アンナは、馴染みすぎです
「ビックリしちゃった。
セバスったら、大通りから、路地に連れて行かれるんだもん。
一緒にきてくれる従者とかいないの?」
「いない……一人で来たんだ」
「そう、じゃあ、私についてきて!」
「それより、アンナリーゼ様は、どこか行かれる予定ではないのですか?」
「あっ!そうだった。
でも、セバスを置いてはいけないわ。
あと、何回も言うようだけど、アンナって呼んでね?」
先ほどから何度もアンナと呼んでくれと言っていたのに、混乱していて本名を呼んでしまっていた。
市井では、貴族は、普通偽名を名乗ったりするものだ。
なので、先ほどからアンナと呼んでと言われているのにルール違反をしているのは僕のほうだった。
「かしこまりました。」
「その話し言葉もダメ。もっと砕けていいのよ?
街中なんだから。
それに、服装がね……
カツアゲしてくださいとばかりに貴族服」
指摘されて自分の恰好を見る。
アンナの服装を見る。
なるほどなと思った。
アンナに行くわよと先をいそがされる。
そこは服屋だった。
「好きなの選んで!寮に帰るまで無事じゃないとダメだからね」
「あの……選んでって言われましても……」
たくさんある服の中から選ぶのだが、なかなかどんなものがいいのかわからない。
いつも侍女が用意してくれるものを着るだけなのだ。
「アンナちゃん!また、新しい彼氏かい?
この前の、金髪にあんちゃんはどうしたの?」
「あぁ、ハリーのことね。私モテるから、いいでしょ?
ハリーなら、そのうち迎えにくると思うわ。
おばさん、頼んであったスカートと服一式ってできてる?」
「あぁ、もちろん、持っていくかい?」
「うん。お願いするわ!」
アンナは振り返って、まだ、服を選んでない僕を見て驚いている。
「セバス?服、どれにする?」
「うーん。緑とかがいいのかな?僕には、わからないよ……」
降参というと、じゃあとアンナは服を選ぶ。
「今日着ている服の一部を庶民の中の生活に合うものに変えるだけで、
絡まれなくなるよ?
今の服だとお金ありますから絡んでくださいって言ってるようなことなのよ。
それを少しでも防ぐ方法に、庶民の服屋をきるの。
これなんてどう?似合ってると思うけど……」
確かに色合いが、好みで、着やすいベストだった。
そして、もっともなことをアンナに言われる。
「1着変えるだけで、もう、目はつけられないはずよ!
おばさん、これも買うわ!着ていくけど、全部でいくら?」
そう言ってお金を払いに行ってしまった。
そのとき、店の扉が開く。
目の前の人物に驚いた。
見事に庶民の服を着こなしたトワイス国公爵家のヘンリー様があらわれたのだ。
「あっ!いた!俺、だいぶ待ったんだけど……」
「ハリー、ごめんね……ちょーっと、人を助けてたの」
「仕方ないな……で、先に取りにきたってことか?」
「あはは……せ……セバス!こっちきて」
選んでもらったばかりの緑のベストを着て、ヘンリーの前に立つ。
「また、なんかやったんだろ?」
僕をみて、ヘンリーに開口1番にそんなふうに言われている。
そんなことないとアンナリーゼは唇をとんがらせている。
「あらあら、彼氏がお迎えに来たのね。
これ、服だよ。締めて2500オル」
じゃあ、これでとお金を払っている。
「アンナリーゼ様、自分の分は……」
「あぁ、いいの。私もお使いだから、気にしないで。
気にする金額でもないし、それより、アンナだよ?」
「あ…すみません。アンナ。」
それでよろしいと満面の笑みだ。
「あと、他に行くところってあるの?
あるんだったら、付き合うよ。
この後は、ハリーとご飯食べに行くだけだから」
ヘンリー様は、アンナリーゼ様の好き勝手に何も言わないけど……
さすがに遠慮した方がいいだろう。
「ありますが、1人で大丈夫です」
「大丈夫そうには見えないけど……」
「どこに行くの?」
「……本屋に行きたいと思ってます。
じゃあ、私たちのランチもその辺だから、やっぱり一緒にいくよ」
チラッとヘンリーを見たが、嫌な顔はしていないので、いいのかな?と思ってお願いする。
「では、本屋まで……」
「ランチと帰りの馬車も一緒ね。
慣れない1人歩きは危ないわ。
護衛になりそうなウィルとかと一緒に次からは行動した方がいいよ。
ウィルなら、快く受けてくれるだろうし」
「いえ、ウィル様に迷惑はかけられませんので……」
「迷惑なんて……危ない目に合わないですむ方法を考えなさい!」
「……それ、アンナがいうかね……」
ヘンリーに言われているが、確かに女性の1人歩きの方が危ない。
「だから、今日は、ハリーと一緒にいるじゃない!!」
そんなふうに返している。
「じゃあ、行こうか?時間がもったいない」
アンナの話は無視して、ヘンリーは歩いていく。
服屋で買ったものをヘンリーに押しつけて、自分は自由に歩き回るアンナリーゼ。
「セバスはどんな本、読むの?」
本屋に来てから、買う本を選んでいると、ひょこっと覗いている。
「お兄様が好きそうな本……
私は、頭が痛くなるからよまないジャンルね」
「そうなのですか?」
「そう。今度、お兄様、紹介しようか?話、合いそうだし」
「いや、でも、他国だし……」
「他国っていうけど、偏見だと思う。
他国でも、隣国だし、同じ学園の生徒だし、頭があるなら、わかるでしょ?
仲良くしておかないといけないって。
国がどうとかじゃなく、セバスがお兄様に会いたいかどうかだよ?
私は、セバスにお兄様を合わせたいけどな?」
そんなふうに言われたのは、初めてだった。
何かと比較して、隣国を貶める話しかしてこなった。
凝り固まった僕の頭をドンキで殴られたほどの衝撃が走る。
「是非、会わせて下さい」
その回答にニッコリ笑うアンナリーゼ。
その姿を優しく見守るヘンリー。
2人が手を繋いでいるのは、見て見ぬ振りをしておこうと思った。
ちなみにヘンリーがアンナと手を繋ぐのは、どこかへアンナが飛んで行ってしまうから……だそうだ。
たしかに、少し一緒にいただけだけど、アンナはふらふらとしていたな……と今日を振り返って思ったのである。