姫さんとアメジストの下賜品
2泊3日の行程で侍女のニナという女の実家へ向かった。
うちの姫さんは、何を考えているのか……
俺にはさっぱりだ。
一時期噂になっていたワイズ伯爵の没落の話も正直驚かされたが、その補填にと出した姫さんの出資額にはさらに驚かされる。
伯爵家の令嬢が出せるレベルの額ではないのだから……
これは、セバスもナタリーも聞いたとき青くなっていた。
帰りには、姫さんのおじさんとの対戦を組んでくれたりしてくれたあたり、このお供にはかなりのメリットがあったように思う。
俺は、姫さんの祖父の領地で二人になれる時間を探っていた。
いつもいつも王子と宰相の息子がくっついているので、なかなか姫さんとじっくり話す時間がなかった。
「俺は、姫さんにとって、信用に足る人間か?」
「私、ウィルのこと、信用しているわ。
じゃなかったら、護衛なんて頼まないもの」
「一人でも本当は、行くつもりだったんだろ?」
「そうね。そのつもりだった。
でも、今日は、ウィルたちがいてくれて、心強かったわ。
一人で来なくて、よかった」
姫さんの考えそうなことは、大体猪突猛進、思い立ったら吉日、善は急げ!
なんでも早いのだ。
本来なら、俺を護衛に待っているなんてことは、ありえないのだ。
それに俺は、なんとなく姫さんに隠し事があるんじゃないかと思っていた。
特に、宰相の息子に対して……
「これを聞きたかったわけじゃないんでしょ?」
さすがに鋭いな……
「……あぁ……
姫さんは、その小さな体で一体何を抱えているんだ?」
「!!!!!!!」
これで、何か隠していることが確定した。
思い当たることは、あるにはある。
例えば、トワイス国の侯爵令嬢である姫さんが、ローズディアの友人、爵位を継承できないが、特技のある人間を集めていることだ。
ローズディアへ輿入れでも考えているのだろうか?
ならば、卒業式のこともある。
アンバー公爵家に関わることだろうか……?
「ウィルは、どう思っているの?」
「俺は、姫さんの役に立てることがあるなら、立ちたいと思っている。
トワイスの王子や宰相の息子とは違う。
恋慕ではなく、純粋にアンナリーゼただ一人の人間に焦がれているんだ」
「ありがとう……そんな風に言ってもらえると、嬉しいわ。
でも、今は言えることが何もないの。
友人として、仲良くしてほしい。
私、近衛になったウィルも見てみたいの!!」
あんな顔をした姫さんは、頑なだ。
絶対今日は、口を割らないだろう……
もしかしたら、永遠に口を割らないことだってあり得る。
「いつか、抱えているもの、教えてくれるか?」
「うーん。そうね、いつか言うわ!
私たちが、もっと大人になったときに。
でも、そのときは、もうウィルは、私の側にいてくれないかもしれない」
「いつだって、俺の名前を呼んでくれたら飛んでいくさ。
姫さんが必要だといえば、いつだってな……」
それだけ言えば、姫さんも満足したような顔をしていた。
これは、アンバー公爵家への輿入れは、本当になりそうだと思う。
それまで、俺は何ができるだろうか……?
最終日には、領地でのお茶会を企画していたため、俺たちも一緒に自領へ戻ってきた。
そこで、当のニナに会ったのは、正直驚いたが……
それよりもだ。
休息を兼ねて街へ散策へ行かせた姫さんが、アメジストの宝飾品をくれる事態になった方が驚きだ。
今回のお供へのお礼だと言ってくれたが、なかなか粋である。
俺にはピアス、セバスにはネックレス、ナタリーには指輪を渡していた。
アメジストは、姫さんの瞳の色と同じだ。
「いい、お礼ですね」
「ほんとね。ぴったりだわ!」
「だな。誠実だってよ。姫さんにはそうありたいな!」
「「はい」」
「あの……盛り上がっているところ申し訳ないんだけど……
深い意味はないよ?」
「あぁ、かまわないよ。それで」
そう。姫さんには、ただのお礼でかまわない。
姫さんから下賜されたアメジストの保持者として、『愛の守護者』として、姫さんを守っていけたらと思う。
ニナの実家から領地のお茶会までです。