姫さんとヘンリー様と俺
起きたら、お茶会の準備で慌ただしい。
前を通ったメイドに姫さんはもう起きたか確認すると、もう学都へ向かわれたと返事が返ってきた。
確か、ここは有名な学都がある領地だ。
誰かと行ったのだろうか……?
そんなことを思っていると、玄関のドアが開いた。
姫さんは、ヘンリー様と手を握って帰ってきたのだ。
ただいまと……
なんか、もやもやする?
頭をふってそのもやもやを追い出そうとした。
「姫さん、おかえり。ヘンリー様もいらしていたんですね。
今日のお茶会の参加者ですか?」
「あぁーウィル殿か……そうだ。今日は、アンナに招待してもらったんだ。
君がこのお茶会のメインかな?」
「メイン?よく言うよ。姫さんの手握っておいて……」
俺は、チクリと嫌味を言ってしまう。
二人とも手を放すと少しほっとした。
「姫さん、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫!」
俺は、姫さんに近づいて頭をなでてた。
姫さんは、俺の方を不思議そうに見上げてくる。
「サシャ様とエリザベス様が、ちょっと前にティナとニコライを連れてきたんだ。
そっち、手伝ってあげて。エリザベス様が、気負っちゃって……大変だから」
「うん。ありがとう!
じゃあ、ちょっと、行ってくる!
ハリーもウィルも待ってて!すぐ準備するから!」
残ったヘンリー様と俺。
アンナがエリザベスの手伝いにといってしまったあとは、二人で玄関に佇んでいた。
何か話さないと……
なんで、俺が焦っているのか、わからないけど……
「ヘンリー様ってさ、根っこだよな……」
「根っこ?」
ヘンリーが不思議そうにこちらを見てくる。
「あぁ、アンナリーゼという木の根っこ。
姫さんをちゃんと立たせている縁の下の力持ち的な?」
「そういうことか……
そんなことは、ない……」
「大樹になるかもしれない、若木のアンナリーゼの根源がヘンリー様ってとこだ」
「バカバカしい……
アンナは、この国の正妃候補なんだ」
それは、初めて聞いた話だ。
「姫さんって、そんな大層な看板背負ってんのか?
どうみても王子様から逃げて回っているよな?」
「あぁ、確かに……
何があるのかわからないが、微妙にアンナは殿下からさりげなく距離を
置いているようだね……
困ったことに……」
「あぁ、話が、それたな。
大樹になるって……どうしてそう思うんだ?」
「なんとなく、カン?
根っこはヘンリー様、幹はもちろん姫さん、俺らが枝葉ってとこかなって
時代の変換機ってあるじゃん?
まさに、その人物じゃないかなって思ってる。
だから、姫さんが望めば、俺は道なき道でも切り開くつもりだし、
地獄の果てでもどこでもついて行くつもり。
公爵様にはわからないだろうけど、下級貴族にはむりなところでも
近衛で爵位をあげ、いつでも対応できるようにするよ。
このアメジストにかけてね……」
アメジストのピアスを撫でる。
ヘンリー様は、それが姫さんからの下賜品であるものだとわかったようだ。
目がほの暗い色をしている。
「なぁ、ウィル殿は、アンナが毒を飲んでいたことは知っているか?」
「あぁ、なんとなく知ってる。
話してて、姫さんの毒に対する知識と解毒剤の知識は、ずば抜けているからな。
自分の体で試していることもなんとなくだけど、分かったかな?」
「そんな会話だけでもわかったのか?
俺は、全く知らなかった……
今日、目の前で何事もなく毒を飲んで、解毒剤をのんでケロッとしている
アンナをみてかなり驚いたくらいだ……」
「まぁな……剣も武術も暗器までも使えるって、普通の令嬢じゃないわな……」
俺の知っている姫さんと、ヘンリー知っている姫さんがどうも違うらしい。
かなり驚いている。
「あ……暗器?
そんなものまで、使えるのか??
なんなんだ……ホントに」
頭を抱えているヘンリーにも、知らないこともあるようだ。
もしかしたら、姫さんが隠している話もヘンリーはまだ知らないのではないかと思う。
俺もまだまだ、姫さんとの距離は遠いのかと、少し寂しく思う。
まぁ、これからだろう。
ローズディアへ嫁ぐのであれば、会う機会も増えるだろう。
今は、とにかく、お茶会へ向かうべきか……
「ヘンリー様、そろそろサロンへ移動しましょうか?」
「あぁ、そうだな。
姫様が怒って扉の前で仁王立ちされたら……かなわないからな……」
そんなことされたことあるのか……と思うと笑えてくる。
しかし、俺の知らない姫さんも相当、じゃじゃ馬でお転婆らしい。
ヘンリー様が面倒見てきたのか……
これは、完全に姫さんが好きなんだな……
そう思った瞬間、もやっとする。
でも、気づかないふりをした。
気づいてももう遅いこの気持ちは、見なかったことにするのがいいんだ……
姫さんの嫁ぎ先は、たぶんアンバー公爵家。
ヘンリー様のことも想っているようだが、姫さんなら、必ず、アンバーを選ぶだろう。
子爵家のしかも後継ぎでもない俺に嫁取りレースに入る余地はない。
それよりかは、側で、アンナを、姫さんを守っていきたい。