りるときに待ち合わせ場所は、あの絵師とアンナが描いた絵の前になった。
その絵も月日が経ちだいぶ薄くなってしまった。
僕を待っている間、その絵を眺めていたらしい。
「私、気付かなかなったんだけどね?
ここに…お転婆なアンナ、僕のミューズって書いてある……」
「えっ?」
「ほら、ここ……
これ、あのお兄さんの字だよね?」
描かれている絵がはがれてきて、下に書いてあった文字が出てきたようだ。
こんな文字いつ書いたんだろう?
「そういえば、アンナに似た雰囲気の絵が、この前、ものすごい高値で落札されたって
聞いたよ?」
「それって…そういうこと?」
壁の文字のことを指しているのだろう。
「確か、描いたのって5ドルっていう画家さんだったね。
でも、聞いた話、若くして、もう亡くなってるんだって。
生涯描いた絵が30枚だって聞いたよ?
そのうち女の子の成長を描いた絵があったんだって。
羽化っていうシリーズものだったとかで、
コレクターがいるらしい。
幻の7枚目って言ってたかな?
この前、落札されたのは……
だから、作品数も少ないし、その手法が素晴らしいから高値なんだって」
「へぇー
5ドルか……
そういえば、あのお兄さん、ゴドリーって言ってたかな?
お兄さんにデビュタントの前に私も肖像画描いてもらったよ!
見にくる?」
「見に行ってもいいの?」
「うん。いいよー
じゃーお家に帰ろ!」
そう言って、アンナは僕の手を握って屋敷に向かって歩きはじめる。
幻の8枚目の絵を見に。
アンナは、捕まえたと思えば、ひらひらと飛んでいってしまう5ドルの描いた壁の蝶のようだと思った。
この手を離さないと心の中で誓うのであった。
ゴドリーこと5ドルは、
アンナリーゼをモデルに10枚の絵を描いたらしい。
15年後、
大人になったアンナと僕が寄り添った5ドルの想像画と手紙が、屋敷に届いたのだった。
10枚目の絵は、まだ、見つかっていないらしい……




