お風呂
本編119話と120話のあたりの話になります。
私は、アンナ様が何を考えているのか、わからないときがある。
まず、今のこの状況だ。
この状況を望んだのは、アンナ様自身だった。
会ってみたいの!と言って、若旦那様にお願いして、この面会に至っている。
それにしても、この甘ったるい香水をふんだんにつけた目の前の女は、アンナ様に対してなんて無礼なのだろう?
上位者に対して挨拶1つまともにできないこの女は、貴族としてあるまじき行為をしている。
アンナ様が、それを笑ってやり過ごしているのだ。
そんな屈辱、私は、許せない!
アンナ様が笑ってやり過ごしているのに、侍従に過ぎない私が、何か意見を言うわけにはいかない。
押し黙るしかないのが、歯痒くて悔しくてしかたがない。
私は、ただただ、両方の拳をギュっと握って、この不快な時間が、早急に過ぎることを祈るしかない。
若旦那様は、と視線をむけると、アンナ様の方を気にしながらあの女に会いたかったとほざいている。
私は、そんな若旦那様に、心の底から殺意が起こった。
どうして、アンナ様の魅力がわからないのだろうか?
大旦那様や大奥様にとても大事にされているアンナ様を前に、下品で、物の知らない年増の女など、必要なのだろうか?
若旦那様自身も、アンナ様をとても大事にしているのにかかわらず、今口に出して言った言葉をアンナ様の前で言うことが口惜しくてたまらない。
この女が、旦那様の第二夫人となるだなんて、本当にふざけた話である。
アンナ様とは雲泥の差である身分に加え、さも、自分の方が上位者であるかのような振る舞いに、見ているだけでも嫌気がさしてくる。
こんな女に仕えたいというものの気が知れない。
むしろ、頭のオカシイ侍従だから、仕えられるのであろうと、私は勝手に納得する。
たった数分、同じ空間いいるだけで、あの女は、ひたすらアンナ様への暴言が多い。
それにしても、さっきまで笑って過ごしていたアンナ様も、だんだん嫌味を言うようになってきた。
余裕があるように思っていたが、この澱んだ空気に体調でも悪くなってきたのだろうか?
そっと、立っている位置を変え、表情が見える場所に移動した。
明らかに顔色がよくない。
この強すぎる香水に酔っているのだろう。
元々、アンナ様は、きつい香水を好まない。
ふわっと香る程度のものを好み、華のような華やかな香りで人々を引き付ける。
アンナ様の周りに人が集まるのは、華に蝶が集まが如くだといつも思っていた。
「でも、2度と公爵家本宅の敷居は、ソフィアにはまたがせない!
ディル、そのように手配しなさい!
このものは、今後一切、立ち入りを禁止します。
このものに準ずるものも含めです。
公爵様に望まれたのは、私。ソフィア、あなたではないわ!」
あの女に、次期公爵夫人として、あなたが格下だと宣言している。
さすが、私のアンナ様だ。
唇を噛み悔しそうにしているあの女の姿を見て、私の気分も、晴れていくようだった。
部屋から早々に出た瞬間、大きく息を吸いなおしている。
「デリア、お風呂入りたい……デリアも入ったほうがいいよ……」
アンナ様は、部屋には寄らず、そのままお風呂に向かおうとする。
体中をふんふんと匂いを嗅いでいるアンナ様は、うぅ……と嘆いている。
服にも髪にも香水の匂いがついたようで、ものすごい嫌悪感を表している。
後ろからついて歩いていても、アンナ様のいつもの優しい香りではなく、どぎつい甘ったるい匂いがしてくる。
お風呂へそそくさと歩いていると、筆頭執事のディルが私達の後を追いかけてきた。
「アンナリーゼ様!
旦那様にも、先ほどのお話をさせていただこうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、いいわ。
お義父様もお義母様もジョージア様と結婚したらもう戻ってこないとおっしゃっていたので、
ソフィアの居住については、別宅に部屋を用意したいとお願いしてみてくれる?」
「えぇ、それは、構いません。あの……大丈夫でしたか?」
ディルがアンナ様を案じていることに少し安堵する。
筆頭執事からの好感は、そのまま屋敷での評価となる。
アンナ様は、この屋敷で受け入れられている証拠だということである。
「ソフィアのこと?大丈夫ですよ!
私、これでもいろいろな悪意にもさらされてきてますから、あれくらいなんともないです。
それより、気にしてくれてありがとう。
デリアも、ありがとう!」
「「滅相もございません」」
「アンナリーゼ様にご不快な思いをさせてしまって……大変申し訳なく思います……」
「気にしないで頂戴。
それより、ジョージア様のフォローもしてあげてね!ディル」
ディルは、アンナ様の命に従い若旦那様の元へ帰っていく。
その後ろを見つめ、若旦那様に付き従わないといけないって大変ね……と心の中で呟き、その後ろ姿を見送った。
「デリア!入念に洗って!」
お風呂に入って、まず、最初に言ったアンナ様の言葉に私は力強く頷く。
髪から始まり、一つ一つ丁寧に洗いあげていく。
今日は、私も一緒にお風呂へ入ることになっているので、いつもよりお湯をたっぷり使って磨き上げていく。
アンナ様は、女性にしては背が高い。
それでいて、手足もすらっと長く伸びている。
ただ、骨皮というわけでもなく、女性らしくつくべきところには、丸みをおんでいる。
裸にすればわかるが、体の均整がとれたとても美しい体つきをしているのだ。
肌は玉のようにすべすべしていて、白く、手で触れば吸い付くようなもちっとしている。
女性から見ても、とても羨ましくなるほどである。
「先にお湯につかってください」
アンナの体を洗い終わったため、冷える前に湯船につかってもらう。
温かいお湯につかったからか、顔がほんのり赤くなり、年齢より少し幼く見える。
ふぅ……と息をついて、湯船のお湯を堪能しているかと思ったら、こちらに寄ってきてじっくり私の体を見ているようだ。
「あ……アンナ様?あまり見ないでください!」
「デリアってさ……大きいよね……?」
自分の胸を見ながら、私の方を見て比べている。
「アンナ様は、先ほどのことを気にされているのですか?」
「…………うぅん…………そんなことないよ!」
間があったということは、気にしているのだろう……
そんなの全く気にする必要もないのに。
どこをどう見ても、よく目に見たとしても、アンナ様の方が、あの女より勝っている。
これほど、美しい体をもってしても悩むのか……と思うと、少し笑ってしまった。
お湯をざぶんとかぶり、私もアンナ様と一緒の湯船につかる。
当主用の湯船は、大きいのでアンナ様と2人で入ったとしても、広々だった。
「デリア……」
私にピタッと肌を寄せ、甘えるアンナ様。
初めてのことにどきまぎしてしまった。
それでも、平静を気取り、ニッコリ笑顔を向けると、へらっと笑い返してくる。
いつも強く気を持っているアンナ様も、たまには、緩めているのだろう。
「アンナ様、私が申し上げるのもなんですが……
アンナ様は、女性として、とても魅力的な方ですよ!
あのお……ソフィア様のいうような下賤なことは、気になさらなくて大丈夫です。
若旦那様も、アンナ様の全てをお気に召していらっしゃるのですから、そんな顔
なさらなくてもいいのです!」
「うん……でも、なんか……ねぇ?
ちょっと、自信無くすわ……あんなに胸を押し付けられているジョージア様を見ると」
「それなら、デリアにお任せください!
お湯からでてから、スペシャルマッサージをして差し上げますわ!
アンナ様を磨くのは、私の楽しみでもありますし、アンナ様が少しでも自信が
持てるよう念入りにさせていただきます!」
「ありがとう、デリア!!」
私に抱きつくアンナ様は、年相応の恋に悩める女の子だ。
どこに出しても、恥ずかしくないこの方を悩ませる若旦那様の見る目のなさに、多少のイラつきを感じながら、私に甘えてくるアンナ様が可愛く見え、より一層ピッカピカに磨きあげるのであった。
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本編のハニーローズも読んでいただけると嬉しいです!




