第二の婚約者
卒業式の4日前くらいの話です
「公から召喚命令があった。
ジョージアも明日一緒に登城するよう」
父から公の召喚状を見せられ、読んでいる。
「これは、私の予測だが、トワイスとの集団政略結婚の話だろう。
その打診があるんじゃないかと思っている」
「なっ!
それは、父上から断れないのですか!」
俺は、最近、やっとダドリー男爵家のソフィアとの婚約を許されたばかりだったのだ。
なのに、どういうわけか、政略結婚?
いったい、父は何を考えているのだろうか。
「そのつもりはない。
断りたいなら自分で断るがよい。
ただし、断れば、私からの支援はないと思え!
内々にもらっている情報では、その令嬢が、公世子との結婚を断って、
そなたとの結婚を望んだのだ!
断れば、公との関係も溝が入ると思うことだな」
そんなバカなことってあるのだろうか?
公世子との結婚となれば、公国の公妃となれ、皆に羨望される。
一公爵家の俺との結婚を望むとは、一体どんなバカなのだろう。
男爵とソフィアからの重い圧力受け、1年かけてやっとこっちは、両親に渋々許され、ソフィアとの婚約が決まりホッとしてたところなのにだ。
なのに、いきなり別のものと婚約?
そんなの、断りたいに決まっている!
しかし、この婚約を断れば、父上からの支援はなし……
そんなバカなこと言い始めたのは一体誰なんだ!
頭を抱えたくなった。
まさかな……
頭によぎったのは、ストロベリーピンクのふわふわした髪の女の子だった。
絶対、手に入らないと思っている。
ちょっと、夢見てしまう自分に嫌気がさしたが、忘れるはずもない。
今まで、あんなに惹かれたモノはなかった。
俺は、子供のころから、冷めたところがあった。
言われるがまま、ただただ流されるように生きてきたのだ。
いい例が、ソフィアとの婚約だ。
幼い頃から、ソフィアに好かれ、少し話しただけで令嬢は二度と話せなくなる。
他のものと交流することを諦めてしまった。
お茶会も夜会も招待状をもらってもどうしても行かないといけないものだけに行き、
後は断っている。
行ったとしても、壁の花だ。
そんなときに、学園でそれまで交流もなかったトワイス国のサシャに話しかけられたことは今でも覚えているし、その会話中にぴょこっと話しかけてきた女の子のことは、今でも鮮明に覚えている。
『自由奔放』
まさに言葉通りの女の子であった。
入学後は、学園で噂を聞かない日は一日もなかったし、兄であるサシャも呼び出されてはあちこちと奔走させられていた。
武術も剣術も達者で、今年の近衛選抜1位の者でも負かすと聞いている。
彼女には、想い人がいた。
同じ国の宰相の息子、ヘンリー・クリス・サンストーン。
出会った日に一緒にいた男の子だ。
ただし、第一王子にも王太子妃に望まれているとも言われていた。
だから、てっきりどっちかと婚約すると思っていた。
それに、サシャと今でもやり取りをしているが、アンナの婚約の話は、一切何も言ってこない。
だから、夢見てしまう。
でも、去年の卒業式に諦めたのだ。
この懐中時計が、唯一の想い出であり、心残りだ。
隣にいるのが、アンナなら……と。
「アンナなら……」
俺が呟いたのが聞こえていたらしい。
両親は、顔を見合わせ微笑みあっている。
ただ、思考にふけって両親の方を見ていなかった俺にはその光景は目にしていなかった。
「わかりました。
明日、お話を伺ってから、答えさせていただきます」
「くれぐれも選択を間違えぬよう頼む」
「はい。父上、公爵家にとっていい選択ができるよう努めます。
ところで、明日は、母上も行かれるのですか?」
「私にも召喚命令が下っているの。
家族でどうするか考えなさいと公のはからいのようね。
私は、この婚約、ジョージアには悪いけど、進めてほしいと思っているわ……」
両親ともに、ソフィアとの婚約について、渋々許可はしてくれたが、いいと思ってくれていない。
第一夫人には、別の者をと思っているのだ。
もしかしたら。今回の政略結婚は、第一夫人に相応しい人物が名乗りをあげたのかもしれない。
なんせ、両親ともが乗り気なのだ。
俺だけが、乗り気じゃないのが、むしろ、申し訳なく思えるくらいだった。
両親は、誰が名乗りあげたバカな者なのか知っているのではないか……
そう結論づけるには、両親の態度はわかりやすかった。
翌日、公の召喚により親子3人で登城し、謁見する。
「公の召喚により参上しました、アンバー以下2名です。
「よく来てくれた。
そなたが、ジョージアか……
あの娘は、こういうのが好みなのか……
見た目もアンバーそっくりじゃな。
うちの息子も負けてはいないと思うのだが……」
公は、俺の顔を見るなり、ブツブツと独り言を言い始めた。
友人である父が、わざとらしくコホンと咳払いすると公は、あぁ……と話を戻すようだ。
「早速なのだが……
ジョージアよ。そなたに縁談だ。
まだ、そちは、婚約者が決まったと『発表』していないな?」
「はい。まだです。
しかし、もうすぐまとまる予定です」
「そうか……
ただな、今回は、断ってもらっては困る相手なのだ。
アンバーにはすでに伝えてあってな。
向こうの令嬢は、わしの息子をと思っておっったが、断りよった。
しかも、単身トワイスよりローズディアに来てまでだ。
そして、そなたを指名した。
それが、どういうことかわかるか?」
わかるに決まっている。
これでも貴族の筆頭であるのだから……
公の話を聞けば聞くほど、そんな荒業を成せる令嬢は一人しか思いつかなかった。
「公がおっしゃりたいことはわかっております。
ただ、決まりかけている縁談もありますゆえ、どうしたものかと……」
「第二夫人でよかろう。
そなたが決めた縁談より、身分はかなり上だ!」
それで、納得するのだろうか……
あの男爵とソフィアが……
「あの、その令嬢は、どちらの令嬢でしょうか?」
「あぁ、まだ伝えておらなんだな。
フレイゼン侯爵家のアンナリーゼだ」
予想通りの人物の名前が出た。
諦めていた人物の名前が出たのだ。
相手の名を言われた瞬間、俺は公に対して宣言することになる。
「謹んでお受けします!」
ふっはっはっはっ!
公は笑い始める。
父もホッとしているようだし、母は目に涙を浮かべ喜んでいるように見える。
「そなたも、アンナリーゼに誑し込まれた口か!」
「た……誑し込まれた?」
「あぁ、あの者は、どこにいても目立つだろ?
それだけ人を引き付ける。
母親も社交界の華と呼ばれているらしいがな、それ以上の逸材だ。
3国の王室が臨んだという話は知らぬだろうな」
3国の王室が……?
トワイス国の第一王子は、アンナの隣に常にいた。
ローズディアは、卒業していたのにどこかから情報を得たのだろうか?
そして、エルドアだ。
アンナと交流があるとは、とても思えない……
それほどの人材が、本当に公爵家でいいのだろうか……
不安はよぎったが、そんな中でも浮かぶのは、トワイス国の宰相子息ヘンリーだ。
アンナは、誰よりもヘンリーを側に置いていた。
二人の雰囲気は、すでに恋人だと言っても不思議ではないくらいお互いの好意がわかった。
「なぜ、私なのでしょう?」
「それをわしに聞くのか?
そういえば、この前来たときに一目惚れしたというておったぞ?
身に覚えないのか?」
全くない……
ヘンリーがいる限り、誰も勝てないだろう。
だから、不思議だと思った。
「そうだ、一応、ダドリーは、面倒な男だ。
わしが政略結婚を押し付けたという話にしておくので、第二夫人については
そのまま娶ってもいいぞ。
アンナリーゼもいいと言っていたし」
「はっ?」
思わず上位のものと話しているということを忘れてしまう。
第二夫人……いいわけ?
アンナリーゼという人物は、やはり、俺にとって、不思議な人間だ。
「アンナリーゼという人物が、わかりません」
「『赤薔薇』をとったそなたでもそうか……
わしなど、もう、理解することを諦めたぞ!
ただ、あの人材は欲しい。
ここだけの話、あの小娘が兄の婚約者を決めるためだけに伯爵家を没落させた
っていう噂もあるのだ。
そなたに、手綱は任せる。
あのじゃじゃ馬を上手に導いてくれ……」
「喜んでお受けします。
私で、役立つとは思いませんが、大切にしたいとおもいます」
「よろしく頼む!」
公との謁見が終わり、自宅に帰る。
両親は、ホクホクだ。
明日にも、この婚約が、発表される。
そういえば、今年、アンナリーゼは卒業式誰とでるのだろう……




