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ハニーローズ - 君想 -   作者: 悠月 星花
ジョージアの場合

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17/27

募る想い

 アンナが産気づいたとき、俺はひたすら廊下でウロウロとするしかなかった。

 部屋に入ろうとして、デリアに叱られたからだ。



 アンナの周りはいつも騒がしいが、今日は、アンナ本人が叫んでいる。

 こればっかりは、俺が替わってやることも出来ないし、痛みに耐えてもらうしかない。

 何も出来ずにいるのが歯痒く、アンナの部屋の前で情けなく歩くだけであった。




 少し、陣痛がおさまったときに、アンナと話をすることができた。

 すでに疲れた顔をしているアンナの背中や腰のあたりを撫でてあげることしかできないが、

 アンナの顔が少し落ち着いていく。

 いつも元気なアンナが、今日は気だるげで可哀想に思えてくる。

 話をしているうちにまた、陣痛がきたようで痛いと騒ぎはじめる。




 握っていたアンナの手を勢いよく振り払われてしまった……




 すると、デリアにまた、追い出されてしまいまた廊下で佇むしかない。

 アンナの叫び声を聞きながら……




 ヨハンもお呼びでないと追い出されたらしく、部屋から出てきた。




「ジョージア様、お産は時間がかかりますから、執務室で待っていたらどうですか?

 アンナリーゼ様、あの様子なら、難産かもしれませんね?」

「そ……それは、アンナは、大丈夫なのか?

 子どもも……」

「それは、わかりませんよ。

 出産は、まさに命懸けですからね。

 男の俺たちには、わかりかねる事項ですから、不思議ですよね」




 ヨハンは、廊下の地べたに座り始める。

 それをみて、俺も座ろうかなやんだが、立ったままにした。




「ヨハン、アンナは大丈夫だろうか?」

「絶対とは言えません。

 なんせ、あのお嬢さんのことだ。

 やると決めたことはきちんとする方だから、大丈夫ですよ。

 俺もなんかあった場合のためにここにいますから」

「そうか……

 生まれたら、呼んでくれるか?

 少し仕事を……できるのか……?」

「してきてください。アンナリーゼ様に執務してないと叱られますよ!」




 ヨハンにまで、アンナに執務をほったらからしにしたら叱られると言われるようになったのか……

 アンナがすっかりこの屋敷を切り盛りする、アンバー公爵夫人なんだなと実感させられる。




「では、戻る。

 アンナを頼んだ!」

「かしこまりました」





 俺は、アンナの部屋から踵を返し執務室へ向かう。

 といっても、ここからなら近いのだ。



 心配しながら、ホテホテと歩いていると、別宅の執事が執務室の前まで来ていた。

 ソフィアに関する人間は、この屋敷に入ることすら許されていないのだが、アンナの出産で屋敷全体が忙しくしているため、この者に気づかなかったのだろう。




 俺は、この男が苦手だった。

 蛇のようなヌルっとした人間なのだ。




「ジョージア様、ソフィア様が産気つかれました。

 どうぞ、別宅にきてください!」

「いや、今、アンナも産気ついているのだ。

 ソフィアの元にはいけぬ!」




 俺は、もちろん行きたい気持ちもあったが、何よりアンナが心配で、動く気にならなかった。




「ソフィア様は、大層苦しんでジョージア様をうわ言のように呼んでらっしゃいます。

 少しだけでも顔を見せて安心させていただかないと、とても出産できそうにありません。

 母子ともに危なくなるのです!

 どうか、別宅へお越し下さい」




 母子ともに危ないと言われれば、いかないわけには……




「わかった。ソフィアの顔を少し見に行くだけだ。

 アンナの方も気になるから……」

「それで構いません」




 俺は、促されるがまま別宅に向かった。




 陣痛がおさまっているのか、ソフィアは、お菓子を食べながら侍女たちと談笑している。

 なんだか、場違いの気がして、アンナのところに戻ろうとしたときソフィアに見つかり、腕を取られてしまう。




「ジョージア!

 来てくれたのね!

 陣痛がとっても痛くて苦しいの。

 生まれるまでずぅーっと側で見守ってて!!

 じゃないと、私、死んでしまうわ!」



 ソフィアに死ぬと言われ、ドキッとした。

 ヨハンが、出産は命懸けだと言っていたからだ。

 アンナは、大丈夫だろうか?気がかりで仕方がなかったが、目の前のソフィアは俺から離れない。



 すると、陣痛がきたのか、うずくまる。

 そのまま、俺は、ソフィアを抱えベッドに連れて行く。

 追い出されるかと思ったら、ソフィアが完全に俺の手を離さないでいたため、どこにも行くことができない。



 出産を控えているのに、今、その手を振り解くことをためらった。




「行かないで!

 側にいて!」




 ソフィアの握った手に力が入って行く。

 この小さな体のどこにそんな力があったのか、とてつもない握力で握ってくる。




 2時間ほどで、ソフィアは、無事男の子を出産した。





 俺は、1番最初に抱かせてもらった。

 小さな体に、小さな手足。

 生まれたばかりで、しわくちゃの顔をしていて、とてもかわいいとは言えない。

 でも、愛おしいと思えた。



 くたっとしているソフィアに赤ちゃんを見せると、微笑んでいる。

 今まで見たことのない、優しい笑顔であった。



 ソフィアにそんな顔させたことなかったな……と、反省する。




「旦那様、乳母にお渡ししますので、こちらにお子を」




 ソフィアの侍女が、子どもを乳母に預けている。




 いまは、ソフィアは、体を清めているところだ。

 体がだるいのか、実にめんどくさそうに、メイドたちに当たっている。

 いつもの光景ではある。



 アンナなら、ありがとうと言いながら、きっと、メイドたちを褒めたりするのになと考えていた。

 そうだ!アンナの出産はまだだろうか?

 帰らないと!と思ったが、そこでまた、ソフィアに呼び止められる。




「ジョージア、あなた、まさか、あの小娘のところに向かうつもり?

 私、あなたの子どもを産んだのよ?

 ここにいるべきじゃないかしら?」




 そう言って腕を取りはなさい。




「行っても構わないわ!

 行ったら、私とあの子は、死ぬわよ!」

「な……何を言っている?」

「あの子を殺して私も死ぬわ!

 ジョージアさえ、ここにいてくれればいいのよ!」




 チャポンっと揺れる小瓶を取り出すソフィア。

 それがなんなのか、検討はついた。

 毒だろう。



 俺は、そこから動けなくなった。




「ジョージア!

 私のジョージア!!

 あの子の名前を付けないといけないわ!

 何か考えていて?」




 そう、甘えた声でねだられる。

 ソフィアのその甘えた声さえ、今は、ゾッとさせられる。




 子供の名前は、何も思いつかなかった……



 アンナとの子どもには、沢山の候補が浮かび上がりその中で2人の名前、もしくは、アンナから、名前をとったりと考えると楽しみがあった。



 ソフィアの子は、男の子だという。

 安直に自分の名前から取ってしまおう。




「ジョージでどうだろう?」

「ジョージ?

 いいわね!

 その子の名前は、ジョージよ!

 みんなよろしくね!」




 ソフィアは、満面の笑みで、みんなにジョージと名前の付いた子の世話を頼んでいる。




 ジョージに触れることもなく、ソフィアは、俺にしがみついたままだった。




 逃がさないとばかりに、そばから離れない。





 アンナは、こんな情けない俺のことをどう思っているのだろうか?

 いつものように笑って、仕方ないですねって言ってくれるだろうか?

 アンナに……会いたい……会いたい!会いたい!!会いたい!!!



 ギュっと俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい。

 あたたかなアンナは、微笑みながら抱きしめ返してくれるだろう。



 すぐに会える距離なのに、ずっと遠くにいるようだった。



 月に1度、ディルが本宅の経費についての報告書を持ってくるが、あの別宅の執事がいる前で、アンナのことは一言も言えずにいた。



 子供が生まれる前までしかしらないのである。

 子供のことすら知らないでいる。

 死産であったのではないかという噂まで聞こえてきている。

 アンナは、大丈夫なのだろうか?

 いや、きっと、アンナは強いから大丈夫だろう。



 ソフィアから離れようとすれば、服毒を連想させることを言われ、縛りつけられる。

 どこにもいけなくなり、それからは、別宅で、ジョージの成長を側で見守ることになったのである。




 アンナへの募る想いだけが、俺の中に錘のように積もっていく。

 どうすることもできない感情が、燻り続けていくのであった。

アンナとソフィアの出産のときの話です。

ジョージアが本宅に帰ってこなくなったお話。


本編のハニーローズもよろしくお願いします。

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