赤い涙
公世子様からの招待で久しぶりに城にやってきた。
正直、あまり乗り気ではない。
うまく言っていると報告を受けている領地運営が、思うほど手応えもなく税収も減っている。
なのに支出はどんどん増えていき、生活を切り詰めないといけない状況になってきた。
夜も眠れないほど考えているのに、打開策が一向に思いつかない。
過去のやり方を見て指示をしても、回復傾向にはならずなんとも言えない状況だった。
そういえば、いつからアンバー領に行ってないのだろう?
領地の管理は、トーマスという管理者に任せっきりだったことを思う。
アンナに、いつか連れて行ってくださいねと言われていたのに、それすら叶わないでいる。
父と話したが、義父の治めているフレイゼン領は、とても綺麗な街並みで人も街も活気付いていると聞いている。
そして、学都と呼ばれているらしくたくさんの学者が集まっているところだそうだ。
そんな話を聞けば、アンバー領は、廃れていた。
町も人も……アンナに見せるのも恥ずかしいくらいに……
でも、アンナは、きっとそれを見たとしたら、改善策を次々打ち立てていくだろうと思える。
あの行動力と発想は見習うべきだと常々思っていたし、もっと領地運営に関わってもらえるようにしたかった。
アンナがいれば、領地は、輝きを取り戻せるのではないかとすら思っていた。
別居を余儀なくされている今では、叶わない願いだ……
そんなこんなで、揺られてついた先で、馬車から降りる。
御者に明日の朝迎えにくるよう伝えると帰っていった。
「よぉー!ジョージア!」
「公世子様、お久しぶりです」
部屋に通され、待っていたと公世子が迎え入れてくれる。
いつもなら、軽口のひとつでも言えそうなものだが、そんな気分にはどうしてもなれなかった。
「浮かない顔してるな……
一杯やろうと思って呼んだんだ!
今だけは、そんな顔するな!」
そんな顔と言われても、疲れているのだから仕方ない。
「まぁ、座れ!
今日は、いい酒が何本か入ってきたからな!
是非、飲んでもらいたいんだ!」
「そんな気分じゃないですよ……」
「あぁ、アンナリーゼと別居してるんだっけ?
そろそろ、アンナリーゼを渡す気なったか?」
そう言って悪ふざけを言ってくる公世子。
秘密にしていたはずなのに、一体どこから別居しているのが漏れたのだろうか?
どうせソフィアからダドリー男爵経由で噂が広まり知ったのだろう。
「アンナは、僕の妻ですから、渡す気なんてありませんよ!
別居は、ダドリー男爵からですか?」
「ん?別居してるのは、アンナリーゼから直接聞いたぞ?
この前、俺の近衛を決める武術大会をしたときに話した。
そうそう、優勝はアンナリーゼがしてったよ!
欲しいのもをさっさとかっさらってった」
そう言って笑う公世子。
アンナの欲しいものなら、俺も何でも買い与えてやれる。
なのに、アンナは、何も欲しがらないのだ。
何が欲しかったのか、興味が湧いたと同時にそれを言ってもらえない歯痒さを感じ奥歯を噛み締めた。
「欲しいものですか……?
公爵家なら、何も言わずと手に入るでしょうに……
公世子様を頼るなど……」
「いや、俺が許可しないと手に入らない!
持っていった景品は、近衛中隊長のウィル・サーラーと文官のセバスチャン・トライド
だからな」
「は?
何故、その二人なのです?確か、アンナの友人だったはずですが……」
「わからぬ。
欲しいと言ったから、やったまでだ」
「欲しいからって、その二人にも人生設計があるでしょうに。
アンナのわがままで……」
俺は、気の毒そうにその二人に対して申し訳なさも含めてため息をつく。
「そうでも無さそうだぞ?
二人ともアンナリーゼが望むなら、他に欲しいものはいらないと言うんだ。
不思議なことだと思わないか?」
そんなこと言われても、わからなかった。
あの二人は、たしかにアンナといつも連んでいたのは、知っていた。
なのに……まず、武術大会で優勝するって、産後だよな?
一体何が起こっているんだ……痛い頭をさらに抱えたくなった。
「いい反応するな!」
「からかわないでください!」
「からかってないぞ?今の反応は、俺もしたから。
妃にならないかって言ったら、また、断られた。
かと思ったら、この男あの男が欲しいだぞ?
俺をなんだと思っているのか……」
徐に立ってグラスと酒瓶を、2本持ってくる。
「珍しい酒だ。
昨日開けて飲んだら美味かったから、一緒にどうかと思ってな!」
「いえ……」
「ただ酒だ、まぁ、飲め!」
グラスに注がれた酒は、赤かった。
そして、甘い香りのような酸っぱいような匂いがしてのどが欲する。
「葡萄酒だ。呑んでみろ!」
公世子に薦められたので、一口飲んでみる。
飲んだことのない酒であった。
葡萄の甘味と渋み、酸味がうまくマッチしており飲みやすい上においしい。
「赤い涙という葡萄酒だ。
うまいだろ?
アンバー領地特産品だそうだ!」
「アンバー領?こんな酒は聞いた事も飲んだこどないです」
傾けたグラスを揺らすと波打つ。
そこから、芳醇な葡萄酒の匂いがたつ。
公世子は、大層気に入っているらしい。
グラスをゆっくり回して匂いを楽しみながら飲んでいた。
「公世子様、この葡萄酒はどこから手に入れたのです?」
待ってましたと公世子がこちらに身を乗り出してくる。
「それを聞いてもらうために呼んだんだ!やっとか……」
公世子がやたらニヤつく。
そして、そういう顔をするときは、だいたいいたずらをしたときだ。
今度は、何をしたんだろうか、公世子の言葉を待つ。
やけに勿体ぶるな……
座り直し、公世子は未だ葡萄酒の入ったグラスをクルクルと回している。
「俺に今年からついた近衛がいる。
エリックという庶民の近衛だ」
「はぁ……それが……」
「まぁ、そういう顔するな!
聞いて欲しいんだよ!ジョージアに」
とても自分に酔いしれた公世子の話を聞きたい気分ではないが、仕方ないので黙って聞くことにした。
話半分、耳を傾けた。
「その庶民がどうしたのです?」
「アンナリーゼ杯で優秀な成績をおさめたから登用したんだがな、なかなかおもしろい
やつでな!
中隊長ウィル・サーラーの一番弟子だそうだ」
「はいはい」
「そして、そのウィルに育てるよう言ったのがアンナリーゼだ」
「はいは……い?」
「それでな、その杯をの優勝したアンナリーゼがいうに、ウィルは、10年に1度の逸材
ですけど、エリックは100年に1度の天才なんで、そばに置いてあげてくださいと
いうんだ……
まぁ、順当にいくと準優勝したウィルを側に置くことになっていたから、嘘も方便なの
かもしれないけどな。
まぁ、確かにアンナリーゼに肉薄できるやつは珍しいからな!」
耳を疑った……
アンナが公世子様に推薦した?
いや、それよりも……エリックとは……?
混乱、極めてくる。
「で、だな。
そのエリックが、中隊の演習から帰ってきたから挨拶しにきたんだけど、手紙を
預かってきた」
「誰からです?まさか、アンナですか?」
「そのまさかだよ!一昨日会ったばかりだ。
しかも、両手に葡萄酒をぶら下げて持ってきて、とっても美味しから、飲んで
ください!2本は、タダで差し上げるので、アンバー領の葡萄酒を他の方にも
勧めてください!
そして、今なら、その葡萄酒より高いものが手に入るチャンスです!
限定50本!
もちろん他の人にも勧めますから……無くなったらごめんなさいね!
おほほほほ……てな具合で、30本買わされた」
公世子様は、大笑いだ。
聞いてるこっちは、肝が冷えたのと同時にアンナの行動に驚かされた。
「公世子様、アンナの無礼申し訳なく……」
「いや、ジョージア、それは違うぞ?
アンナリーゼには、俺がそれを許可している。
あんなおもしろい女、この世に二人といまい!
散々、妃にと言っているんだがな……
ジョージアの子どもを含めて引き取りたいくらいだ!」
俺は、言葉に詰まる。
アンナを大事にできていない自分が、自分のものだと言えるのだろうか……と。
戻れない理由があるにしろ、公世子にそれほど望まれているのに。
「そなたら、同じ顔をするんだな!
それは、それで妬けるぞ!」
公世子の顔を見つめ返す。
「そっくりだな。
アンナリーゼにもジョージアの子にも。
それと、ジョージア様には、お酒持ってきたことは内緒ですからね!だそうだ。
どうせ筒抜けになるのはわかった上で言ってるのだろうけどな。
ほっといたら、何し始めるかわからんぞ?
まぁ、おもしろいから何でも協力するといってあるがな!」
公世子は訳知り顔でこちらを見てくる。
何か他にも知っているのだろうか?
まず、公世子が手放しでほめる人間をそれほど知らなかった……
アンナは、名前がたびたび上がってくるということは、該当する程優秀だということだ。
「1度、領地に行ってみるといい。
ジョージアの知らぬアンバーが観れるかもしれぬぞ!」
そのあとは、一切この話を蒸し返すことはなかった。
ただ、うまい葡萄酒を、二人で5本開けるまで飲み明かした。
アンナ……君は一体何をしようとしているんだい?
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